英語の教材として、もともと注目していたTED。講演者のプレゼン能力は感心するが、これは生まれつきの能力ではなく、身に着けられるとしている。本書では、そのプレゼンの方法を解説してくれている。
一番驚いたのは、一般に欧米人はプレゼンが得意だと思いがちだが、本書を読むと、たっぷりの時間を割いて用意周到
...続きを読むに準備していることがわかる。
「世界の見方を変えてくれるものはなんでも、『アイデア』だ。人の心の中に説得力のあるアイデアを植え付けられたら、奇跡を起こしたことになる。それは、お金で買えないほど価値のある贈り物になる。本当の意味で、あなたの一部が彼らの一部になったということだから。」
「演劇や映画や小説の分析に使われる言葉がある。スルーラインだ。つまり、一つひとつの物語の要素をひとつにまとめる、一貫したテーマのことだ。どんなトークにも、このスルーラインが必要になる。」
「A イントロダクション―これからなにを話すかを紹介する
B 背景―なぜこの問題が大切なのかを説明する
C 中心になるコンセプトを語る
D 実際にどんな影響が考えられるかを予想する
E 結論で締める」
「だれかのトークを聞くのと、だれかの作文を読むのとでは、まったく違う体験だ。トークは言葉だけじゃない。全然違う。言葉を伝える『人』も大事なんだ。人同士がつながらなかったら、インパクトは与えられない。これ以上ないほど明快な説明と鋭い論理で、だれよりも素晴らしいトークをしても、はじめに観客とつながれなければ、メッセージは伝わらない。内容を理解してもらえても、そのアイデアは活用されず、頭の片隅に追いやられて、すぐに忘れられてしまうだろう。」
「ストーリーを語るときには、次の4つのことが大切だ。
・観客が共感できるような登場人物を主人公にすること
・好奇心、社会的な関心、実際の危険を通して緊張を盛り上げること
・適度な量のディテールを盛り込むこと。少なすぎるとストーリーが生き生きとしない。多すぎるともたついてしまう
・最後に笑いや感動や驚きできちんと締めくくること」
「説明の達人のワザ
ステップ1 聞き手のいる場所からはじめた。…
ステップ2 好奇心に火をつけた。…
ステップ3 ひとつずつコンセプトを持ち出していった。…
ステップ4 たとえを使った。…
ステップ5 例を挙げた。…」
「・説得とは、だれかの世界観をよりよいものに差し替える行為だ。
・その核になるのは、長期的なインパクトを与えられる論理の力だ。
・論理を、直感ポンプ、探偵物語、ビジュアル、その他の下地づくりのツールによって補うと、もっとも効果が出る。」
「観客を引き込む4つの方法をここで紹介しよう。
1 ドラマの一片を伝える
2 好奇心に火をつける
3 パンチのあるスライド、ビデオ、物を見せる
4 チラ見させて全部は出さない」
「僕がTEDにここまで惹かれた理由のひとつは、トークが印刷物にはないなにかを与えてくれると知ったからだ。でもそれは当たり前じゃないし、いつもそうとは限らない。そのおまけのなにかは、熟考し、時間をかけ、育むことではじめて手に入る。努力によって得られるものなのだ。
ではその『おまけ』ってなんだろう?それは情報をインスピレーションに変える人間という媒介だ。
トークを、並行に流れる2つの情報の潮流だと考えてみよう。言葉は脳の言語中枢で処理される。聞いた言葉も読んだ言葉も同じように処理される。でもその上の層にはメタデータの流れが存在し、(無意識に)聞いた言葉を評価し、どう扱うかを決め、優先順位をつけている。文章を読む場合には、それはない。話し手を見てその声を聞いているときにだけ、これが起きる。
その追加の層が、なにをもたらすかを紹介しよう。
・つながる:『この人、信用できる』
・夢中になる:『なにもかも、すごく面白い!』
・好奇心を持つ:『声の中にも、表情にも、なにかを感じる』
・理解する:『ジェスチャーでその言葉を強調してるんだ―やっとわかった』
・共感する:『どんなにつらかった感じられた』
・興奮する:『わぉ!情熱が乗り移りそう』
・確信する:『目に信念が現れてる!』
・行動する:『チームに入れてほしい。参加したい』
これをまとめると、インスピレーションということになる。…
ひとが特定の講演者に強く反応するのはなぜなのか、どのような仕組みでそうなるのかについては、謎が多い。それは人間の中に深く刷り込まれ、何十万年もかけて進化してきた能力だ。…そうしたアルゴリズムの詳細はわかってないけれど、それを動かすカギになるものについては意見が一致している。それは大きく2つに分かれる。
声を使うものと身体を使うものだ。」
「…オンラインの動画は生で見るほど強いインパクトはないだろうと僕たちは思っていた。オンラインではほかにも気が散ることがたくさんあるので、小さなスクリーンで見る動画にそれほど集中を保てるはずがない。でも視聴者からの熱烈なコメントに僕らは驚き、喜んだ。…
…2007年3月、僕たちはサイトを立ち上げ直し、100本のトークを公開した。それ以来、TEDは年次カンファレンスというよりも、『価値あるアイデアを広める』ことに力を注ぐメディア組織になっている。
それから、コンテンツを無料で拡散したらカンファレンスにお金を払う人がいなくなってしまうかもしれないという心配はどうなったかって?実際には反対のことが起きた。カンファレンスの参加者は、素晴らしいトークを友達や仲間と共有できることを喜び、トークが拡散するにつれカンファレンスへの申込みも増えていった。」
「なにを追いかけるにしろ、本当になにかをとことん追求すると、次の2つのことが起きる。
・意味のある幸せの形を見つける。
・本で読むよりはるかに重要ななにかを見つける。語る価値のあるなにかを。」