中川毅のレビュー一覧
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地球の地軸が傾いていること、太陽の周りを楕円で回っていること、それは過去も未来も変わらないと思っていたら、違うらしい。
地軸の傾きは、倒れかけのコマのように動いている(歳差運動)。そして公転軌道も楕円だったり、まん丸に近づいたりと変化する(離心率)と。
そういう変化によって、地球の気候は大きく変動する。
その気候の変化を調べる方法が、年輪だったり、年縞(1年に1枚形成される薄い地層)だったり。
で、福井県の「水月湖」という湖の底には「奇跡の年縞堆積物」が沈んでいる。著者はその堆積物を調べながら過去の気候を分析していく。そんな本だった。
年縞の1枚1枚の層から、炭素量を見たり、花粉を解析したりして、過去の植物を推測→気候を推測できるらしい。気が遠くなるような作業だけど、ちょっと面白そうと思ったり。
以下メモ
・水月湖は、1年に7ミリ年縞が堆積する。
なぜ、埋まらないのか?→湖自体が、堆積する速度よりもわずかに早く沈降している。
・湖の底には酸素がないので、生物がいない。だから湖底の土がかき回されることなく堆積していく
・現在の安定の時代がいつまで続くのか、次の相転移がいつ起こるのかは、本質的に予測不可能である可能性が高い。だが、地球と太陽の位置関係が、力学の法則に従って変化を続ける限り、今と同じ状態が永遠に続くことはあり得ない。私たちはいつか、今と似ていない時代を生きなくてはならなくなる。ならば、過去に実際に存在していた今と似ていない時代に、人々がどのように暮らしていたかを考えることには意味がある。
・なぜ、狩猟採取生活から農耕を始めたのか。気候が安定して、安定して作物がとれるようになったから。
むしろ、気候が不安定な時期は、農耕するより、狩猟採取生活の方が、一定の食料を得ることができる。 -
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今年は年末年始「旅」無しなので、大晦日までレビュー続けます。
今年9月29日、福井県若狭湾水月湖岸にある年縞博物館にて購入した。縄文博物館の隣にあったので入ったのだけど、入場者が日本人よりも外国人の方が多い博物館は、ここが最初で最後である。それが、そのまま現代日本における「年縞」の位置付けを表していると思う。世界的に有名だけど、日本人には浸透していないのである。広辞苑にこの言葉が載ったのは2018年版からだという。本書は2017年刊行ではあるが、博物館の開館は2018年である。
私はこの新書に博物館解説図録的な役割を期待した。博物館には7万年の「年縞」が展示されているけれども、そのひとつ一つを詳しく解説してくれているのでは?
違っていた。どちらかといえば、年縞博物館序説とでも言うべき本だった。
年縞は、年輪のような湖の泥を保存することで、一年毎の正確な環境データを記録した年表を作ることができる。奇跡の水月湖の発見から、如何に年縞を取り出したのか、何がわかるのかを「科学的に」説明したのが本書である。
地質時代に「何が」起きたかだけではなく、それが「いつ」だったのかを世界最高の精度で知ることができる。タイミングが正確に分かるということは、変化のスピードや伝播の経路が正確に分かるということでもある。スピードと経路が分かれば、気候変動のメカニズムにまで切り込んで考察することができる。メカニズムが分かれば、より正確な将来予測にもつながっていく。水月湖研究の裾野は広い。(9p)
水月湖年縞が世界標準に認定されたのは2012年であり、未だこれからなのだろう。ということは、あの博物館で、直近の二万年の新石器から縄文、弥生、中世、現代の日本の姿を解説していた展示内容は、それこそ新書にもなっていない「最新研究」だったのだ。もう少し詳しくメモしておくべきだった。
ただ、現代の研究で分かったことも多い。
氷期が終わったのは、今から11500年前である。その前は不安定で寒い時代がずっと続いていたが、比較的安定で暖かい時代に移ったという。その変化は、実は徐々にではなく、おそらくある1年で突然変化したらしい(長くても3年程度)。
この激烈な変化は、地球の物理法則で起きるので二酸化炭素放出による温暖化とは関係ない。むしろ、現在いつ暖かい時代から寒冷化に舵を切ってもおかしくはないのに、異常なくらい温暖な時代が続いているらしい。次の寒冷化の時は一挙にやってくるのか?書いてなかった。
なんか、いろんな可能性が書かれていてわからなくなる。
一つ興味深いのは、寒冷化が終わる前から、人類は農耕技術は持っていたらしい。しかし、ほとんどの地域では採用しなかった。それは、寒いからだけではなく、天候がかなり上下する時代だったからだ。世界の年縞のお陰で、天候の不順年は正確にわかるようになった。一年の不作ならば対処できても、数年続く不作は、マヤ文明さえ滅ぼしたのである。東北で、縄文時代が続いたのは、東北の天候が不順で狩猟採取の方が生き延びる可能性が高かったからかもしれない。
吉備の弥生時代にかつて例のない大首長が登場したのも、水を制したからだと聞いたことがある。しかしそれは制御できる天候だったからでもあるのかもしれない。これらの相関関係は、これからも探求したい。年縞等のおかげで、この10年で大きく学問が進んでいるのは確かそうだ。
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たしか利根川進だったと思うが「科学者には研究に使うツールを開発することが得意なタイプの人がいる。(その成果はありがたく使わせていただくが)自分は逆にツールよりもそれで明らかになる事実に関心があるタイプ」といったようなことを書いていた記憶がある。一般的にツールの開発のほうが地味な仕事といえそうだ。本書はまさにそのツールの開発、さらに言うと既存のツール(炭素14による年代測定)をどう改良するかについてなので、素人目には輪をかけて地味に見える
しかし地味とは言いながらも、世界標準を作ろうという話であるし、研究者がその人生のかなりの部分を投じて挑戦する話でもある。ふだん目にする科学関係の記事などでは省略されてしまうような細部も丁寧に説明され、「良い仕事」のまさに滋味を味わえる
炭素14による年代測定法については色々なところで読んだが、本書の解説がもっとも丁寧かつ、適用にあたっての実際的な課題を詳述しており勉強になった
2015年に岩波科学ライブラリー(薄くて高いやつね)から出版されたものに、その後10年の展開を追加して文庫化してある。お買い得 -
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古気候学者である著者によって、地球気候の最新10万年ほどの様子を福井県・水月湖に堆積した年縞などの解読を用いて解説しながら、そのメカニズムを解析するための挑戦的考察が語られます。
地球の気候変動というのはとてもダイナミックで、人類が登場してからでも海面の高さが100m以上変動するような事件が繰り返し起こってきたそうです。大きく、氷期と間氷期というように、寒冷期や温暖期が区別されますが、そこで働いている力が何かについて大きな示唆を与えたのが、およそ100年前に唱えられたミランコビッチによるミランコビッチ理論なのでした。
ミランコビッチ理論は、地球の公転軌道の変化によって、地球と太陽の平均的な距離が変化することで気候変動が起こる、とするもの。公転軌道が円に近い時期は太陽との平均的な距離が大きくなり、扁平な公転軌道のときには太陽との平均的距離が小さくなります。前者は氷期で、後者は間氷期にあたり、約10万年周期で繰り返しているそうです。この変化にくわえて、地軸の傾きの変化を考慮すると、過去の気候変動にさらに理由がつけやすくなるのでした。
ミランコビッチ理論は、天文学と気候学を結び付けたことでとても大きな功績がある、とあります。当時までの考えの範疇であったその壁には外があるんだということにはじめて気付かせたようなものだったのかもしれません。
本書前半部分では、ミランコビッチ理論を大きく扱いながら、カオス理論(ここで用いられたのは、ランダムなプログラム上でも、それぞれがバラバラな乱雑期と、歩調が同期する安定期があって、それらはトータルでカオス遍歴と呼ばれること)とも照らし合わせて気候変動のメカニズムを探っています。
そして後半部分からは本書の主役である福井県・水月湖の湖底に溜まる堆積物をボーリングして得られた詳細な年縞データに焦点をあてて、年縞研究の歴史からはじまり水月湖が世界のスタンダードの資料となるまで、そして、そこから見えてくる鮮やかな古気候の様子が語られます。前半部もエキサイティングなのですが、後半部からもぐいぐい読ませてくれる読み物になっています。
さて、ここからは雑学的部分をひろっていきます。
全球凍結という過去に地球がすべて凍結した時期がありますが、それを打破したのは火山活動だったらしいことが述べられていました。凍結状態によって白い地表面は太陽熱を跳ね返して地面が熱を保持することもありませんでした。そうして寒冷化がさらに進んていった中、火山活動で出る二酸化炭素が地球を暖めたようです。排出された二酸化炭素を吸収する植物はなかったしおなじく二酸化炭素を吸収する海洋は閉ざされていました。それで次第に濃度が増していき、温室効果が得られていった、と。
全球凍結状態での人類の生存は厳しいですが、逆に長い地球の歴史上で何度もある温暖期は、温暖化と言われる現在よりもさらに平均気温が10度も高かったらしいです。どでかいトンボなんかが滑空していた時代で、その気持ち悪さや恐怖のせいではないけれど、これだって人類の生存は厳しそうではないでしょうか。
現在の地球の気候はこれでもまだ寒冷期の範囲に入るみたいで、すなわち寒冷期に特化して繁栄した生き物が人類だから、そのうち地球のダイナミックな気候変動に適応できず淘汰されないかな、と悲観的な想像が浮かんできました。戦争で、とか、小惑星で、とかを待たず、地球の気候のリズムが理由で滅ぶ、あるいは大打撃、というシナリオです。
以下は箇条書き的に。
◇水って4℃のときが一番重いとのことでした。それよりも温かいとき、冷たいときは、4℃のときに比べて軽いのでした。4℃の名を冠したブランドはこの特徴に意味づけしてるでしょうね。
◇現在の温暖化は、人間活動によるものだと言われますが、その起源は産業革命にある、という主張を聞いたことってありませんか? これが実は、人間が農耕を開始し森林を伐採しだした時期からだそうなんです。かなり古くから温暖化を促進させているんです。そのせいか、数千年で終わることの多い間氷期が終わらず、1万年以上も温暖な気候がいまも続いています。これには、2万年以上続いた間氷期があることが最近わかってきていて、単純に数千年のパターンに当てはまらないことがわかってきたそうです。
◇IPCCによると、今後100年間で5度の平均気温上昇などと言われています。これが、過去の気候変動の様子だと、変わるときはわずか数年で5度や10度上昇したようなんです。自然な気候変動ってまさに激変してみせるようで、なかなか容赦がないなあと思いました。
最後に、これは、と思った箇所の引用を。
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歴史的に見ると、ほとんどの古代文明は1年の不作であればなんとか対応できるだけの備蓄を持っていた。だが、不作が2年続いても耐えられる文明は少ない。3年以上連続する不作は、現代の日本ですら想定していない。だが、現実問題として、歴史に残るような大飢饉の多くは、天候不順が数年にわたって容赦なく続くことによって発生しているのである。(p177)
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→江戸時代の、天明や天保の大飢饉は上記のような天候不順によっておこったそうです。冷夏が5年以上継続したとのこと。
とここまで書いても、まだ本書には盛りだくさんなトピックと、それぞれのトピックを深掘りした考察にあふれていて書ききれません。講談社科学出版賞受賞作でもあり、読み応え十分だったので、気候のメカニズムの最新知見についてちょっと興味を持たれた方はぜひにと思います。 -
Posted by ブクログ
人の一生からは想像できない時間軸・自然を相手にした謎解きを読んでいるようで面白かった.
地球はこれまでどのような気候であったか.それを踏まえ未来,人類はどのような気候に相対することになるのか.
この複雑で難解な問いを紐解いていくにはまず,過去の地球・地域の気候を明らかにしていく必要がある.
長い年月をかけて蓄積した福井県の水月湖の湖底に眠る年縞は,この難解な問いに対して世界で認められた正確で緻密な物差しを与えてくれている.
この年縞は現代から遡って約7万年という長い期間に対する非常に正確で緻密な史料を提供してくれており,本書ではその例として放射性炭素年代測定におけるキャリブレーションの提供,年縞に積もった花粉の分析による年代ごとの植生の推定,その他各年代ごとの雨量や気温の推定といった成果が説明されている.
そのほか,地球の気候変動の規則性を推し量る理論であるミランコビッチ理論などが紹介されており,地球の気候史の概観が与えられている.
当然であるが地球の気候は非常に複雑な系の一つであり,単純な線形変化や周期変化だけでは説明ができないカオス性がありつつも,年縞をはじめとして徐々に解像度が高まっている過去から現代に続く気候史を俯瞰することで,現代の気候が置かれた現在位置や,一つの可能性として伺えるシナリオ,現代の人類が気候に影響を与えているかどうかに対して示唆を与えている.
人間の経済活動がもたらす気候変動の懸念に関する意見を耳にすると,気候変動にはさも人間だけが影響を及ぼしており,人間の活動が自粛されれば,過去の姿,期待する姿に戻るかのような錯覚を覚えるが,実態は全く異なっていることが改めて理解できる.人間の活動が環境に影響を与えていること自体は否定し得ないが,それがさも気候変動の主原因であり,人間の努力でなんとかできる・すべきであるという考えは,人間中心主義的な傲慢さの表れれはないかと改めて感じる.
一方で気候変動がもたらす経済や生活への影響は現実問題として無視できない.気候の変動性に対する”反脆弱さ”が求められていると思う.
水月湖には年縞をテーマとした博物館があるらしい.是非行ってみたい.
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“自然科学は善悪の判断には本質的に無力である”
古気候学:有史以前の気候が研究対象.地質学の一分野
年縞:1年に1枚ずつ堆積する薄い堆積物
福井県の水月湖:最も長く連続した年縞体積が見られる世界でも有数の場所.いわば地質学の定規「年代の目盛り」
地層に残された遺物→「何が」はわかったとて「いつ」がわからなかった.例:恐竜が反映していた時代の推定には人間にとって永遠とも言える数万年もの誤差がある
「気候変動」という言葉は80年代.ほとんどのメディアで取り上げられていなかった森林伐採や水質汚染がトレンドだった.
★10年後,20年後「温暖化は一過性の環境活動ブームネタに過ぎなかった」と行っているかもしれない.そのときは別の問題を話題にしながら.
★思い返せば「オゾンホール」という話を全然聞かなくなったな.
★負い目を感じさせてその罪滅ぼしとして商品を買わせる。企業のプロパガンダのレトリック
放射性炭素年代測定
・炭素は同位体により3種類存在。
・そのうち一つ(C14)だけが放射能を持ち時間の経過とともに減少する
・この減少する炭素を、減少しない炭素の量を比較することで経過時間(年代)を推定する
・c14は5万年でなくなってしまう。5万年しか計れない
・誤差がどうしても発生。標準時計にはなり得ない
物差し=c14年代を正確な年代に読み替えるための換算表
ケッペンの気候区分
→気候を区分けする分かりやすい目安が気温と雨量
→ケッペンはこれに景観(植生)を持ち込んだ
→腹落ち感があり、今なおその根幹が活きる気候区分
ミランコビッチ理論
地球の公転軌道の離心率の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化、自転軸の歳差運動という3つの要因により、日射量が変動する周期 -
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地球の気候変動を福井県にある”水月湖”の堆積物から調査し、気候のメカニズムを解き明かしていく。内容は、すっきりしていて読みやすい。ただ、私の場合、気候変動という巨大なスケールについてイメージをつかみにくく、流し読みになってしまった箇所もあった。
気候変動の歴史や予測は、酸素や水素、炭素の同位体から推測することができ、氷期と温暖期が定期的に入れ替わっていることが発見された。これは、地球の公転軌道の影響、すなわち離心率変動が原因であり、「ミラコビッチ理論」と呼ばれている。通常は、氷期の期間がほとんどだが、地球が楕円軌道を描くとき、温暖になる傾向にある。
水月湖の堆積物が上質な理由は、酸素が存在しないことやその地形により、水が安定状態で保持されるためである。酸素が存在しないのは、海水の塩分が流れ込むことで、水の温度が下がっても塩水よりは重くならないためである。この堆積物に含まれる花粉は、植生景観を判断することに役立つ。植生景観の重要性はケッペンの「気候区分図」が証明している。例えば、温暖な時代ではブナなどの照葉樹林、氷期ではスギなどの針葉樹林が分布しやすい。
気候変動は様々な要因が複雑に絡まっており、一概に一つの要因で決まるわけではない。加えて、その記録を詳細に残している堆積物を見つけ、長い時間をかけて記録を解析するのは、非常に骨の折れる作業であることが推測される。このような推測が先行きの見えない気候を耐え抜くカギになるのだろう。 -
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昨今では我々人間の活動が地球温暖化を進めていると騒がれている。
ここ近年のCO2濃度とか気温の上昇とかのグラフを出して、「このままではまずい」、「どうにかしないと」と。
もちろん人間の活動によって地球の気候が変動している部分もあるが、それは100年とかの話であって、地球からしたら一瞬の出来事だ。数千年、あるいは数億年単位で地球の気候変動を見ると、現代の気候は寒冷な方で、かつ安定している。
かつての地球の気候は変動が大きく、気候が大きく変わることを予測することは非常に難しい。
だから未来予測でグラフの線を単純に伸ばすだけは理にかなっていない。そんなのは分からないが正解だ。
多くの要因が存在してその影響を受ける気候の歴史を研究し、またそれを踏まえて未来を見据える。
大きいことをしているが、研究はすごく地道なことも多く、研究者には頭が上がらない。
終わり方もはっきり言えばこの先どうなるか分からないと書かれている。でも、人類の可能性も際限がない。それに期待を持ちつつ、今できることに全力で向かう著者は非常にかっこいい。 -
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気候変動を語る際に我々の暗黙の前提として、これまでの有史以来気候が安定していたというバイアスがある。つまりこれから起こり得る気温上昇はイレギュラーな事態であり、人類の歴史上未曾有の危機が訪れるといった気候危機論が言われるのは、標準となる安定的な気候があってこそである。
しかし本来は、地球の気候は安定していない。とくに10万年というスケールで捉えると、実はたった数年で7℃も気温が上昇した時もあれば、今よりも10℃以上低い時代もあり、海面は±100mも上下していた。そんな過去の気候の積み重ねを調査する年縞と呼ばれる地質調査上の標準が、実は日本国内にある。
福井県三方五湖の一つ水月湖には、湖底に45m・実に7万年分もの年縞が堆積しており、その堆積物を調べることで気温や降水量、植生といった様々な情報を得られる。そこからはダイナミックに気候を変動させ、それに合わせて大幅に生物相を変化させてきた歴史が垣間見える。恐竜のいた温暖な時代も、日本が大陸と地続きになっていた寒冷期も、年縞によって特定できるのだ。
そして現在は、温暖期が終わり氷期に向かっていると考えられるが、8000年前の農耕が始まった頃から寒冷化の傾向はストップしている。つまり、人類活動の影響が産業革命以前より始まっていることが指摘されている。まだまだブラックボックスが多く気候変動の行方も分からない点は多々ある。それでもその基準となる年縞が日本国内にあるという事実は、日本人にとって責任感を思い起こさせるには十分であろう。