色川武大のレビュー一覧

  • 百(新潮文庫)

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     私小説になるのだろう。
     色川武大とその弟、母親、父親、その他親族との関わり合いや愛憎入り乱れた葛藤を描いている。
     著者自身、ノーガードで自身のダメな部分や醜い部分を、あますところなく書いている。
     自嘲気味、という訳ではなく、割とドライに、それでもあまり俯瞰しすぎずに、程よい距離感を保って書いている。
     まさに色川武大その人そのものを読んでいる感覚に陥る。
     読んでいる間はずっと、作者と共に喜び、悲しみ、途方に暮れ、自己を嫌悪する。
     それにしても、なんて文章を書く人なのだろう。
     決して独特な言い回しでも、強い個性がある訳でもないのに、一行一行が、単語の一つ一つがこれほど

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    2018年01月04日
  • うらおもて人生録(新潮文庫)

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    いいですか。9勝6敗をコンスタントに維持するのが大事なのです。

    そっか、全勝を目指さなくていいんだ、っとホッとされた作品でした。この他にも生き方の指南が色々とあり、それらにはどれも温かみがあります。

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    2017年12月10日
  • うらおもて人生録(新潮文庫)

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    近所のおっちゃんみたいなゴツゴツとした話し言葉で綴られる文章のひとつひとつに、良くあるHOW TO本や自己啓発本とも違い「この人は、ほんとうのことを言っている」と感じるのは、勝ち続けることの危うさや上手く負けることの大事さをもしっかりと説いてくれているからだと思う。

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    2017年09月24日
  • 小さな部屋・明日泣く

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    2016.9.10 「小さな部屋」を読む。
    「熱中することの不気味さと美しさ」

    〜あらすじ〜
    鉄格子のついた部屋に越してきた主人公、東郷文七郎。折り目正しい青年であった彼が、その部屋に夜毎訪れる猫と生活を共にし始めることをきっかけに少しずつ人生の歯車を狂わせてゆく。


    参加者の読後の感想で主だったものは「気持ちわるい!」という声。猫や鼠、昆虫などで溢れかえる部屋を描写したその生々しさが際立った印象だったようだ。

    「部屋」に取り憑かれたように性格を変貌させてゆく主人公の姿を時系列で追うにつれ、果たして憑かれる前後ではどちらが彼の本性であったのか、を議題に会は盛り上がりをみせた。

    この変

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    2017年04月22日
  • うらおもて人生録(新潮文庫)

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     ソフトな文体だが内容は極めて高度。なんというか…すべての人間に共通する「人生の原理原則」が全編に亘って書かれていると言っても過言ではない。著者が持っている経験はとても特殊なもので、接点を持つ人はそれほど多くはないかもしれない。しかしその特殊な経験から抽出された「生き方のセオリー」とでもいうものは思わず唸ってしまうほどの説得力がある。

     色川さんの語る体験は、戦後の特殊な状況とも相俟ってドラマ化されてもいいようなドタバタ劇で、この部分だけを読んでもエッセイとして十分な価値がある。しかしノンビリと語られる個々のエピソードは事実の羅列だけで終わることはなく、そこから引き出された教訓を丁寧かつ厳し

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    2015年04月13日
  • うらおもて人生録(新潮文庫)

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    【本の内容】
    優等生がひた走る本線のコースばかりが人生じゃない。

    ひとつ、どこか、生きるうえで不便な、生きにくい部分を守り育てていくことも、大切なんだ。

    勝てばいい、これでは下郎の生き方だ…。

    著者の別名は雀聖・阿佐田哲也。

    いくたびか人生の裏街道に踏み迷い、勝負の修羅場もくぐり抜けてきた。

    愚かしくて不格好な人間が生きていくうえでの魂の技術とセオリーを静かに語った名著。

    [ 目次 ]
    さて、なにからの章
    男女共学じゃないからの章
    俺の中学時代の章
    何を眺めるかの章
    嫁に行った晩の章
    だまされながらだますの章
    つけ合わせに能力をの章
    野良猫の兄弟の章
    桜島を眺めての章〔ほか〕

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    2014年10月25日
  • 狂人日記

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    とても優しい小説だと思った。自分への優しさ、他人へのやさしさ。というより優しくありたいという気持ち。決して甘やかすのではない。この主人公は自分を甘やかそうと思っていないし、甘やかされて喜ぶタイプでもない。ただ現実があって自分がいるだけだが、それを真剣に見つめるということはすなわち対象へのこの上ない配慮であり、つまり優しさなのではないだろうか。
    なによりも文章が優しい。主人公や主人公を取り巻く世界を見つめる作者の目が優しく、そして悲しい。ゴーゴリや魯迅の「狂人日記」との違いはこの点だろう。彼らは狂気をアイロニックに扱っているところがあるが、色川の作品にはひとりの男の必死な人生があるだけである。

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    2014年06月11日
  • 生家へ

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    久しぶりに読んだけど、やはり色川先生は凄いです。昭和の湿った路地裏の泥道を転がり落ちるみたいな感じが大好き。

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    2013年08月30日
  • 狂人日記

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    主人公と同棲相手の関係を、自分と今の交際相手に重ねてしまい、とても気が滅入った。自尊心がぶっ壊れているので、負い目を感じつつも人に依存し、そこをちょっとでも突っ込まれるとひどく傷つく。それが苦しいから孤立しようとするくせに、人の温もりを渇望してやまない。何故こんな面倒くさい人間を好いてくれるのかと疑心暗鬼になり、関係もギクシャク。
    「身につまされる」というより、半分うなされながら何とか読み終えた。

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    2013年03月18日
  • 狂人日記

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    福武書店のハードカバーのほうも登録してあるけど最近再読したくてこちらを買って再読した。

    いくつも泣きそうになる箇所があるんだけど、圭子の「生活って最高のことをすることよ」っていうせりふがぐっとくる。

    あとは主人公の控えめだけど気風がいいやさしさというか。

    きっとこれからも何回も読むんだろうな。

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    2012年05月14日
  • 狂人日記

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    淡々とではあるが、
    しとしとと足音をたてて忍び寄ってくる漠然とした不安。
    自分が歪んでいくのを自覚しながらも、
    それを戻せることも無く、
    隣にいてくれる人をただ傷つけ、傷ついていく。
    恐ろしい程に徹底した描写である。

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    2012年01月13日
  • 狂人日記

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    伊集院静 氏の「いねむり先生」を読んで、この本を知った。
    淡々と書かれた文章が印象的だった。
    『無』の中に、日々の出来事だけが彩られて書かれてある様に感じた。その他の事は病気の事も幻覚も全て『無』の中で起きている様に感じられ、読んでいて著者と同じかどうかは分からないが『孤独感』を感じた。

    いねむり先生の中で、先生に発作が起きた時「今度は自分が先生を救う番だ」という事で確か先生を抱きしめるかなにかする場面があったと思うが、そして最後に同じ患者で結婚した圭子も別れると言いながらも面倒は見ると言っている。

    孤独感の恐怖...弟の幼い時の事ばかりが目に浮かぶ事...等々
    赤裸々な告白....

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    2011年10月14日
  • 百(新潮文庫)

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    色川氏の家族を綴った私小説。
    弟との関係を描いた「連笑」、
    幻視との奇妙な付き合いが恐ろしい「ぼくの猿 ぼくの猫」、
    老耄の父親に振り回される家族を描いた「百」それに続く「永日」。
    自分の家族と照らし合わせて読まずにはいられなかった。
    どんなに逃げて離れたくても、ついてくる家族という因縁。
    子供のころに抱いた劣等。
    それでもなお、死なないでほしいという執着。
    この世に生を受けた以上、逃れることのできない宿命が家族なのだと思い知らされた。
    色川氏の底が知れない優しさに包まれて、絶望の色が薄まるようだ。
    この作品に出会えて本当によかったと思う。

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    2011年09月29日
  • 狂人日記

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    壊れていく人の頭の中にいるような気持ちになった。読んでいる最中は、真っ白な世界にたった一人いるような心細さを味わった。読後の異常な虚無感はこの本以外に味わえないだろう。つらくて悲しくて泣いた。いつまでも忘れられない一冊。

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    2011年07月21日
  • 小さな部屋・明日泣く

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    ネタバレ

    「小さな部屋」や「蛙」を読んで改めて思ったけど正気と狂気の境目を衒いなく描くこができる数少ない作家だと思った。

    「小さな部屋」の内に内に篭っていく段階とか人と話すのが面倒くさくなってしまう感覚とかすごく共感できた。

    「蛙」はやっぱ「狂人日記」思い出してちょっと泣きそうになった。

    色川武大は戦前戦中戦後をものすごく意識して描く人だなと感じました。

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    2011年02月13日
  • 狂人日記

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    だめだわからんわからんわからん

    いやわかるっちゃわかるんだけど
    絶対的にわからない壁がある

    境界線の上に立って
    ずっとあちら側を見ながら手を振ったり、手をつないだりはしているけれど
    私はあちら側に体毎ダイブする覚悟はなくて
    正直憧れるし正直理解できないし、という相反するものを背負って
    ずっと境界線上にいるわけですが
    あちらの人間は、あちらこそこちらと思っているわけで
    私が理解していると思い込んでいるものは、その人からは理解できない所業なのかもしれません

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    2012年04月22日
  • P+D BOOKS ばれてもともと

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    作品紹介・あらすじ

    “昭和最後の無頼派”といわれた色川武大が人生のさまざまな局面で得た人生訓の数々を縦横無尽に綴った最後のエッセイ集。

    川上宗薫や深沢七郎、フランシス・ベーコンから井上陽水までもが採り上げられ、ほかに、戦争が残した痛ましい傷痕からあぶり出された人生観や犯罪者に同化する複雑怪奇な心情などが精緻に綴られる。

    既成の文学通念に縛られることのなかった著者ならではの直感や洞察、そして卓抜した表現で読む者を色川ワールドに引き込む珠玉の47編!
    *****

    久しぶりに読む色川武大。

    「作品紹介・あらすじ」にあるように、まさに「昭和」といった印象。令和7年の現在からすると、受け入れ難

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    2025年11月27日
  • うらおもて人生録(新潮文庫)

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    あとがきで西部邁氏が看破した通り、これは愛情あふれる「劣等生向けの教育書」でした。
    私も五十を過ぎたので、いくらか人生を学んだと思います。
    その中で、ここに描かれているのは生きづらさを感じる人たちに生き甲斐を感じさせるような、作者の経験だけでなく、溢れるような愛情の詰まった本だなと感じました。
    もし我が子が人生に行き詰まった時に読めるよう、本棚にストックしておこうと思います。

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    2025年10月26日
  • 狂人日記

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    疲れ果てると人格が変わる。お酒のせいで普段と様子が異なるという事は誰もが経験するのかも知れない。また、誰もいない部屋、揺れる洗濯物に何物かを感じたり、幻覚とは言えないような幻覚を感じた事もある。私にとって幻覚とは、心霊現象に近い体験かも知れない。それを自らの精神の疾病と結びつけて考えてみた事はなかった。

    幼少期、葬式の度に高熱を出し、別室で寝かされてはうなされた。優しかった故人が悪霊のように怖がらせることなどないはずだが、そう思っても一人の時間は長かった。高熱の状態で寝ると、気分の悪さも相まって必ずといっていい程、リアルな悪夢を見た。故人が私の上に乗っかっていた事もある。

    「狂う」というの

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    2025年10月06日
  • 百(新潮文庫)

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    奇抜な起承転結でなく、淡々と綴られる生活の苦悩。
    玉ねぎのように皮を剥いても芯のある人間のことは、何か欠けているものを探し続けているひとにしか理解できないのかもしれない。
    執着と表現される人間関係を超えて、関わった人の人生に一貫して関わり合う死に物狂いの執念を感じる作品でした。

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    2025年06月06日