飯田実のレビュー一覧
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下巻は、「森の生活」というタイトルにふさわしく、森での日々の自然観察に多くのページが費やされ、その中で生まれてくる思索が見事に織り込まれていきます。上巻同様、時代も場所も国民性も違う現代日本の読者には、すんなりとは理解しがたい皮肉や暗喩や例え話がちりばめられているので、読みやすいとは言えませんが、じっくりと取り組んでみると、深い味わいがあります。ここで語られているような生き方をそのまま実行することは難しいし、その必要もないと思います(ソロー自身、この生活は一時的な、実験的なものでした)。ただ折に触れて読み返すことで、欲に目のかすんだ自分を引き戻すことができる、そんな書です。
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上巻ですでに深い感銘を受けていましたが、下巻(後半)はさらに感銘を受けました。特に最後の章「むすび」はそこだけでも人生指南書としての価値があります。ソローは悟りをひらいた人、物事の本質を掴んでいる人、仏教的にいうならば、彼岸の智慧を得た賢者と呼ぶにふさわしいでしょう。俗世間の名声や権力、お金は虚飾であり、真の幸福は別の所にある。彼はそれを「実在」と呼んでいますが、2年にわたる森の生活でソローは「実在」についての確信を得るわけです。
「汝の視力を内部に向けよ。やがてそこには、いまだ発見されざる、千もの領域が見つかるだろう。その世界を経巡り、身近な宇宙地理学の最高権威者となれ」
「もしひとが、みず -
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いまから170年ほど前の米国マサチューセッツ州における著者の生活記録になります。まず感動したのが当時の写真が多数掲載されていること。ウォールデン湖、その周辺の森だけでなく、近くの町(コンコード)の当時の写真が掲載されていて、なんとものどかな雰囲気を漂わせています。そして著者のソローですが、ハーバード大学を卒業している「詩人博物学者」ということで、淡々と生活を記述するのではなく、ギリシャ神話の登場人物を持ってくるなどファンタジー小説のような味付けをしています。人間にとって本当の豊かさとはなにか、本当に必要なものはなにか、について考えさせられる本です。湖畔の山小屋で夜を明かし、早朝に小鳥の鳴き声や
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ウォールデンの森での生活の秋から春へかけて、そして圧巻の「むすび」。生き方はこれしかないと思っていないか?労働の奴隷となっていないか?人間には野生という強壮剤が必要だ。生活をもっと単純化すれば、貧しさは貧しさでなくなり、弱点は弱点でなくなるという考えかたも理解できるし、そうできればと思う反面、やはり家族との生活はそこにはなかった点が最後までひっかかる。子供の生き方の選択肢を自由を考える場合、ミニマムな生活から他の生活を選ぶことは可能なのだろうか?他の人の税金によってなりたっている教育や医療やインフラを寄生虫のように使って、自分は自由に生きていると叫ぶのか?どのようにそうでない社会をつくっていけ
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私にはほんとうの豊かさが味わえる貧しさを与えてほしいものだ。p48
努力からは叡智と純粋さが生まれ、怠惰からは無知と肉体的欲望が生まれる。学究にとって、肉体的欲望とは、だらけた精神の習慣である。不潔な人間は例外なく怠け者だ。ストーヴにかじりついていたり、日だまりに寝そべってたり、疲れてもいないのにうつらうつらしたり。不潔さとあらゆる罪とを避けたければ、ウマ小屋の掃除でもなんでもいいから、一心に働くことだ。生まれつきの本性を克服することはむつかしいが、それを克服することが肝心なのだ。p93
「汝の視力を内部に向けよ。やがてそこには、いまだ発見されざる、千もの領域が見つかるだろう。その世界を経 -
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ネタバレ孔子「これを知るをこれを知ると為し、知らざるを知らざると為せ。是れ知るなり」p25
家を建てるのに要した諸々の費用。p91
一片の良識のほうが、月の高さほどもある記念碑よりも後世に残す値打ちがある。p106
「この世に幸福な者がいるとすれば、それは広大無辺の地平線を自由に愉しむ者たちだけなのだよ」p156
一日一日が、これまでけがしてきた時間よりも早くて、神聖で、曙光に満たされた時間を含んでることを信じない人間は、結局、人生に絶望しているのであり、暗さをつのらせてゆく坂道を転落しているのである。感覚的な生活がいったん中断されたあと、人間の魂、いや、むしろ魂の諸器官は、毎朝活力を取り戻し -
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<28歳となった年、私は森に入った・・・2年2ヶ月2日の間の、自給自足による森での生活。>
ヘンリー・デイビット・ソロー
大きな物事が起こると価値観ががらりと変わることは良くあります。
ひどく個人的な話なのだけれど、私にとって(私たちにとって?)3・11の東日本大震災はそういう“大きな物事”の一つに数えることができます。
あの日、私たちの豊かで便利な生活は、非常に大きなリスクのもとに成り立っていることがわかりました。
もともと頭では理解されていたものかもしれません。
しかしそれが実際に起こった、肌で感じるものとなった。
そして月日が経つにつれ、さまざまな考えが頭に浮かびます。
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昨年末、少し足を伸ばして、念願だった松江のartosbookstoreさんを訪問してきました!
いやー、いい本屋さんだった。
正味1時間弱滞在し、じっくり本を選んで、手元にやってきたのが、こちらの『森の生活』(上)です。
著者のヘンリー・デイヴィッド・ソロー(1817-1862)は、アメリカの「詩人博物学者」(本の著者紹介より)。
本書は彼が、マサチューセッツ州ウォールデン湖のほとりに小屋を自力で建て、1人で暮らした2年あまりの日々の記録です。
文章の合間にはソローが撮影したウォールデン湖や森、近くの村の写真が数多く収録されていて、その写真の静謐な佇まいと、岩波文庫のキリッとした装丁がとても