作品一覧 2017/02/24更新 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 試し読み フォロー 時を刻む湖 試し読み フォロー 1~2件目 / 2件<<<1・・・・・・・・・>>> 中川毅の作品をすべて見る
ユーザーレビュー 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 中川毅 あつかうテーマの壮大さ、面白さ、さらに読みやすさから、全ての人にお勧めしたい2017年発行のブルーバックスの1冊です。 本書があつかうのは古気候学。有史以前の気候変動を解明する研究で、基本的には地質学の一分野。解明する手段としては、放射性炭素法、花粉分析、年輪年代学などがありますが、本書が主題とす...続きを読むるのは福井県にある水月湖の「年縞」です。 年縞とは、湖底などの堆積物によってできた縞模様のこと。 水月湖の底には、7万年以上の歳月をかけて積み重なった年縞があり、いくつかの奇跡が重なってできた世界的に珍しい貴重なもので、考古学や地質学における年代測定の「世界標準」になっています。 縞模様は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成され、春から秋にかけては土やプランクトンの死がいなどの有機物による暗い層が、晩秋から冬にかけては、湖水からでる鉄分や大陸からの黄砂などの粘土鉱物等によりできた明るい層が1年をかけ平均0.7mmの厚さで形成されます。したがい、年縞に含まれる花粉の化石を調べれば、当時の植物分布がわかるし、現在の表層花粉と比較分析すれば当時の気温も推定できることになります。 著者の中川毅さんは立命館大学古気候学研究センター長。水月湖底の年縞を世界標準にしたプロジェクトのリーダーであり、「時を刻む湖」(岩波科学ライブラリー)の著書もあります。 地球は365.25日かけて公転しますが、その軌道はおよそ10万年の時間をかけて、円くなったり長細くなったりを繰り返します。一方、南極の氷に含まれる酸素と水素の同位体比から復元した、過去80万年の気候変動を見ると氷期と温暖期は10万年ごとにリズミカルに繰り返しています。大雑把に言えば、公転が円い時期は氷期であり、細長い時期は温暖期となります。 しかし、水月湖の湖底から見える風景はもっと複雑です。 ○氷期と間氷期が繰り返す中、人類誕生以来、その歴史の大半は氷期だった。 ○現代の温暖化予想は100年で最大5℃の上昇だが、今から1万1600年前、わずか数年で7℃にも及ぶ温暖化が起きていた。 ○東京がモスクワになるような、今より10℃も気温が低下した寒冷化の時代が繰り返し訪れていた。 ○温暖化と寒冷化のあいだで、海面水位は100メートル以上も変動した。 ○縄文時代の始まりは日本における温暖期の開始時期 ○平均気温が毎年激しく変わるほどの異常気象が何百年も続く時代があった。 ○氷期の終わりは世界的な農耕の拡大時期 ○夏の日射量が、中緯度の気候を左右する決定的な要因のひとつ。日射量は23,000年で一巡する歳差運動に影響する。夏の日射量が多い年は温暖となる さらに、「氷期が終わって気候が安定してから、今まですでに1万1600年もの年月が流れている。古気候学の知見によれば、過去3回の温暖な時代はいずれも、長くても数千年しか持続せずに終わりを迎えた。つまり今の温暖期は、すでに例外的に長く続いているのである」という恐ろしい見解もあります。 そして著者は「不測の事態を生き延びる知恵とは、時間をかけて『想定』し『対策』することではない。(中略)必要なのは、個人のレベルでは想定を超えて応用のきく柔軟な知恵とオリジナリティーであり、社会のレベルでは思いがけない才能をいつでも活躍させることのできる多様性と包容力である」と断言します。 とにかく面白いブルーバックスの科学読み物。老若男女全ての人にお勧めしたい本です。 Posted by ブクログ 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 中川毅 福井県の水月湖での研究結果から、過去の気候変動について解き明かす。そして未来がどうなっていくのかについて論じる。 いずれ寒冷期が来ると思う、生活は大変なことになるなあ。目先の温暖化ではなく、大きな時間の流れから物事を考えるための一冊です。 Posted by ブクログ 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 中川毅 気候変動を10万年単位で捉えるとどう見えるのか、今後どうなりそうか、わかりやすく解説されている。 温暖化が叫ばれて久しいが、10万年単位で見ると、現代は氷河期間の比較的安定した時期とのこと。すなわちまた氷河期に入る可能性があるようだ。 もちろん過度な温暖化に繋がらないようなアクションも必要だが、...続きを読む他方、近視眼的になりすぎず、冷静に気候変動を捉える必要性を感じた。 Posted by ブクログ 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 中川毅 いやー面白かったし、自分の教養が深まったと実感できる本。異常な温暖化が注目されるけど、今後注意すべきは氷期なんだね。 Posted by ブクログ 人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか 中川毅 1012 中川 毅 1968年、東京都生まれ。1992年、京都大学理学部卒業。1998年、エクス・マルセイユ第三大学(フランス)博士課程修了。Docteur en Sciences(理学博士)。国際日本文化研究センター助手、ニューカッスル大学(英国)教授などを経て、現在は立命館大学古気候学研究セン...続きを読むター長。専攻は古気候学、地質年代学。趣味はオリジナル実験機器の発明。主に年縞堆積物の花粉分析を通して、過去の気候変動の「タイミング」と「スピード」を解明することをめざしている。 温暖化をあつかった書籍は、ちょっと大きな書店であれば棚をひとつ占有するほどだし、温暖化の主犯格とされる二酸化炭素に対してある種の敵意を感じる人の数は、商業的にも無視できない水準に達している。そのため、たとえば国際的なハンバーガーショップが南米の緑化事業に貢献したり、ハリウッドの芸能人が速くてスタイリッシュなスポーツカーの代わりに、燃費のいい日本のハイブリッド車を選んだりする。これらはすべて、 20 年前には想像もつかなかった現象です。 むしろここで問題にしたいのは、「気候変動を止めよう」という目的設定のほうである。1980年代に数百万人の命を奪ったアフリカの干ばつは、当時は「異常気象」という言葉で表現されていた。気象が異常であるとはどういうことだろう。言い換えるなら、正常な気象とはいったい何だろう。 そこで次に、人間社会の話をいったん忘れて、地球の歴史を気候という視点から振り返ってみよう。 また、現代が大きな傾向の中ではむしろ寒冷な時代であることも見て取れる。現在は氷期が終わった後の温暖な時代であるが、それでも北極と南極には夏でも消えない氷が残っている。いっぽう、たとえば今から1億年前から7000万年前頃の地球は今よりはるかに暖かく、北極にも南極にもいわゆる 氷床 が存在しなかった。これは、IPCCが予測する100年後の地球よりもはるかに温暖な状態です。 生態学は、多様性と生産性を基本的には「是」であると考える傾向を持っている。そのどちらの視点から考えても、当時はむしろ「いい」時代だったように見える。 同様に、今からおよそ2億7000万年前から2億5000万年前頃もきわめて温暖な時代だった。地質学的にはペルム紀と呼ばれるこの時代、地球の平均気温は、温暖化の進んだ現代と比べても 10 ℃近く高かった。また世界中でシダ植物の大森林が繁茂し、巨大な昆虫類がその間を飛び回っていた。この時代もまた、生産性と多様性を価値とみなす生物学の視点では、豊かな時代だったと表現せざるをえる。 図1・4のもうひとつの特徴は、温暖な気候には限度があるということである。地球の温度は、極地の氷がなくなるほど温暖になることはある。しかし海の水が沸騰するほど極端な高温になることはない。何らかのメカニズムによって、温暖化には上限が設定されている。温暖化によって生態系が豊かになると、地球全体で光合成がさかんになり、空気中の二酸化炭素が減って温室効果が薄れることが原因だとする説もある。いわゆる「負のフィードバック」がかかった状態です。 地球の公転軌道と気候の間に関連があることを最初に指摘したのは、セルビアの地球物理学者ミルーティン・ミランコビッチだった。日本での知名度は高くないかもしれないが、祖国セルビアでは、肖像画が最高額紙幣に使われるほどの英雄です。 「二度あることは三度ある」と考えるのが、人間に深く染みついた「癖」のようなものであることはすでに指摘した。だが人間にはおそらくもうひとつの癖がある。それは、しばらく続いた傾向を将来にまで延長したがる傾向、つまり「これまで続いたことは今後も続く」と考えたがる傾向である(バブル期の投資家の典型的な心理である)。 10 万年スケールで繰り返す氷期、そして数十年スケールで見たときの持続する寒冷化、この2つの「観測事実」は当時の人々にとって、世界がすでに氷期の入り口に立っていると判断するのに十分な状況証拠に思える。 グラフが直感的に本物「らしく見える」という感覚をきわめて重視した人に、ポーランド生まれの数学者ブノワ・マンデルブロがいる。マンデルブロは、従来の数学が現実の世界を必ずしも適切に表現しないことに強い不満を感じている。 18 世紀の英国の造園家ウィリアム・ケントは、「自然は直線を嫌う」と指摘して、大陸ヨーロッパで主流だった幾何学的な庭園の様式を拒絶した(図2・8)。たしかに、自然の風景の中に単純な直線はめったに存在しない。単純な円や、単純な三角形を見ることもほとんどない。そのいっぽうで、直線や三角形、円といった単純な図形や、それらを記述する単純な数式は、中学校で真っ先に教わる数学の基本中の基本である。現実の風景と数学的な図形の間には、それだけ深刻な乖離があった。それは同時に、初等数学の学習者の多くが「これがいったい何の役に立つのか」と自問してしまいがちであることの本質的な原因にもなってる。 マンデルブロは、数学と現実の間にあるこのようなギャップに正面から立ち向かった。彼が創始した「フラクタル幾何学」と呼ばれる数学は、それまでの数学とは比べものにならないリアリティーで自然界を描写することができた。たとえば植物の葉っぱを表現するのに、楕円と直線を組み合わせるのは誰でも思いつく方法である(図2・9左)。そのように描かれた図形は、たしかに植物の葉っぱであることは理解できるが、その表現が自然の本質に迫るものであるかというと、答えはおそらくノーです。 そのような区分で言うと、ボール200個のモデルは、楕円と直線で描かれた葉っぱよりは、フラクタルが産み出す葉っぱのほうに近い手触りを持っていないだろうか。本書ではもう少しだけ、私のこの「感覚」に沿って話を進めてみたいと思う。ある種の複雑な系には安定相と周期相、および乱雑な相が存在し、それらが予測不可能なタイミングで急激に切り替わるということをとりあえず受け入れた場合、現実世界にはどういう意味があるのだろう。 また人がどのタイミングで大病を患うかも、私たちは基本的に予測する方法を持っていない(そんな予測ができるようになったら、私たちの人生観はずいぶん違ったものになるだろう)。 保険会社は人生のシナリオを描いて見せることに非常に 長けているが、シミュレーションと現実の間におそらく乖離があることも、私たちは心のどこかで本能的に理解している。株とか健康の話になったときに私たちが発揮する、そのような冷静さとか知恵のようなものを、気候変動について考える場合にも持つ必要があるようになる。 もっとも深遠な知恵の多くは、経験を通して培われる。健康マニアになるには、強迫観念と読書だけで足りる。しかし、複雑系の代表例である人体が、どんなに気をつけていても常に意のままになりはしないことを理解するには、ある程度の経験を重ねて大人になる必要がある。いっぽう、さまざまな気候変動をじっさいに経験しながら知恵を育てることは容易ではない。ほとんどの地質学的な事象に対して、平均的な人間の寿命は短すぎる。それでも万が一の場合に通用する「知恵」を養おうとするなら、過去にじっさいに起こった事象について、経験ではなく研究を通して学ぶ以外に方法はない。 400年は人間にとっては長い時間だが、地質学にとっては一瞬に近い。図3・1の右端に、グレーの細い帯がある。400年はちょうどこの帯の幅に相当する。私たちが「観測」してきた気候変動が、地球が持っているさまざまな顔の中ではごく一面にすぎないということを、この図から実感していただけるのではないかと思う。 グリーンランドの研究は、気候が時として本当に激変することを教えてくれた。とはいえ、グリーンランドは地球の中でもかなり特殊な場所である。 最後に、笑い話のような笑えない話が人間による 浚渫 である。湖は歴史的に、水運の大動脈になっている場合が多い。いっぽう、湖の底にはゆっくりと土が堆積する。つまり水深が浅くなっていく。浅くなりすぎて船の航行に支障を来すほどになると、経済活動を維持するために浚渫がおこなわれる。それによって水深は確保されるが、貴重な堆積物は永久に失われている。 湖底に酸素がなく、しかも流れ込む川がないことによって、水月湖には理想的な堆積物がたまる素地が整った。じつは理想的な堆積物は、肉眼で見ただけですぐにそれと知ることができる。湖底の酸素濃度を測る必要も、周辺の地形を見る必要もない。条件を満たした堆積物を縦に切ると、断面にきわめて細かい独特の縞模様が発達しているのである。水月湖の底から見つかった堆積物は、典型的にそのような縞模様を持っていた。 この縞模様の正体は、1年に1枚ずつたまる薄い地層である。日本のように四季が明瞭な地域であれば、湖の底にも季節によって違うものがたまる。湖底をかき乱す生物がいなければ、季節ごとの層は破壊されずに保存されて、美しい縞模様を作る。 じつは、水月湖の年縞が世界でいちばん「美しい」かというと、必ずしもそうとは限らない。たとえば明瞭な雨期と乾期を持つ中南米や、春先の雪解け水が青白い粘土を運んでくる北欧などでは、水月湖以上に鮮やかな年縞が見つかることがある。しかし、水月湖のように7万年も連続してたまった年縞は他に例がない。それは、ほとんどの湖が時間とともに浅くなり、やがて埋まってしまう運命だからである。 福井県南部の景勝地、水月湖の湖底の泥は、世界でも例のない奇跡の堆積物だった。自然が最高の材料を提供してくれている以上、人間がそれをぞんざいに扱って台無しにするわけにはいかない。最高の試料を手に入れて、前例のない密度で分析をおこなう必要がある。 過去の気候変動の様子は、どうすれば復元できるのだろう。答えのカギは、高校の地理の教科書にかならず載っている、1枚の地図が握っている(図5・1)。この地図を作ったのは、ロシア生まれのドイツ人地理学者、ヴラディーミル・ペーター・ケッペンである。ケッペンは、世界の気候を分かりやすく分類することをめざし、生涯をその研究のために捧げる。 この問題に画期的な解決をもたらしたのが、花粉分析と呼ばれる手法だった。すなわち、植物の葉っぱではなく花粉に注目するのである。花粉の直径は数十マイクロメートル程度のものが多く、葉っぱよりも格段に小さい。また花粉症の方はよくご存知だと思うが、とにかく大量にまき散らされる。スギの例では、1本の木が生産する花粉の量は数十億粒に達する。とくに風媒花の花粉は空中に長くとどまるため、森から遠く離れた場所であっても、1立方メートルの空気の中に数百粒もの花粉が飛んでいる場合がある。 花粉は、植物にとっては雄の生殖細胞である。つまり、遺伝情報を担うDNAを雌のところに届けることが、花粉に期待される使命である。ところでDNAは、乾燥や紫外線によって比較的容易に損傷を受ける。もともと水の中で進化した植物にとって、陸上は私たちが想像する以上に試練に満ちた場所なのだ。それでも遺伝情報を無事に送り届けるために、植物はDNAを安全に包み込むカプセルを発達させた。それが花粉である。 そのような理由で進化しただけあって、花粉の膜はきわめて堅牢な物質でできている。 この3人の活躍については、拙著『時を刻む湖』(岩波科学ライブラリー)で紹介しているので、もし興味があったら手に取ってみてほしい。彼らがこれから 20 年は研究の前線に立ち続けるのであれば、少なくともこの分野はしばらく安泰だと思うことができる、それほど才気にあふれた若者たちだった。 Posted by ブクログ 中川毅のレビューをもっと見る