三島浩司のレビュー一覧
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古風なタイトルだが、舞台は現代。
京都を中心に突然土が人の上に被さり生き埋めになるという怪異な現象が起こる。この土盛りは墳墓と呼ばれ、生き埋めになった人は玄主と呼ばれる。玄主は自力で墳墓から抜け出すこともあれば、救出されることもある。他方、同様に土盛りが生じ、そこから不定形の生物のようなもの、シノバズも現れるようになった。シノバズは人間の動機を殺す。動機を殺されると、まずシノバズを認識することができなくなり、さらに重篤になるとまるで意欲を失ってしまう。人間の動機を殺す作用は墳墓からも玄主からも発せられる。
なぜシノバズが現れるようになったかというと、最初の玄主、一号玄主である皆土清美が土に埋もれたとき、たまたま近くを通りがかった高校生の寺沢俊樹がそれを掘り出したからだとされている。そのとき、他の人は生き埋めになった少女を救出しようという動機を殺され、墳墓が出現したことすら認識できなかったのに、寺沢だけがそれに気づいて、救助に向かったのだ。
京都周辺に出現するようになったシノバズを討伐する組織、高天原探題が結成される。隊員のことは被官と呼ばれる。上司は執権、連署など、律令制の名称を用いて、一種異様な雰囲気を作っているが、和風の術語は三島浩司のトレードマークである。
動機を殺すシノバズと対峙することは困難なので、被官は5人でチームをつくり、次々に出会い頭をねらってシノバズに襲いかかるという戦術をとる。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将とこれは武道の団体戦の名称。シノバズは警棒で殴られ続けると死んでしまう。銃も使われたことがあったが、シノバズに動機を殺され呆然状態になった被官が一般人を誤射してしまった事件があり、このような原始的な方法が定着した。
基本的な設定はまあこんなとこ。容易に近寄りがたい奇妙な生物を討伐する組織と個性的な登場人物の人間模様が絡むあたりは『ダイナミックフィギュア』、異様を失った人間が大量発生してしまうところや、主人公が自分と関わる因果の輪を閉じようとするあたりは『シオンシステム』のヴァリエーションなのが、ちょっと気になる。最新作なのに。
一号玄主の出現から数年後、寺沢は隔離状態にある清美に会うことを目的に高天原探題にはいっている。他方、高天原探題は不祥事を起こしたことから改組され、禁傾と呼ばれる謎の組織のメンバーは排除され、さらに監査役が活動を監視する体制になっている。
清美は人間の動機を殺してしまい、たいがいの人間には見ることもできなくなってしまうので、ひとり隔離された状態で動物の世話をする仕事をしているのだ。
寺沢は清美を助け得たように、元来、動機を殺されにくい特徴を持っている。生物は他の生物に危害を加えないようでいても、最後の最後に自身が危険に陥れば殺意を持つに至る。殺さずなどの誓いを立てた者を持戒者といい、持戒者はシノバズや玄主を見ることができる。寺沢は、必ずしも持戒者ではないが、殺すという覚悟があれば殺すし、殺さないと決めたら殺さないという矛盾のない人間、隠された動機がない人物なのだ。シノバズが及ぼす力は受戒であり、他の生命体からの危険を排除する力である。墳墓からは玄主とともに銅剣が出土するが、銅剣は動機を増幅し、シノバズを前にしても、動機を殺されずに向かっていくことができる破戒の剣である。よって銅剣を持った者は暴走もしやすい。持戒・受戒・破戒、これが本書の生物学的アイディア。
寺沢と清美の純愛は重要な縦糸。また、敢えて東京を舞台にしないというのも、三島作品の特徴。はからずも評者は京都への行き帰りに本作を読んだ。ちょっと短くて、もう少し展開して欲しい気もするが、そうすると『ダイナミックフィギュア』になるだけか。 -
Posted by ブクログ
『ダイナミックフィギュア』もそうだったが、この作品も設定は極めて理路整然としている。が、三行では説明できない。本の帯には「戦国時代+メカ+タイムスリップ」と書いてあるが……
主人公の大学生・花輪めぐるほか見ず知らずの4人の男女が戦国時代にタイムスリップする。日常生活において、何らかの扉を開けるとそこに自分のドッペルゲンガーがいて、その瞬間、戦国時代にスリップしているのだ。不在中はドッペルゲンガーが適当に生活しているらしい。あちらには着の身着のまま到着するが、ケータイとかは持って行けない。危険が迫ると、メカ鎧のようなヌキヒが自然と現れて守ってくれるし、また武器も出してくれる。そうして、歴史上重要な人物を殺すなど歴史が変わるようなことをすると、現代に戻ってこられる。そういう彼らのことは楔者と呼ばれている。すなわち歴史に楔を打ち込むのだ。でも戻ってきても歴史が変わっているわけではない。最初は桶狭間の戦いで,どうやら信長戦記とお付き合いしなければならないらしい。こちらで2週間の間に戦国では1年が経過するという平行関係にあり、彼らはたびたび戦国時代に飛ばされる。誰が何のためにそんなことをさせているのかはわからない。もちろん命に関わることもあり得るのだが、ヌキヒにより相当守られているので、シュミレーション・ゲーム感覚でもある。また、信長や秀吉などあちらの重要人物もまたヌキヒを纏っていて、強大な力を発揮するのでそれと戦わねばならないのだ。
これが設定の重要な半分。
主人公・花輪めぐるは実は楔者ではない。彼はある日、周囲の時間が止まるという怪異に遭遇する。戦国時代の服装をした少女が下半身を天井に埋め込まれた状態でぶら下がっているのを発見し、助け出すのだが、少女はすぐに立ち去ってしまい、時間も流れ出す。しかし後日、行き場のない少女がめぐるのアパートにやってくるので彼は保護してやる。少女は名前も来歴も「知る必要はない」と教えないのだが、めぐるは『鶴女房』を連想して彼女を「ツゥ」と呼ぶことにする。ツゥは「のぞく必要はない」と部屋にこもってしまう。中からはカタン……、シッ……と奇妙な音が聞こえてくる。めぐるは気になってふすまを開けてしまう。そこでタイムスリップ。
戻ってきてから、めぐるとツゥの共同生活が始まる。ツゥの態度はすげなく尊大だが、凛としていて、辛抱強く慣れない時代での生活を覚えてゆこうとする。健気なツゥにめぐるはちょっと距離をとりながら接していく。ぎこちなくて、ガラス細工のように繊細なラヴ・ストーリー。どう考えても悲恋が待っているとしか思えないだけに、日常的なありきたりの一瞬一瞬が愛おしい。
めぐるにはドッペルゲンガーは現れず、ツゥが「のぞく必要はない」と部屋にこもるときが、めぐるが戦国に赴くときだ。そして、他の楔者たちのところにドッペルゲンガーが現れるときだ。しかし、現代の彼らにとってタイムスリップは災厄でしかなく、何とか回避しようとする。つまり扉を開けないようにする。しかしあの手この手で彼らは戦国にタイムスリップさせられてしまう。
めぐるが戦国に赴くとまず裸足の足の裏にツムギという名のヌキヒが現れて、足を守る。戦闘となると、ナナコ、サヤ、リンズ、ギンランと次々と強力なヌキヒが彼の身を守る。敵のヌキヒもどんどんエスカレートしていく。タイトルの「ガーメント」とはこの「衣装」のことであろう。タイムスリップでは線維のように織ったものなら持って行けることがわかるなど、全体に織物の意匠が仕掛けられている。
ミッションがはっきりしないまま、戦国と現代を行き来しつつ、タイムスリップと関わるこの世の構造すなわち「世の実相」、ツゥの正体とその役割が、謎として解明されるのを待ちながら、本能寺の変へと物語は進んでいく。『鶴女房』の意匠も作品のそこかしこに仕掛けられていて、それは見事なほど。
作者の三島浩二のホームページをみると、執筆のポリシーのひとつに「道徳心に問いかける」ものにしたいとある。ここでも「世の実相」が哲学的な問いを投げかけてきて、物語に深みを与えている。先が読みたいのに、読むと終わってしまうので読み進めたくないと葛藤し、最後は胸を締め付けられるような思いになる。それは『ダイナミックフィギュア』と同様に。
帯にならって三題噺で表現するなら、「鶴女房+モビルスーツ戦記+時間哲学」。 -
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上巻は「ロボット活劇」の印象が強かったが下巻からは「ファーストコンタクトSF」の色が濃いように思える。 『他者と個人』とくに『個人・個(孤独)』を前面に押し出した作りは時代の空気とマッチしていてリアルに感じる。 登場人物の多さの割にキャラクターの描き分けが出来ていなかったり、同じような描写と行ったり来たりを繰り返す展開には「うーむ」な感じであるな。 が、そんなこたぁどーでもヨロシイ些末な疵なのである。 二足歩行巨大ロボットを成立させた緻密で分厚い設定とディテール、その緻密に組み上げられ構成された文章から不意を付くように漏れ出し噴出する「熱いキャラクターの台詞」にシビレるのである。 終盤の展開や幕切れも「唐突」且つ「取って付けた」感が漂うが、燃えに燃え倒すシチュエーションなのである「ヨシ、オッケー」以外に言葉なぞ無いのであります。
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ハードSF設定の世界観にガジェットとディテール(屁理屈ともいう)を大量投入して闘うスーパーロボットを成立させているところがエラい。 二系統の操縦法を持つロボット(ダイナミックフィギュア)という設定も鉄人28号+マジンガーZな感じで楽しい。 行動原理の分からない敵=キッカイの生態も面白いなぁ。 ちょっと癖のあるネーミングセンスに若干戸惑うが、これは読んでいる内に慣れてしまうかな、と。 大量に登場人物が出て来るが、あまりキャラが立っていないので読んでいて誰が誰だか分からなくなったが、とりあえず気にしない。 血湧き肉踊る熱血バカロボット活劇な上巻だったが、下巻でどういう方向にシフトしていくのか楽しみであります。 『ガンパレード・マーチ』好きには強くオススメ。
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ネタバレどれも近未来SFとは思えない、昭和の頃の下町人情物みたいな雰囲気が特異な一本。こーゆーのがジャンルの持つ巾なんだろう。
背表紙の惹句から判断すると、ターミネーターの後日譚みたいなものを連想してしまいそうだが、ロボットの反乱はあくまでも後景で、コアになるSF的ガジェットは〝分水嶺〟と呼ばれるもの。これの周囲では確率が歪み、例えばコインを千回投げたら表の目が502回出る。こんな僅かなひずみでも長いでも見れば、というので、これが闇取引の対象となって、それをまつわるあれこれが物語を動かすエンジンになる。
〝分水嶺〟の原理についての説明は一切なされないが、登場人物の言葉として、誰かが運命に抗ったとき、捻じ曲げられて怒った運命が、反抗を長い目で見てチャラになるよう、反対にねじ曲がった運命を生み出すのだ、というようなことが語られる。でここから、運命を換えられるのが人だ、というような議論が出てくる。この辺りは興味深いんだけど、お話としてはやっぱり少し華がないかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレリアルロボットSFの系譜をきちんと継いでる重厚SF、という印象を上巻でしっかりもてたので、物語の収束に非常に期待したんだが…残念なことに下巻の、特に後半部分における駆け足感が非常に残念。
ふろしきを広げ過ぎたって言うのとは違う、むしろ上巻と下巻前半のふろしきを広げるところは大いに楽しめたんだけど、その広いふろしきを持て余してしまったんじゃないかという印象。四辺を持とうにも手が広がらなかった的な感じというか…
続編を書かない(よね、あのエンディングで続編は期待しないし出たら失望する)タイプの小説なら、少々冗漫になっても伏線にはきっちり片をつけつつ、エンディングをキチっと〆ないと。いちばんの核心部分たるヒロインの立ち位置すらフワフワにしてしまっては、せっかく積み上げてきた物語も台無しになってしまっているじゃないか!
続編は望まない、でも大幅追記補正して、1500Pクラスで完全版出してくれるなら、是非期待したい。それでも風呂敷畳むのには足らないかもしれないし、読者層はさらに限定されるかもしれないけど。