吉村龍一のレビュー一覧
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〇恐怖の山登り、表紙が読者に襲いかかる
道庁森林事務所日高支所に所属する孝也は、大先輩の山崎と共にいつも活動している。行方不明者でカメラマンの渡辺やエゾシカがずたずたに「喰われている」のを見てヒグマ(羆)による食害事件だと気づいた二人は、他の面々と捜索を開始し羆を仕留めるも、カメラマンを食ったのは別のもっと大きい個体ではないかと疑いを持つ。そして後日山で羆に遭遇したという道議から、それを裏付ける証言を得るが…
次々と見つかる死体や襲われる人々。大きさしかわからない、得体のしれない相手に立ち向かおうとする恐怖感はビシバシと伝わってくる。自分たちは生きて帰れるだろうか。いくら山を知っているとは言 -
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吉村龍一『隠された牙 森林保護官 樋口孝也の事件簿』講談社文庫。
吉村龍一の初の連作短編集。『オロマップ』を改題、一部加筆、文庫化。あの傑作『光る牙』の森林保護官・樋口孝也を主人公にした6編を収録。北海道日高の大自然を肌で感じられる傑作冒険小説。いずれの短編もスルメの如き味わいがある。
『砕けた爪』。もしや『光る牙』の羆の悪夢再びかと思うような展開で始まる物語。羆の出没の恐れのある樋口の担当区域にキャンプを張り、居座る自然愛好家の徳永と原田の二人…
『溢れる森』。エゾシカが事件の主役となる。かつて絶滅が危惧されたエゾシカだったが、近年は個体数の増加により害獣扱いされる。自然環境を維持し、 -
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『旅のおわりは』に次いで描かれた書き下ろし青春小説。青春時代の苦悩と成長の過程が、200ページあまりの中に凝縮された、爽やかな作品であった。
驚いた事に主な舞台は岩手県である。主人公の塊太の実家の牧場の所在地は旧山形村であろう。作品の中には、盛岡駅のさわや書店と思われる書店が登場したり、実際の北上市のアメリカンワールド、みちのくラーメン、東日本大震災の被災地の宮古市、田瀬湖、奥州市、一関市などが描かれる。きっと、岩手県民や岩手県に所縁のある方々が読めば、臨場感が増すに違いない。
夏休みに牧場の息子の塊太は一人旅を続ける直次郎と出会う。ある事件をきっかけに人前で自分を表現出来なくなった塊太と -
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主人公、鉄の過酷な運命にとにかく圧倒された。
生まれ育った村での差別、いじめ、凄惨な仕打ち。
人間が持っている闇の部分と憎しみが露にされた序盤、あまりのショックに読み続けられるか不安になったほど。
村を出てからの鉄の生き方が力強い。
日々仕事に打ち込むひたむきさと、重労働の後の達成感。
仲間との連帯感。新しい世界が面白い。
盲目の女性との出会い。こころの支え。祈りと安寧。
それなのにまたも運命に翻弄され、人生が変わっていき鉄の人生から目が離せなくなってくる。
残酷さを何度も味あわされる鉄が問う。
なぜ生きる?
生きるとは?
極限まで打ちのめされた鉄の魂の言葉が心に刺さってくる。
久しぶりにず -
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登場する羆は少し現実離れしているような印象だが、とにかく引き込まれた!
天気や山の風景、車や銃の感触など細かい描写が多くて、臨場感があったからかな。主人公と同じ目線になれて読み進めることができた。
とくに追われながらの下山の際など、主人公の気持ちがこちらにも伝播してくるようで、まさに手に汗握る展開だった。
読みやすい一冊なので、小説は苦手という方にも読んでもらえるかなと思う。
あと、著者は山というか自然が好きなんだなと強く感じた。括り罠の件からは警鐘を鳴らしてるように思うし、白い個体は山の総意のように描いているし、山に携行する装備についても抜かりはない。
もとが自衛官というのもあるかもしれ -
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北海道・日高山脈。玄冬の山に単身分け入ったカメラマンが無惨な遺体となって発見される。息詰まるサスペンスさながらのプロローグ。やがて、これは殺人ではなく食害事件だと断定される。襲撃したのは冬眠しそこなった羆(ヒグマ)。その羆は駆除隊により仕留められ一件落着と思いきや、新たな羆による被害者が現れる。再び山へと向かい、最強の野生動物「羆」との壮絶な死闘を描く・・・。
短いセンテンス、効果的な体言止めがスピード感あふれる文体を生み、濃厚な自然を活写していく。山、雪、雨、生きとし生けるものへの畏怖の念を感じずにはいられない一気読み必至の冒険小説。
先日「羆嵐<吉村昭著>」読んで以降、羆、狼・・・、獰 -
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ネタバレラッシュフィルム観てるみたいな荒削りの小説だが、その荒削りさが気を吐く元気さを飾っていて、思ってたより面白い仕上がりになっている。これメッケもんやったかも。
こないだ読んだ「約束の地」という小説に、設定も登場人物も展開も非常に似ているし、「約束の地」の方が読み応えも文章のこなれ方も上なんだけど、荒っぽさやリズムの力強さ、冗長じゃないすっきり味わいなんかは、こっちに軍配が上がる。総合評価ならそこそこエエ勝負じゃないかと思う。
動物好きには少々アレだし、出てくる蘊蓄にも少々眉つばな内容があるけれど、手に汗握って「あぁ、楽しかった」で済ませるアクション小説読みたいならお勧めです。 -
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何気なくジャケ買いしたのだけれど、これが予想外に面白かった。そして、予想外に文章が巧みな作家さんだった。
北海道日高山脈に出没した白い羆(ひぐま)と、それに対峙する森林保安員のお話なわけだが、単なるパニック物ではなく、決して犯してはいけない神聖な領域というものが確固として存在すること、それをないがしろにする人間たちの驕りと愚かさ、を見事に描き出している。
張り詰めた緊張感、ノンストップの緊迫感、見えない相手の圧迫感、羆の怒りと悲しみ。
細かな描写で多少わかりづらい箇所はあるものの、始まりから終わりまで、圧倒的なディテールの細かさで物語りは裏打ちされる。
ぐいぐい引き込まれた。傑作だと思います。 -
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本作は第6回小説現代長編新人賞受賞作であり、選考委員である花村萬月・角田光代という両作家のコメントが本の帯に印刷して巻かれている。さらに帯の正面に太文字で描かれたセンセーショナルな言葉『生きることは殺すこと』。
そもそもが書店で手にとったのは、新作の『光る牙』。日高を舞台に羆との対決を描いた山岳小説とのお触れだったので興味を引かれのだっがが、自衛隊出身の肉体派作家を売り物にしたこの新人作家がそもそもどうやって出てきたのかというところで、このデビュー作からしっかり読んでみようと思ったのだ。
というわけで本書を紐解くと、「生きることは殺すこと」と能書きを与えるほどには、強烈なバイオレンス -
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ネタバレ初めての熊作品。読み始めてすぐにその場にいるかのような臨場感を味わえた。山の中の風、匂い、音、雨や雷などの自然と、人々の息づかいや羆の咆哮がリアルに体感出来ました。ストーリー自体は想像通り。しかしあの臨場感はすばらしい。
説明
内容紹介
厳冬の北海道、消息を絶ったカメラマン捜索のため、若き森林保護官はスキーを履き、険しい山中へ向かう。カメラマンは無残な遺体で発見され、手負いの羆は銃殺され事件は一件落着したかに見えた。しかし、噛み跡はその羆のものより遙かに巨大だった。最強の野生動物「羆」との壮絶な死闘を描く、元自衛隊の、期待の大型新人による傑作山岳小説。
はかりしれない自然への畏怖の念。血が