宮下洋一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
死刑について、諸外国と日本との現状を徹底的に取材したのが本書です。死刑は人権侵害にあたるからと死刑を廃止した国がある一方、死刑はあったほうがいいと国民の8割が感じているのが日本です。
全体を通して感じたのは、被害者遺族の取材があまりできていなかったのかな…加害者家族に対しての取材は結構できているのに…と。被害者遺族が大事な家族を殺害された事件を思い出しジャーナリストに語るのは難しいし、それだけ心の傷が深いんでしょうね…。本書で取り上げた事件の加害者は、罪を認め受け入れてしかも悔いている加害者ばかり…しかも、事件前も大きな問題もなかったのに…と、加害者に筆者が肩入れしているかのようにとれてしまいました。
でも、数は少ないんですが取材に応じてくれた被害者家族もいて、その悲しみはとても大きなものでした…。死刑というより、死刑に至るまでの期間、苦しみ抜いてほしい…そのために死刑は必要、そこが日本と欧米との違いなんでしょうね。ここまで宮下洋一さんの著書を読んできて、とっても重い気持ちになりました…。でも、知らなければ知らないままで過ぎていたでしょう…。そう思うと、こいうことも知ることができたこと、良かったと思いました。 -
Posted by ブクログ
死刑のある国で生きる
著者:宮下洋一
発行:2022年12月15日
新潮社
初出:「小説新潮」(2021年3、5、7,9月号、22年1,3,5,8月号)
スローニュース社サイト「SlowNews」掲載〝デス・ペナルティ~生と死のあいだで〟
安楽死や生殖医療などの分野で世界事情などを紹介しているノンフィクションライターの、書籍としてはおそらく最新刊。死刑をテーマにしているが、日本やアメリカなど死刑存置国での取材、そして、死刑制度をなくしたフランスやスペインでの取材を敢行。加害者、加害者の家族、被害者遺族、さらには、警察官に現場射殺(という名の死刑)された何かの容疑者の家族などの話を聞き、死刑制度についての是非を世に問うている。
著者は死刑存置派か廃止派を明らかにしていない。というより、本人も結論を出していない。取材過程を読むときわめてリベラル、すなわち廃止派に近いように感じられる。しかし、エピローグを読むと存置を支持しているように思える。さらに、あとがきにおいては、制度はそのままにして法務大臣がサインをしないというのが一番いい、みたいなことを書いている。取材して考えてみたい、という常套句は、単に取材して本を出すための理屈づけのように思えなくもない。
なお、先進国で死刑制度が残っているのはアメリカと日本だけで、ヨーロッパは廃止している。アメリカは、1度、連邦で廃止になったが、復活した。しかし、実質的な廃止を含めて行っていない州の方が多いようだ。著者は、欧米が廃止しているのだから、日本もしないとだめだろう、という理屈は通らないと繰り返す。なぜなら国の文化的背景がある、とりわけキリスト教文化ではない日本は事情が違う、と主張するが、その簡単すぎる理屈にはどうにも納得ができない部分があった。
「自らの家族が殺されても、死刑廃止と言えるのか?」というのは死刑存置派の殺し文句でもある。これに関する研究が紹介されていた。
テキサス大学のマリリン・ピーターソン元教授と、ミネソタ大学のマーク・ウンブライト教授は、極刑が遺族の感情にどう影響を及ぼすかの研究を行い、2013年に発表した。死刑があるテキサス州と仮釈放のない終身刑が最高刑であるミネソタ州。ミネソタ州の方が体力的、心理的、行動的に健康であることが分かった。その上、死刑がある州では、裁判が長引いたり、死刑判決が覆ったりするなどの影響もあり、遺族のストレスが継続する特徴があることを証明した。
なお、内閣府が2019年11月に実施した意識調査によれば、日本では80.8%が「死刑もやむを得ない」と答え、「廃止すべき」は9%だった。1967年には賛成70.5%、反対16%、1975年には賛成56.9%、反対20.7%。平成期に入って容認派が徐々に増えてきている。
1.アメリカ・テキサス州
死刑制度が残るアメリカの保守的なテキサス州で、ある死刑囚を2度、取材している。最初は死刑執行26日前、2度目はコロナで執行が1年半近く延びた後の執行1週間前。日本では執行の当日まで知らせないが、アメリカでは死刑が確定してある程度すると、執行日も決められ、本人に知らせることはもちろん、ホームページで公表もしているようだ。
この容疑者は、妊娠中の妻、5歳の娘、義父を殺した。犯行については非常に後悔し、死刑になって妻と娘に会いたいと著者に語っている。また、コロナで執行が延びた時には「残念に思った」という。これだけの犯罪をしていれば死刑は当然で、自分も死ぬ準備ができていたのに、延びてしまったことが残念だったということである。しかし、神様がもう少しここに残るように決められたからでしょう、という納得の仕方をしている。この死刑囚をいまさら死刑にする必要があるのだろうかと、著者は疑問を呈している。
死刑執行には、被害者遺族、加害者関係者の立ち会いのほか、ジャーナリストの立ち会いも許されている。テキサスでは5人の記者まで認められるらしいが、著者は認められなかった。常連の2人の記者が立ち会い、執行の様子は彼らによってちゃんと報道される。日本の状況を考えると驚きの一言。
2.フランスの死刑廃止
フランスはヨーロッパでは一番遅く廃止した。執行停止は1977年9月だったが、正式廃止まで、その後も死刑判決は続いた。最後に判決が下されたのは1980年10月28日、被告人は警察官2名を殺したフィリップ・モリス(64)だった。
フランスの死刑といえばギロチン。中世の話のように思えるが、1977年までこれで行われていた(死刑囚は27歳だった)。フランス革命後、一瞬で首を落として苦しむことがないという医学博士ギヨタン(死刑廃止論者)の主張が通り、1791年から採用された。それまでは貴族には斬首刑、平民は絞首刑だった。
フランスでの死刑廃止論争は、政治の場に持ち込まれた。右派のポンピドー大統領も、人を殺していない者を死刑にしてはならない、と発言。続く中道のジスカールデスタン大統領は死刑廃止には反対という言い方をした。しかし、1981年にミッテラン大統領が誕生し、死刑廃止運動に熱心だった弁護士ロベール・バダンテールを担当大臣にして廃止を実現した。
著者は今回、そのバダンテールにインタビューを行っている。92歳の高齢だったが、確りと答えたようだった。彼が言うには、ポンピドーもジスカールデスタンも本心では死刑廃止を望んでいたという。また、2020年9月の調査結果で、死刑復活を55%の国民が肯定している結果について、それは誤解だとはっきりと答えている。そうした調査は、なにか凶悪な事件などが起きた直後に行われがちだから、フェアではないというのである。確かに、死刑廃止か存置かに留まらず、軍備拡大か否かの論議は、なにかことがあった時に議論されがちである。日本人としても注意すべき点である。
3.スペインでは残酷な死刑が1974年まで実施
スペインはフランコ独裁政権が1975年まで続いたが、主流だった絞首刑が1832年に国王によって廃止されている。しかし、その代替刑として鉄環絞首刑が導入された。椅子の背もたれに巻かれた鉄の輪の中に首を挟ませ、後ろにある太いボルトを回しながら締めていく残忍な方法。映画「サルバドールの朝(2006)」で紹介されている。最後にこれで死刑になったのは、独裁政権に反対する25歳のアナーキストだった。1978年の憲法制定により、死刑は事実上廃止となった。
現在、スペインでの最も重い有期刑は懲役20年10月。例えば3人殺していたら、60年余りとなるが、最長で40年と決められている。終身刑もあるが、2015年に「見直し可能な終身刑」に改正され、服役から25-35年の間に仮釈放に向けた申請が行えるようになった。
このスペインで、息子を殺された母親へのインタビューをしている。犯人と息子は子共の頃からの知り合いで、バルで息子が彼に対して鼻持ちならないことを言い続け、「消え失せろ、このナチ野郎」というようなことを言ったらしく、殺された。普通殺人が適用され、懲役11年3ヶ月、8年もたたない時期に仮釈放された。しかも、事件を起こした地元に戻り、元の家に住んでいた。被害者のすぐ近所だった。スペインでは、近づいてはいけないとの禁止命令をむやみには出せないようだ。また、村の住民に「彼に戻ってほしくない」という思いが強くなかったからだろうとの証言も得ている。
4.日本その①:妻子6人を殺した死刑囚を取材
2017年10月、茨城県日立市で妻と5人の子供を刺殺し、自宅に火をつけ、自らも焼身自殺を図ったが死にきれず警察に出頭した小松博文は、逮捕から1年後、拘留中に持病の肺高血圧症による心不全で意識を失い、心停止に。手術を経て一命を取り留めたが、その後の裁判(1審)で死刑判決が出た。この被告人に著者は2021年、面会して取材した。2度取材。
意識を失ったことにより、本人は犯行時の記憶を失っていた。どうして妻を殺そうとしたのかも、よく覚えていないという。ギャンブル癖が治まらず、妻からは離婚を迫られていて、犯行に及んだようだ。妻は生活費を捻出するため夜の仕事に出ていたが、週刊文春の報道によるとそこで男ができたという。
被告人は、犯行時のことを覚えていないが取り調べに対して犯行を認めている。そして、著者による取材については、死刑は当然であり、絞首刑はなまやさしい、自分が殺したのと同じ方法で殺されて当然だとも言う。また、控訴は取り下げたいという本心も覗かせる。無期懲役より死刑の方が、気が楽だと。
著者は、十分反省し、しかも記憶にない人間に死刑は必要だろうかと、アメリカでの取材と重ね合わせて思考している。
5.日本その②:周囲が同情する死刑囚
2010年3月、宮崎市の自宅で、妻と5ヶ月の息子、同居の義母を殺害し、自ら通報して第三者による他殺を装ったが、見破られて逮捕された。22歳で真面目と評判だった青年。憧れの航空自衛隊に18歳で入り、妻となる女性と出会って結婚、子供を授かると、好きだった土木の仕事に転職して作業員になった。ところが、生活を支えるだけの収入が得られず、義母になじられ、暴言を吐かれ、時には暴力をふるわれた。
彼のことを子供のころから知るお寺の住職を先頭に、地元住民たちが減刑嘆願書を提出し、やがて「支える会」へと発展した。このケースでは、被告人本人への取材はしていない。周辺者、関係者への取材から、どうやら妻には男がいて、時には家の外で待てと追い出されることもあったらしい。彼はセブンイレブンで時間をつぶした。また、収入は少なくとも25万円はあったそうで、22歳にしては悪くなかったようだ。結婚前、義母と妻になる女性は被告人の両親を1度だけ訪れていたが、その時の態度や発言にも非常に違和感があったようだ。
さらに決め手は、妻の弟。遺族の一人である彼は、最初は犯人に対して厳しい態度を取ったが、1審後には、「支える会」の人と行動をともにしつつ、被告人にも会い、態度が変化していったという。著者は、恐らく彼は死刑を望んでいないのではと想像する。
6.日本その③:本心では死刑を望んでいない被害者遺族
2011年11~12月にかけて、大阪府堺市で発生した連続強盗殺人事件。ショッピングセンターから出て来た主婦を車中で脅迫して30万円を奪い、キャッシュカードから5万円引き出し、ラップフィルムで顔を巻いて窒息死させ、ドラム缶で骨になるまで焼いた。1ヶ月後、堺市北区にする象印マホービン元副社長の資産家宅に入り、現金80万円を奪って、やはりラップフィルムで窒息死。犯人は50歳、この7年前には保険金目当で自宅に放火して懲役8年をくらい、仮出所して4ヶ月後の犯行。
犯行動機、手口など、どれをとっても身勝手で残忍、2019年に最高裁で死刑が確定した。このケースでは、著者は2022年に遺族計5人に会って取材している。1人目は被害者(元象印)の甥で、真宗大谷派住職。真宗大谷派は、仏教界で唯一、以前から死刑執行の停止を求めていた宗派。なお、2020年には全日本仏教会が死刑制度反対の方針を打ち出している。被害者も子供時代はこのお寺で育った。
犯行そのものに同情の余地がないため、公判では死刑制度の是非が主な争点となった。1審、2審とも死刑判決。しかし、被告人はそのような残忍な犯行を行った者とは思えない衰え様で、2審では自力で立てずに車椅子を使っていた。遺族である住職は2審判決の際、「良かった」と思い、うるっときたという。死刑には反対だが、真宗大谷派の姿勢に違和感も持っていた。それは死刑反対を訴えるだけでアクションがない、というものだった。
住職の意見は、この死刑囚は死への恐怖を持ちながら生き続けることが、一番に科せられたことであり、刑の執行よりも死刑囚が刑の執行までに経験する人間的なプロセスを期待しているというものだった。自然死は別だが、命は死刑により完結してはならない、と。
この住職の姉にも、電話取材をしている。つまり、被害者の姪。彼女は嫁ぎ先の大阪から被害者をよく訪ねて面倒を見ていた。被害者の妻は施設に入っているため、被害者は寂しくなるとこの姪に電話するなどしていた。彼女は被告人のことを「奴」と呼んで憎み、公判では「極刑を望む」と証言した。しかし、著者の電話取材が進むとそれを後悔している雰囲気も感じられた。奴のやったことは信じられないが、だからといって自分が(国に対して)人を殺してくださいとは言えない、というのだった。
もう一人の被害者、主婦の遺族にも会っている。彼女の夫(80)と息子、娘。夫は公判で「極刑を望み」、息子は「生きたまま溶鉱炉に突き落としたいと証言した。ドラム缶で焼かれた苦痛を味あわせたかった。娘は警察の捜索の仕方に批判的だった。死刑ではなく仮釈放なしの終身刑という考え方もあるがと著者がふると、拘置所の方が(刑務所より)いいご飯が食べられるそうなので、死ぬまで悪い環境で暮らすならいいかもしれない」と否定的ではなかった。
7.フランス:現場射殺という名の死刑
これについては、交通違反をした時に射殺された青年の母親を取材している。無免許運転で捕まりそうになり、車で逃走しようとした際に警察官のひとりに接触したため、「車で殺されそうになった」との判断で射殺したという。やりすぎではないかという論争。そこに、移民問題と人種的な差別が絡む。しかし、これはアメリカでよくある忌まわしい事例には匹敵するかもしれないが、死刑問題に絡めるのはちょっと無謀であるように思えた。 -
【お試し特別版】安楽死を遂げた日本人
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