色川武大のレビュー一覧

  • 小さな部屋・明日泣く
    色川武大の小説に欠かせないエピソードが方々にちりばめられた短編集。まだ小粒で、しっかりとは掴みきれてない感じ、ちょっと控えめに差し出されて「これはどうでしょう?」という感じもある。

    部屋に入ってくる生きものに愛着をおぼえ同居する「小さな部屋」、父が家に防空壕を掘った「穴」、クラスの机のうえで自分の...続きを読む
  • 生家へ
    「屈託」は色川武大が作中よく用いる言葉だし、彼の文学をよく表していると思う。

    「屈託」意味―
    1 ある一つのことばかりが気にかかって他のことが手につかないこと。くよくよすること。
    2 疲れて飽きること。また、することもなく、退屈すること。

    例えば色川は頭のかたちが悪くて、子供のころでんぐり返しを...続きを読む
  • 百(新潮文庫)
    ―私は弟を貴重なものに思いだした。

    軍人だった厳しい父親と影の薄い母親。
    薄暗い家に弟が生まれ、少し大きくなると、
    どこにでも付いてくるようになった。

    充足というものの欠如。
    父親の影響だけではないだろう、生まれながらに持ってきた屈託。
    弟は著者のそういう部分を見てきた。

    どうにもならない部分...続きを読む
  • 狂人日記
    今までの人生の中で恐らく一番精神的に病んで辛かった時期に読み、自分の将来をこの小説の中に見たような気がして読みながらボロボロ泣いた。今読んだら、何を感じるのか凄く気になるけれど、怖くて再読できず。いつか読み返したい。
  • 離婚
    いつだったかの夜、いい雰囲気の寝床で、唐突に女の子から「私もあなたも、今は誰とも付き合っていないんだから、こんな夜があっていい」などと耳元で囁かれ、強烈に萎えてそのまま泥のような眠りに落ちたことがあった。今となっては、あの頃はいろいろと青かったんだから仕方ないと整理している。

    ダラダラと離れられな...続きを読む
  • 百(新潮文庫)
    家族にまつわる私小説集。

    『連笑』
    ――殴れば泣いてしまう、そのくせどこまでも後をついてくる――弟と、私。

    『ぼくの猿、ぼくの猫』
    軍隊でも、社会でも、家庭でも、終始ちぐはぐな父親。
    「ぼく」は、毎晩、猿や猫の幻をみる。
    のちにわかる、ナルコレプシー(睡眠障害)の症状が如実にあらわているお話。
    ...続きを読む
  • 狂人日記
    魯迅作の同名の短編があるが、このような直截的なタイトルを掲げる作品は今後出版されないのだろうか。そんな過剰な言葉狩りの心配はさておき、精神を病んだ主人公の一人称で日々の生活を綴った本書では、彼の独白が非常に現実的な響きを持って読み手に訴えかけてくる。物語は病院内で幻影や幻聴に悩まされる様子を記した前...続きを読む
  • 遠景・雀・復活 色川武大短篇集
    哀愁ありすぎな短篇集。
    「遠景」「陽は西へ」「虫喰仙次」が特にお気に入り。

    はっきりさよらならできない人ってどうやってもついて回る。
  • なつかしい芸人たち
    エノケン、ロッパ、有島一郎、左卜全など戦前戦後浅草の劇団員として活躍していた芸人たちについてのエッセイ。

    彼ら、テレビの特集くらいでしか知らないけど、色川さんの愛情溢れる文章を読んでるうちになんだか知ってる気になってきた。

    色川さんはつくづく人の痛みがわかる人だと思う。

    タモリについてもちょっ...続きを読む
  • 狂人日記
    「俺はこんなに弱い!」
    「俺はこんなに辛いんだ!」ということが書かれている。

    「ああ、辛かったでしょうね」と思える記述が続く。
    でも他人はどうすることもできないよ。
    こんな人を、誰が助けられるのだろう?

    理由も告げずに去った圭子に期待を残しながら、彼は生きられるだけ生きる。
  • 狂人日記
    俺も誰かの役に立ちたかったな。せっかく生まれてきたんだから

    この言葉に一番共感した。
    孤独とか許す許さないとか愛とか様々なものが混じりまって複雑で私には理解しきれていない。ただただ最後は寂しい…。
  • 百(新潮文庫)
    色川武大の私小説は、現実なのか作者の想像・妄想の類いなのかの境界線が曖昧な所が良い。
    自分の現実とかけ離れていて、安心しながらとろとろ読んでいると、深い屈託の中に引き込まれていてなんとなく頑張れば出られるんだけど、出るのもなぁみたいな気分にさせられる。
    それでまたとろとろと色川氏の世界に埋もれていっ...続きを読む
  • 百(新潮文庫)
    阿佐田名義の作品も好きですが、私的にはこちらの方が好きですね。
    エンターテイメント度は断然下がりますが。
  • 狂人日記
    現実と狂気の世界とが混在し、どんな状況にあるのか混乱する。こんな世界を生きているのは辛すぎる。そんな世界を、書き記すことが凄い。
  • 離婚
    初めて題名を耳にした時の悪印象と打って変わって文章が非常に巧い!面白い!と短期間で読み進みました。

    主人公の内省が独りよがりじゃないのが、素敵だなぁと思いました。

    男性側の考え方(一般的じゃないかもしれないけれど)の種類が増えたので良かったです。
  • 百(新潮文庫)
    色川武大の川端康成文学賞を受賞した作品。短編小説が4つ詰まってる。
    タイトルの「百」は年齢を表してる。裏表紙の一部を抜粋すると、「百歳を前にして老耄のはじまった元軍人の父親と、無類の日々を過してきた私との異様な親子関係」とのこと。
    「猫や犬は死んだらどうなるの?」ではじまる作品など、生と死に関連しつ...続きを読む
  • 離婚
    1978年の直木賞。少年マガジンの「哲也」主人公のモデルともなった著者は、麻雀の世界では伝説の人。その人が書いた大衆向け小説。今となっては半世紀前の古典文学。
    個人的には、受験生時代のセンター型模擬試験でこの人の小説が出た時、「あの哲也じゃん!」と喜んで解いたら、普段はなんとか平均点に届くレベルだっ...続きを読む
  • 狂人日記
    こういう、ああでもないこうでもないとぐずぐず言う人は嫌いだ。繊細なのかどうなのか知らないが些細なことで傷つきやすい。なのに人を傷つけることには敏感ではない。どうしろというのかと言いたくなる。私自身の鏡だと言えないことはない。しかし少なくとも私は諦めている。
  • うらおもて人生録(新潮文庫)
    色川さんはやさしい人だなと思った。押し付けるでもなく、自分が感じて考えた経験を読者のことを思って伝えてくれている。色んな考え方があって、それを知ることは楽しいことだと、より強く思えるようになりました。
    色川さんが亡くなったのが1989年。自分が生まれた年だ。自分が生まれるよりも前に生きた方の本を読む...続きを読む
  • 百(新潮文庫)
    初めて書いた小説は父親を薪割りで叩き殺す話であったー自らの創作のルーツから、父との複雑な関係を描き続けた色川武大の4つの作品を収めた短編集。

    作品全ては時系列は異なれど、父親との関係性を巡るものである。叩き殺したい、という明確な憎悪があるわけではないけれど、かといって愛情があるわけでもない。それで...続きを読む