アップルが企業文化の貫徹がスティーブジョブズというカリスマに頼っていたのとは対照的に、本書を読むと、ジョブズのような人物はそうはいないのだから、企業文化を組織として築き上げていかなければならないという意識が存分に感じられた。また、コミュニケーションの重要性を幾度も説いており、藤本氏の言う日本企業が得意な「擦り合わせ」に通じるところがあり、興味深かった。
「経営者をしていて意外だったのは、プロジェクトチームにとんでもない野心を抱かせるのは、とても難しいということだ。どうやらたいていの人は型破りな発想をするような教育を受けていないらしい。現実世界の現像から出発し、何ができるか見定めようともしないで、最初から無理だと決めてかかる。グーグルが自律的思考の持ち主を採用し、壮大な目標を設定するためにあらゆる手を尽くすのはこのためだ。」
「マイクロソフトに対抗するにはプロダクトの優位性を維持するしかないこと、その最も有効な方法は既定の事業計画に従うのではなく、優秀なエンジニアをできるだけたくさんかき集め、彼らの邪魔にならないようにすることだと思うようになっていた。」
「インターネットの世紀のプロダクト・マネジャーの役割は、最高のプロダクトの設計、エンジニアリング、開発を担う人々とともに働くことだ。」
「私たちはできるかぎり、組織は機能別にすべきだと考えている。そしてエンジニアリング、プロダクト、財務、セールスなど各部門が直接CEOにレポートするのだ。なぜなら組織を事業部、あるいはプロダクトライン別にすると、それぞれの事業部が自分のことだけを考えるようになり、情報や人の自由な流れが阻害されるからだ。」
「実際のところ、計画はあってもかまわない。だが、事業を進めるのにともない判明したプロダクトや市場についての新事実に対処するために、計画を変えることを頭に入れておこう。」
「スマート・クリエイティブの明確な特徴は、情熱があることだ。何かに対して、強い思い入れがある。ただ、本当に情熱的な人間は『情熱』という言葉を軽々に口にしない。」
「情熱家はそれを表に出さない。心に秘めている。それが生き方に表れてくる。粘り強さ、気概、真剣さ、すべてをなげうって没頭する姿勢といった情熱家の資質は、履歴書でははかれない。…何かに本物に情熱を抱いている人は、最初はうまくいかなくても努力を続ける。」
「ここまで情熱、知力、ラーニング・アニマルのマインドセットが、採用候補者に欠かせない資質であることを述べてきた。もう一つの重要な要素が人格だ。単に親切で信頼感があるというだけでなく、多才で、世界と深くかかわっている人間、つまり『おもしろい』人間だ。」
「技術者や科学者が犯しがちな過ちがある。データと優れた分析にもとづいて、賢明かつ思慮に富んだ主張をすれば、相手を説得できるはずだ、と考えるのだ。これは誤りだ。相手の行動を変えたいなら、説得力のある主張をするだけでなく、相手のハートに触れなければならない。私たちはこれを『オプラ・ウィンフリーの法則』と呼んでいる。」
「オプラの法則を実践する、いたって簡単な方法がある。議論を打ち切り、出席者から100%支持されているわけではない結論を出すときに、こう言うのだ。『どちらも正しい』。誰でも自分の意見に反する決定を心から受け入れるには、まず自分の意見がきちんと聞いてもらえただけでなく、その意義を認めてもらえたと感じる必要がある。」
「いまや”部下に任せる”というスタイルは通用しなくなった。リーダーは細部を把握していなければならない。」
「仕事に限った話ではないが、何かを人に伝えたいと思ったら、たいてい20回は繰り返す必要がある。…だからリーダーは常に”コミュニケーション過剰”であるべきだ。エリックのお気に入りの格言は『お祈りをいくら繰り返しても御利益は減らない』。」
「…アップルとグーグルのイノベーションに対するアプローチはまったく違っており、特に重要なのが『コントロール』に対する考え方の違いだ。グーグルはアンドロイドを通じて、オープン・プラットフォームのもたらす優れた経済効果を実現しようとしており、また自分たちはオープンであることの必然的な結果でもある。…
一方、アップルのアプローチは正反対だ。iOSのコードは非公開で、アップルストアでアプリを販売するには、アップルの正式な承認が必要だ。…
アップルの統制型モデルが機能するのは、スティーブ・ジョブズの傑出した才能だけでなく、ジョブズがつくったアップルという会社のあり方のためでもある。」
「きみがスティーブ・ジョブズ並みの直観と洞察力を持っているなら、ジョブズのやり方を見習えばいい。でもそんな人間は世界に何人もいないんだ。私たちと同じ”その他大勢”の方に入る人には、私たちのアドバイスが役に立つかもしれないよ。」
「新しいアイデアが初めから完璧であることはあり得ないし、完璧になるまで待っている時間はない。プロダクトをつくり、出荷し、市場の反応を見てから、改善策を考え実践し、再び出荷しよう。『世に出してから手直しをする』。勝つのはこのプロセスを最も速く繰り返すことのできる企業だ。」