【感想・ネタバレ】ガーメント 電子特別版 ≪前≫のレビュー

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Posted by ブクログ 2016年02月09日

 『ダイナミックフィギュア』もそうだったが、この作品も設定は極めて理路整然としている。が、三行では説明できない。本の帯には「戦国時代+メカ+タイムスリップ」と書いてあるが……

 主人公の大学生・花輪めぐるほか見ず知らずの4人の男女が戦国時代にタイムスリップする。日常生活において、何らかの扉を開ける...続きを読むとそこに自分のドッペルゲンガーがいて、その瞬間、戦国時代にスリップしているのだ。不在中はドッペルゲンガーが適当に生活しているらしい。あちらには着の身着のまま到着するが、ケータイとかは持って行けない。危険が迫ると、メカ鎧のようなヌキヒが自然と現れて守ってくれるし、また武器も出してくれる。そうして、歴史上重要な人物を殺すなど歴史が変わるようなことをすると、現代に戻ってこられる。そういう彼らのことは楔者と呼ばれている。すなわち歴史に楔を打ち込むのだ。でも戻ってきても歴史が変わっているわけではない。最初は桶狭間の戦いで,どうやら信長戦記とお付き合いしなければならないらしい。こちらで2週間の間に戦国では1年が経過するという平行関係にあり、彼らはたびたび戦国時代に飛ばされる。誰が何のためにそんなことをさせているのかはわからない。もちろん命に関わることもあり得るのだが、ヌキヒにより相当守られているので、シュミレーション・ゲーム感覚でもある。また、信長や秀吉などあちらの重要人物もまたヌキヒを纏っていて、強大な力を発揮するのでそれと戦わねばならないのだ。

 これが設定の重要な半分。
 主人公・花輪めぐるは実は楔者ではない。彼はある日、周囲の時間が止まるという怪異に遭遇する。戦国時代の服装をした少女が下半身を天井に埋め込まれた状態でぶら下がっているのを発見し、助け出すのだが、少女はすぐに立ち去ってしまい、時間も流れ出す。しかし後日、行き場のない少女がめぐるのアパートにやってくるので彼は保護してやる。少女は名前も来歴も「知る必要はない」と教えないのだが、めぐるは『鶴女房』を連想して彼女を「ツゥ」と呼ぶことにする。ツゥは「のぞく必要はない」と部屋にこもってしまう。中からはカタン……、シッ……と奇妙な音が聞こえてくる。めぐるは気になってふすまを開けてしまう。そこでタイムスリップ。
 戻ってきてから、めぐるとツゥの共同生活が始まる。ツゥの態度はすげなく尊大だが、凛としていて、辛抱強く慣れない時代での生活を覚えてゆこうとする。健気なツゥにめぐるはちょっと距離をとりながら接していく。ぎこちなくて、ガラス細工のように繊細なラヴ・ストーリー。どう考えても悲恋が待っているとしか思えないだけに、日常的なありきたりの一瞬一瞬が愛おしい。

 めぐるにはドッペルゲンガーは現れず、ツゥが「のぞく必要はない」と部屋にこもるときが、めぐるが戦国に赴くときだ。そして、他の楔者たちのところにドッペルゲンガーが現れるときだ。しかし、現代の彼らにとってタイムスリップは災厄でしかなく、何とか回避しようとする。つまり扉を開けないようにする。しかしあの手この手で彼らは戦国にタイムスリップさせられてしまう。
 めぐるが戦国に赴くとまず裸足の足の裏にツムギという名のヌキヒが現れて、足を守る。戦闘となると、ナナコ、サヤ、リンズ、ギンランと次々と強力なヌキヒが彼の身を守る。敵のヌキヒもどんどんエスカレートしていく。タイトルの「ガーメント」とはこの「衣装」のことであろう。タイムスリップでは線維のように織ったものなら持って行けることがわかるなど、全体に織物の意匠が仕掛けられている。

 ミッションがはっきりしないまま、戦国と現代を行き来しつつ、タイムスリップと関わるこの世の構造すなわち「世の実相」、ツゥの正体とその役割が、謎として解明されるのを待ちながら、本能寺の変へと物語は進んでいく。『鶴女房』の意匠も作品のそこかしこに仕掛けられていて、それは見事なほど。
 作者の三島浩二のホームページをみると、執筆のポリシーのひとつに「道徳心に問いかける」ものにしたいとある。ここでも「世の実相」が哲学的な問いを投げかけてきて、物語に深みを与えている。先が読みたいのに、読むと終わってしまうので読み進めたくないと葛藤し、最後は胸を締め付けられるような思いになる。それは『ダイナミックフィギュア』と同様に。
 帯にならって三題噺で表現するなら、「鶴女房+モビルスーツ戦記+時間哲学」。

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