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狂気と正気の間を激しく揺れ動きつつ、自ら死を選ぶ男の凄絶なる魂の告白の書。醒めては幻視・幻聴に悩まされ、眠っては夢の重圧に押し潰され、赤裸にされた心は、それでも他者を求める。弟、母親、病院で出会った圭子――彼らとの関わりのなかで真実の優しさに目醒めながらも、男は孤絶を深めていく。現代人の彷徨う精神の行方を見据えた著者の、読売文学賞を受賞した最後の長篇小説。
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Posted by ブクログ
HSPを自称している人々に、読んで欲しい、これこそ他人に迷惑をかけてしまうことを恐れ、視覚、聴覚が繊細すぎるがゆえの幻、が、ある主人公なのだ。HSPを自称するということは、繊細を売りに出している、商売にしている時点でそれは繊細でもなんでもない、HSPという薄汚い膜をはることで孤独ではないことに安堵す...続きを読むる健常者であろう、 って色川さんに現代を描写されているみたいで、
ものすごい迫力で 幻視、幻覚、幻聴の世界が繰り返される 自分の見ているものが 他の人にも見えているものなのか わからずに混乱 わかっているのにつらい あまりにも細かい描写で 作者の体験談かと思った しかし あとがきで友のことが書かれていた が、こんなにもその世界を語れるのは すごすぎる あるいは ...続きを読む誰もが少なからず経験しているのかもしれない そう思わせる
タイトルがタイトルなだけに狂ったような想像をしてたけど、主人公はこの世の全ての人間と紙一重な場所にいて誰よりも他人を求めて繋がることを最後まで諦めなかった、幻覚か現実か自分なりに探りながら読み進めていくのが面白くてでも気持ちは浮かばなくて、終盤にかけてどんどん辛く思いながらも健常者のふりをして生きる...続きを読む事がどういう事なのか人間の在り方を考えさせられたり本当の優しさや敏感で鈍感で矛盾しているのが人間だと思ったり、大切な人に読んでほしい純文学の宝だと思います
タイトルが『狂人日記』ですが、「狂人」という言葉と裏腹に、精神病院に入院している主人公の語り口はいたって冷静です。現実と虚構を繰り返す中、自己の状況を細やかに分析して内省しています。ただ、その冷静に語る心の内が、ところどころ読み手の胸を刺す言葉がいくつもあり、どんどん話しに引き込まれました。 主人...続きを読む公は幻覚や幻聴はあれど、病気で働くことが叶わず、一緒に暮らしている女に対して申し訳なく思っているところは、まったく健常者と同様です。それだけに、余計に気に病んでいます。逆に、当人が病気であることに甘えて、周りの人たちに依存できれば、少しは気分も楽にもなるのにと、気の毒なところも感じました(それができないから苦しいのですが)。 そんな主人公は、この先どうなってしまうのだろうと読み進めていくと、予想もつかない衝撃的なラストで驚きました。素直に周りに依存出来なかった主人公が、生きるために最後に吐露した言葉が、正にタイトルを表しているようで、とても印象的でした。
思い浮かべるのは島尾敏雄の『死の棘』、武田泰淳の『富士』。 一人の人間が作品に執着出来る範囲を遥かに超えており、純粋に屈服させられてしまう。 とりわけこの作者のひたむきと言える作品へのエネルギーと凄みの加え方は読後も後年印象に残る。 読書体力は要すが名作。
もう読みたくない!ってくらい落ち込む。それくらいリアリティがあった。「自分も将来こうなっちゃうのかなあ…」って気分にさせられました。
幻覚と現実が区別なく淡々と記される。それでも根底にあるのは誰しもがかかえる孤絶で、主人公のあこがれる健常者という在り方自体がなによりもの幻想なのだと思える。その幻想を支えるのが病だ。「いつか病気が治ったとき、空には何もないだろう」という一文が胸を打つ。
正気を失うという言葉を体感できる 主人公の脳内と現実が混じり合い、精神が崩壊していく様子の表現が素晴らしい。 所々生々しいのも良い。 1回読むだけで十分。
小説を読んでいて「これ、俺のことじゃないか?」と思えることってあると思う。 ちょっとおかしな人だったら「断りもなく俺のことを書きやがって」と著者にクレームを入れる、なんてこともあるだろう(実際にあった訳だし)。 僕はそこまで頭がおかしく……って書くとまずければ……純情無垢じゃないから、そん...続きを読むなことはしないけれど、読んでいる間「これ、この狂人、俺にそっくりだよな」とずっと思っていた。 生き方が似ている、というか、他人への接し方、外の世界への接し方、社会との折り合いのつけ方、要するに己自身への接し方、それらがまるで自分を客観的に見ているように描かれている。 そりゃそうだよ、こんな生き方してたら精神が疲れちゃうよ。 実際、僕自身が今、職を探してあえいでいるのは、数年前に精神を壊して、仕事が続けられなくなったから。 この本の主人公みたいに幻影を見ることはなかったけど、幻聴はあった。 入院するまで重くはなかったけど、そこで人生、かなり狂わされた。 そんなこんなの自分の影が本の主人公に重なりあって、読んでいる間、ずっとずっと得体の知れないプレッシャーがのしかかっていたように思う。 そして、とてつもなく「生々しい」。 圭子さんだって、これじゃ浮かばれないだろう。 ずっとずっと彼を助けられなかった、彼を裏切った、そういった自責の念に苛まれながら生き続けなきゃいけないんだから。 彼女の心中を察すると、そりゃ切ないし悲しいし、何とも言えない。 彼女だって精神が異常なんだから……。 つらいよね……つらい。 それでも圭子さんは許されたんだから、母親よりも良かったのかも知れない。 そういえば、同じく色川武大の「怪しい来客簿」に書かれていた印象的なフレーズを思い出した。 『私たちはお互いに、助け合うことはできない。許しあうことができるだけだ。そこで生きている以上、お互いにどれほど寛大になってもなりすぎることはないのである』 まさにそれを地でいったのが主人公なのだろう。 最後の最後に主人公が発する言葉。 「俺もつれてってくれ。おとなしくしてるから」 これこそが、この主人公が、心の底から素直に発することが出来た、生まれて初めての、そして最後の言葉だったのではないだろうか。 最後の最後に、やっと自分に正直に発することが出来たのではないだろうか。 そう考えると、余計にむなしい。 本当に本当に、つらい……つらい……たまらなく、つらい。 この本に巡り合ったことに感謝している。 ただし、後悔することになる可能性も含まれているだろうな、とあくまでも自分自身を客観的に顧みて、嘘偽りなくそう感じている。
とても優しい小説だと思った。自分への優しさ、他人へのやさしさ。というより優しくありたいという気持ち。決して甘やかすのではない。この主人公は自分を甘やかそうと思っていないし、甘やかされて喜ぶタイプでもない。ただ現実があって自分がいるだけだが、それを真剣に見つめるということはすなわち対象へのこの上ない配...続きを読む慮であり、つまり優しさなのではないだろうか。 なによりも文章が優しい。主人公や主人公を取り巻く世界を見つめる作者の目が優しく、そして悲しい。ゴーゴリや魯迅の「狂人日記」との違いはこの点だろう。彼らは狂気をアイロニックに扱っているところがあるが、色川の作品にはひとりの男の必死な人生があるだけである。 悪夢というほかない幻覚に絶えず苦しめられながら、主人公はいったいなにを保とうとしていたのか。
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