大久保和郎のレビュー一覧
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イスラエルの諜報機関である「モサド」によってアルゼンチンから連れてこられ、裁判を受けさせられて刑場の露と消えた男であるアドルフ・アイヒマンを哲学者であるハンナ・アーレントが書いた裁判傍聴記録です。
本書はアルゼンチンに潜伏していたところをイスラエルの諜報機関である「モサド」によって拉致同然に連れてこられ、裁判を受けさせられて刑場の露と消えた男であるアドルフ・アイヒマンを哲学者であるハンナ・アーレントが書いた裁判傍聴記録です。
あまりにも有名でありながらも、有名なアイヒマンの言葉である
「私は書類に判子をついただけだ」
は余りにも重く、今の今まで読むことを躊躇していたわけですが、それを -
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ネタバレ「哲学者なのにレポートみたいだな」と思いましたが、雑誌ニューヨーカーの記事にするために書いたのでレポートみたいになるのは当然でした。
解説に詳しく書いていましたが、本編を読んでの感想と同じく、アイヒマンは頭は悪く、命令には従うけどその命令の意図や命令の結果どうなるか、といった思考力や想像力は皆無で反ユダヤ主義はなく、特定の分野だけ有能だがそれ以外無能な凡人にすぎない、ということをアレントは書いています。
学業成績は大したことなかったみたいで、従って(書いてませんが)大卒だらけの職場ではかなり学歴コンプレックスがあったみたいですね。
アレントがこの本でめちゃめちゃ非難されたのは
①悪の権化 -
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旧版を読んだのは5年前。全体主義やホロコーストについて、勉強を始めたばかりの頃。読んだときはかなりの衝撃を受けた。
その後、この本が出版された60年代前半以降の研究も読んで、この本の歴史的な資料としての重要性は下がって、アーレントの思想を知るための本ということにわたしの中ではなっていた。
新版になって、字も大きくなり、その後の通例にしたがって、固有名詞や用語の統一がなされ、読みやすくなったとのことで、読んでみた。
すると、アーレントの歴史事実に関する理解は、最近の研究とくらべて大きく異なるわけでもなさそうなことがわかった。この本のフォーカスは「アイヒマン裁判」であり、「全体主義」や「ホロ -
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カタチ的には一周したが、まだ読めていない。
読んでよかったし、今読んでよかった(若いころだとたぶん、ほとんど、今よりもずっと、この本の意義がわからなかったと思う。いまは、意義があることだけは、すごくわかる)
ヒトラー率いるドイツ帝国の、ユダヤ人問題の〈最終的解決=絶滅〉において、ユダヤ人を殺戮収容所に輸送する任務に着いていた、アドルフ・アイヒマンについて書かれているこの本は、ずっと思っていたように、舌鋒鋭く「陳腐な悪」を断罪するものではなかった。これは裁判記録ーーしかも、不親切なほど注釈が少ないーーである。
「ザ・ニューヨーカー」で連載されたこの報告(レポート)は、エルサレム裁判の法廷のよ -
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アルゼンチンから拉致したアイヒマンをエルサレムで法廷に引きずり出した、その裁判の話。前代未聞の犯罪と、一方で国際法を無視してのこの裁判という、法哲学的にも深い本。
ヒトラー暗殺計画に携わった人たちは道徳的な問題についてではなく、無謀な戦争でドイツを敗北させてしまうことからヒトラー暗殺を企だてた。アイヒマンもユダヤ人を殺害することそのものには良心の呵責を感じなくなっていて、それは他の多くのドイツ人もそうだったという指摘。ナチに属さない政府高官もヴァンゼー会議で全く反対しなかったことや、ユダヤ人自身が絶滅に協力していたこと。デンマークやイタリア、ブルガリアの抵抗や、反対に過剰に協力したルーマニアや -
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ネタバレ1961年4月~にエルサレムで行われた公開裁判を傍聴して著者が報告したもの。1962年に死刑を言い渡されその二日後に執行される。
初版出版は1963年。増強版は1964年。邦訳は、初版が1969年、この増強版の邦訳は2017年、と新しいです。
始めの章ではイスラエル政府による見せしめ裁判ともみなされるような裁判所の様子や一個人に徹底的に焦点を当てることで見えてくる、ナチス政権化の犯罪の実態を浮かび上がらせる。
増強版は技術的な訂正や追記が少しなされたらしい。
執筆時も、まだ明らかにされていないことがあったり、新たな事実が浮かび上がってくる中で報告された模様。
解説では、この本はユダヤ -
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イスラエル・パレスチナ問題、そして関連するテーマについて考えたいと思ってリストアップした中で最初はこれと選んだ本。ナチのホロコースト政策の詳細や関連する裁判等の戦後処理の経緯について細かくは知らなかったので前提知識が足りなすぎてなかなか読むのが大変だったし、有名な本なのである程度の骨子というか位置付けは知っていたけど、それでもやはり読んで良かった。「悪の陳腐さ」という本文最後の一節があまりに有名で、確かに重要なポイントではあるけれど、裁判全体のそもそもの位置付けや検察・弁護側そして判決に対してのアーレントの視点からの考察も重要。アーレントがいま生きていたら、現在のこの事態について、そしてイスラ
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やっと読み終えることができた。全部読んだ自分に拍手。
訳者である大久保和郎さんの解説、その後にある、山田正行さんの新版への解説の二つを読んで、本編に入ることをお勧めする。基本的にエピローグと追記以外は、アイヒマン裁判を傍聴したアーレントの報告書的な感じなので、彼女の思想だったり、悪って何?みたいな問いは登場しない。最初からそういうのが出てくると思ってた自分は、肩透かしを食らった。なので、二つの解説を読んで、本書の流れ、時代的立ち位置、出版後の論争などを知った上で、読んだ方が数倍面白いはず。
にしても、ドイツ生まれのユダヤ人である彼女が、全く感情的にならずに、どちらかに肩入れすることもなく、 -
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なんとまぁ438ページ。ぶっちゃけ、エピローグと追記を読めば、筆者の意図はわかる!が、なるほど…となるので、できれば全部読むのがおすすめ。
深井龍之介さんがYouTubeで言っていた本のフルマラソンでいうと、30キロくらいでキツかったぁ…
p.33 もしアイヒマンが殺人の共犯として告発されていたとしたら、果たして、彼は有罪を認めたであろうか?認めたかもしれないが、ただそれには重要な条件がついていただろう。つまり、彼が行っていた事は、遡及的にのみ罪となるのであり、彼は常に法を遵守する市民だったのだ。彼が最善を尽くして遂行したヒトラーの命令は、第3帝国においては法としての力を持っていたからで -
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理系大学受験のため、世界史は試験をパスする程度の知識しか学んでいなかったため、本書の前半は読むのに相当苦労した。出てくるカタカナの人物名・組織名を把握しきれず、相関関係なども分からなかった。それゆえほぼ流し読み状態であったが、当時のナチス政権が広範に渡ってユダヤ人の絶滅を、かなり熱心に行っていたという事は充分理解できた。
アイヒマンという人物は「ユダヤ人を絶滅させる熱意に満ちた極悪非道な人物」ではなかったようだ、という記述は本書で何回も出てくる。ナチスという政治団体で、上からの命令に従って動いた歯車に過ぎなかったのである。その事を言い訳にして、罪はあまり重くはないかのようにアイヒマン自身は思 -
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国家は権威・忠誠を与える根源的な場(共同体)であり、個人はその外部においては無意味である。ジョヴァンニ・ジェンティーレGentile(1875-1944)
全体主義。階級社会が崩壊して、根無し草の大衆が生まれた。量が多く、政治的に無関心・中立、階級意識を持たない、組織化されておらずバラバラ。公的な領域で他者と連帯して活動をしないで、孤立している。全体主義はこれら大衆を上手く動員した。全体主義は自由な行為の空間を限りなく減らして孤立している大衆をさらに孤立させ、それっぽい観念・イデオロギーを強制させる。大衆は自分で考える力を無くしてしまう。全体主義体制は大衆によって支えられている。▼全体主義の -
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エルサレムでのアイヒマンの裁判ー元ナチ親衛隊中佐でユダヤ人移住局長であったアイヒマンのユダヤ人強制移送を裁く裁判ーの取材報告。
著者は心理学者アーレント。アイヒマンと同い年でナチ政権発足後にアメリカに亡命した人物だ。
アイヒマンの犯した罪は、出世欲の強い人物の思考停止、想像力欠如が生んだとアーレントは指摘している。
たとえその背景に全体主義的統治、あるいは官僚制が人間を「行政装置の中の単なる歯車」に変える実態があったとしても、その罪は赦されるものではないとも書いている。
アイヒマンは裁判中、口元を不自然に歪めていたそうだ。恐らく神経症状ではないだろうか。
それで官僚制的日本企業に勤めていた