辺見じゅんのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
見事な作品です。
終戦後、シベリアに抑留された無名の男性・山本幡男の生涯を描いたノンフィクションです。しかし、まるで一個の良く出来た「物語」を読んでるような気持ちになります。
ラーゲリについてはソルジェニーツインの『イワン・デニーソヴィチの一日』で読んでいますし、実は亡くなった父もシベリア帰りで少しは話を聞いていました。その分、他の人に比べインパクトは小さかったと思います。
むしろ主人公の生き様が強く印象に残ります。「死せる孔明生ける仲達を走らす」というのは不適切な言い回しかもしれませんが、主人公を慕い、敬った仲間たちが、10年を超える抑留から解放され、シベリアから思わぬ方法で持ち帰り奥さんに -
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Posted by ブクログ
山本が遺書について何としても家族に届けてほしい、と懇願したのが、それまでの山本像とは異なるお願いだったので違和感があった。そういう私欲のために他人を使うということをしなさそうな人だったからだ。
しかし最後まで読めば、その違和感は勘違いだと分かる。山本はもちろん家族に届けてほしいという意向はあったが、それ以上に残された俘虜たちに生き延びる強い希望を与えたかったのだろう。遺書を届けてほしいというお願いは、「あなたは生きて日本に帰れるのだ」という山本のかけた強いマインドコントロールでもあるのだ。
残された俘虜たちは何としてもこの遺書を暗記し、生きて帰るのだ、という確かな信念を持つことができた。これが -
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Posted by ブクログ
シベリア抑留の史実に基づいた話なので、覚悟して読みましたが、過酷すぎて何度も立ち止まりました。
極寒、飢え、重労働、次々と仲間が死んでいく、そんな極限状態でも帰国を諦めず、皆を鼓舞してきた山本幡男の人柄が素晴らしい。病魔に倒れた山本の帰国は叶いませんでしたが、仲間たちが危険を承知で遺書を分担し、暗記して、日本の家族に届けます。いかなる文書の持ち出しも禁止していたソ連当局の目をかいくぐり、ノート15ページ分の遺書が少しずつ遺族に届きます。
集団帰国が終了したのが1956年。そんな昔話でもない事実。ロシアがおかしくなっている今、平和ボケした日本人はもっと知るべき事実ではないかと思います。 -
Posted by ブクログ
第二次世界大戦が終了し、多くの人々には「戦後」が訪れた。
だが、終戦後も長きに渡って拘束されたままの人々もいた。ソ連の強制収容所(ラーゲリ)に囚われた人々である。極寒の地で飢餓と重労働を強いられた日本人抑留者の数は60万に上り、死者は7万人を超えるとも言われる。
外交交渉により、抑留者の釈放が決まり、最後の解放者らを乗せた船が舞鶴港に着いたのは、1956年暮れのこと、実に終戦から11年が経過した後のことだった。
本書は著者が多くの人々に取材してまとめた、ラーゲリを舞台とするノンフィクションである。その軸となるのは、ラーゲリで病に倒れた男が記した遺書だ。厳しく生活を規制され、筆記具なども満足に -