本多勝一『アイヌ民族』(朝日文庫)を原作とし、萱野茂が監修についたコミック。全2巻。
1992年に潮出版社から刊行されていたが、長らく絶版となっていたもの。2021年に岩波現代文庫として復刻された。
アイヌの風俗を織り込みながら、大人に向かう少女の心情が少女漫画的に丁寧に描かれていく。
舞台は6
...続きを読む00年ほど前の北海道。
和人がやってくる前のアイヌの世界である。
ハルコロは主人公の少女の名。「いつも食べる物がある」という意味である。
アイヌの子は小さいうちは名を付けられない。ハルコロと呼ばれる前は、少女はオペレ(おちび)と呼ばれていた。
名前の他にも、大人の女と認められるには「通過儀礼」がある。アイヌの大人の女性は口や手に入れ墨を施すことになっている。ある日、コタン(アイヌの村)に入れ墨名人のおばさんがやってくる。少女たちは痛みに耐えながら、入れ墨を入れる。
そうしたアイヌの風俗は物珍しいが、一方で古今東西変わらぬのが恋。娘になったハルコロも、小さいころから知るウナヤンケに秘めた想いを抱いている。いとこで美人のウマカシテは隣のコタンのペケンノウ"ク"("ク"はアイヌ語仮名の小書き文字を示す)に夢中。実はウナヤンケは、父親と共にペケンノウ"ク"の家の召使として働いていて、何やら事情がある模様。ウナヤンケに想いを伝えたいハルコロだが、意外にもペケンノウ"ク"がハルコロに想いを寄せている。それを知ったウマカシテは、当てつけのようにウナヤンケに近づいていく・・・。さぁ、どうなる、四角関係!?
そんなハルコロたちの暮らしと織り交ぜて、アイヌの神話や昔話が語られる。
人間(アイヌ)たちに興味を持ち、試練を乗り越えてコタンにやってきて、さまざまなことを教えてくれたオキクルミカムイのこと。アイヌの暮らしを豊かにしようとコタンを訪れてはアイヌに撃たれ、肉や皮を与えてくれるキムンカムイ(「山の神様」=クマ)のこと。刈り取りを忘れられて「エノイラナー ウノイラナー(おれを忘れたよー)」と泣く小さな粟の実の神様のこと。
動物の姿をしたカムイたちが「死ぬ」と、その魂は耳と耳の間に座り、アイヌたちのもてなしの饗宴を楽しむ。アイヌたちはそうして、カムイの魂を丁重に神の国へと返すのだ(この「耳と耳の間に魂が座る」という表現はなかなおもしろい。意識が脳に宿ることをアイヌたちは知っていたのか)。
自然の恵みはカムイたちの訪れ。必要な分だけ受け取り、感謝の捧げものを忘れない。大地と共に生きるアイヌの暮らしが浮き上がる。