前川知大のレビュー一覧
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ネタバレ薄く読み易そうだなと軽い気持ちで手に取ったが、冒頭3ページの衝撃、戦慄。
胃液をなんとか飲み込んで一呼吸おいてから本編へ。
侵略者が人間から奪うもの、それは概念。奪った概念を蓄積して人間らしくなっていく地味な設定。作中の街人A視点で見るならば、散歩しているだけの地球侵略者史上最も被害の少ない物語だが、読者には恐怖を与え続ける。
読むという概念が奪われたら、本を読むことができな、、いや、読むことができないという思考にも至らないから読めない喪失感もないのか、、、と、物語に入り込みながら読み進めると、本質まで辿り着くにはかなりのニューロンを駆使しなければならない。それに追い討ちをかける圧倒的な背 -
Posted by ブクログ
この漫画の主人公は魂石回収業者の桜井と天野。
公務員風のビジネススーツに身を包み常に名刺を持ち歩く桜井とは対照的に天然で掴み所ない天野、順風満帆とはお世辞にも言えぬ凸凹コンビが、故人の記憶が残留する場所を訪れ、記憶の結晶―「魂石」を回収していく。
魂石回収という特殊な職業に就きながらも、桜井は非常に生真面目な善人。
しかし彼もまた歪みを抱え、人生に悩み挫け迷う人々との出会いによってその歪みと否が応にも向き合わざる得なくなる。
基本一話完結の連作シリーズ。結末は苦く救いのないものが多い。単純な二元論で割り切れる善人や悪人は登場せず、パッと見善人がグロテスクな本性を隠していたりもする。
もう一つの -
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魂の痕跡=魂石が不幸にして砕け散った場所から魂を回収するお仕事、もしくは今死のうとしている人間の魂を無事に死なせて魂石の砕け散るのを防ぎ、来世へ移送するお仕事、でも言うべきテーマで描かれる本作。「魂鎮め」とは一味違うが、砕け散った魂を清掃し、魂石にする役目の天野くん(見た目少年・中身に何が入っているか分からない為感情・痛覚その他が無に近い)と、魂石の査定をするとでも言うのか、魂石から持ち主の人生の最期を確認する役目を担う黒髪メガネの櫻井(こちらは生真面目から来る人生経験の少ない青年と言う感じ)、この二人のコンビにコンビ愛が生まれるのか、と言う楽しみもある作品。
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Posted by ブクログ
地球を侵略するために人間から概念を奪って成長する宇宙人たちと、3日間の行方不明になった後、まったく別の人格になって帰ってきた夫に不信感を抱く妻・鳴海の物語。
劇作家・前川知大が率いる劇団イキウメの舞台『散歩する侵略者』を、自ら小説化した作品。2017年には黒沢清によって映画化された。
映画でも思っていたが、宇宙人が人間から概念を奪っていくという設定がもう既に面白い。序盤の金魚を咀嚼したあと、同居する息子夫婦を殺害し、自殺したおばあちゃんの話のように《知識がない状態》でも十分怖いし、不気味。一方で、終盤の《知識を得た状態》もまた違った恐ろしさがあり、一冊の中で様々な恐怖を抱くことができる。