下楠昌哉のレビュー一覧
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近未来のインドを舞台にしたSF連作短編集。
SFは、たまにしか読まないからこそ、脳みそをガツンとやられる。
舞台は2050年頃のインド。圧倒的に発達したナノテクノロジーやサイバー空間・AIなどにより驚異的な発展を見せる一方、政治的には8つの国に分裂し、気候変動による水不足が問題になり、遺伝子操作による男女構成比の崩壊が社会的なひずみを生んでいる。
そんな近未来的な設定が前面に出てくる一方で、カースト制度やヒンドゥー教的なエキゾチックな世界観もがっつり根付いている。
そんなSFと伝統が融合し、AIなどの超技術といかにも人間臭い登場人物たちの葛藤が融合しているところに、本書の魅力があると思う。 -
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雪妖や氷魔と吸血鬼。白と赤。生と死の境界。
ラフカディオ・ハーンと同時代の文学者が織り成す
怪異譚の13の短編小説集。
・はじめに
一 雪と氷と白魔
「幽霊と悪鬼について(抄訳)」ラフカディオ・ハーン・・・
聞き書きのユキオンナの話の抄訳。血を吸う雪女がいる?
「年老いた乳母の物語」エリザベス・ギャスケル・・・
陰鬱な屋敷から雪の丘に誘う少女と女の正体とは?
「雪の妖術」アルジャーノン・ブラックウッド・・・
真夜中のスケート場での出会いは雪と妖の魅惑の誘い。
「光と光の間で」E.F.ベンスン・・・幻影か?悪夢か?
悍ましい光景は雪の中でも彼に付きまとう。
「北極星号の -
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ネタバレ雰囲気が良い。映画向きだと思う。
詩を意識しているのか、単語の羅列や意味深な言い回しが多くて想像が難しい。
SF部分も結局はっきりわからない。実験に巻き込まれて時間旅行者にならざるを得なかったって感じ。
ラブストーリーさも物足りない。語られないところにあったと思うが、そこを語れよって感じ。恩田陸の「ライオンハート」のほうが好きかな。
ELの正体もだろうな、というか、まあ同性愛以外普通のあるあるSF。
雰囲気と現代イギリスと、この手紙の主は誰だ?という謎解きの雰囲気が面白いかな。不死者かな?という可能性に最初に行くのが面白い。親子とか兄弟とかと思わないのかな……。
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ロンドンにあるアパートの一室で本に埋まり、ネットで古書を売っている「私」は、有名な古書店の閉店に伴う在庫の処分品の中から、一冊の本を掘り当てた。E・L著とイニシャルだけが記された詩集で『時ありて』というタイトルだ。第二次世界大戦が専門分野である「私」は、普段なら手を出さないところだが、なぜか好奇心が働いた。刊行は一九三七年五月、イプスウィッチ。出版社は記されていない。紙も表紙の布地もいいものが使われている。中に何かが挟まっている。便箋が一枚。トムからベンに宛てたラブレターだった。
「私」を視点人物とする、手紙にまつわる謎を解いてゆくミステリー調の章と、シングル・ストリートに暮らす「ぼく」とE -
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「埠頭三角暗闇市場」のインドつながりで、積読状態だったのを読んでみる。
分裂戦争状態に入った近未来インドもやはり暑く混沌として、ガンジス川では沐浴も火葬も行われている中でAIも同居している世界。
最近ニュースや映画でも取り上げられているAIに恋するなんてエピソードもあり、近未来との地続き感も良好。
混沌としたアジアとしては内側からの視点として描かれた「埠頭三角暗闇市場」と違い、異なる文化の外側からの視点で描かれています。
様々なガジェットをミックスさせるのが得意な作者も、文化のミックスにきましたか。
2000年に入ってから日本では音沙汰がなかった作者で久しぶりなのですが、やはり悩み、 -
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古書ディーラーの「私」がゴミ箱の上に積み上がった古本のなかから拾い上げた詩集には、一通の古い手紙が挟まっていた。戦地で恋文を交わす同性カップルの来歴を調べるうち、彼らは時を超えて遍在することが明らかになる。一冊の本との出会いから始まるタイムトラベルSF。
道具立てはクラシカルだけど、うだつのあがらない語り手の現代パートは完全に今っぽい口調。インターネット時代だからこそ可能になった情報の探索と、古本へのノスタルジーが矛盾しながら同居する、古書オタクが書いた夢小説みたいな側面もある。
パリの古書店は二人のことを知っていて(伝承していて?)『時ありて』を保有しているのか、タイムトラベラーとなった -
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19世紀末から20世紀はじめにアイルランドとイギリスの作家たちにより書かれた妖怪・幽霊譚を8つのセクションに、そして各セクションの留め石にジョイスの『ダブリナーズ』に収められた短編を配したアンソロジー。
読んだことのあるのは、ディケンズ「第一支線-信号手」とハーン「雪女」のみなので、大変なお得感。
イェイツの”取替え子”の話から始まる。親がちょっと目を離した隙に可愛い子どもがいなくなってしまう。事故かもしれないし、さらわれてしまったのかもしれない。そんな悲しみが生んだ言い伝えなのだろうか。レ・ファニュの「妖精たちと行ってしまった子ども」を読むと、恐ろしさと悲しみが身に沁みてくる。
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イギリスのSF作家、イアン・マクドナルドが2018年に発表したSFミステリー。待望の邦訳ということで、氏の作品を初めて手に取ってみた。
古書ディーラーのエメット・リーは、閉店する書店の在庫から『時ありて』というタイトルの古びた詩集を手にする。その詩集にはトムとベン、二人の男性が第二次世界大戦中に行っていた秘密のメッセージの遣り取り、その一通が挟まっていた。手紙に隠された真相を追求するエメットは、彼らの「時をかけた物語」を目の当たりにする―――。
一冊の古書、一通の手紙から始まるタイムトラベル・ロマンス。話の大枠自体は捉えることが出来たが、それだけ。明かされる真相が、それまでの展開で読み手を