色川武大のレビュー一覧
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私小説になるのだろう。
色川武大とその弟、母親、父親、その他親族との関わり合いや愛憎入り乱れた葛藤を描いている。
著者自身、ノーガードで自身のダメな部分や醜い部分を、あますところなく書いている。
自嘲気味、という訳ではなく、割とドライに、それでもあまり俯瞰しすぎずに、程よい距離感を保って書いている。
まさに色川武大その人そのものを読んでいる感覚に陥る。
読んでいる間はずっと、作者と共に喜び、悲しみ、途方に暮れ、自己を嫌悪する。
それにしても、なんて文章を書く人なのだろう。
決して独特な言い回しでも、強い個性がある訳でもないのに、一行一行が、単語の一つ一つがこれほど -
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2016.9.10 「小さな部屋」を読む。
「熱中することの不気味さと美しさ」
〜あらすじ〜
鉄格子のついた部屋に越してきた主人公、東郷文七郎。折り目正しい青年であった彼が、その部屋に夜毎訪れる猫と生活を共にし始めることをきっかけに少しずつ人生の歯車を狂わせてゆく。
参加者の読後の感想で主だったものは「気持ちわるい!」という声。猫や鼠、昆虫などで溢れかえる部屋を描写したその生々しさが際立った印象だったようだ。
「部屋」に取り憑かれたように性格を変貌させてゆく主人公の姿を時系列で追うにつれ、果たして憑かれる前後ではどちらが彼の本性であったのか、を議題に会は盛り上がりをみせた。
この変 -
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ソフトな文体だが内容は極めて高度。なんというか…すべての人間に共通する「人生の原理原則」が全編に亘って書かれていると言っても過言ではない。著者が持っている経験はとても特殊なもので、接点を持つ人はそれほど多くはないかもしれない。しかしその特殊な経験から抽出された「生き方のセオリー」とでもいうものは思わず唸ってしまうほどの説得力がある。
色川さんの語る体験は、戦後の特殊な状況とも相俟ってドラマ化されてもいいようなドタバタ劇で、この部分だけを読んでもエッセイとして十分な価値がある。しかしノンビリと語られる個々のエピソードは事実の羅列だけで終わることはなく、そこから引き出された教訓を丁寧かつ厳し -
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【本の内容】
優等生がひた走る本線のコースばかりが人生じゃない。
ひとつ、どこか、生きるうえで不便な、生きにくい部分を守り育てていくことも、大切なんだ。
勝てばいい、これでは下郎の生き方だ…。
著者の別名は雀聖・阿佐田哲也。
いくたびか人生の裏街道に踏み迷い、勝負の修羅場もくぐり抜けてきた。
愚かしくて不格好な人間が生きていくうえでの魂の技術とセオリーを静かに語った名著。
[ 目次 ]
さて、なにからの章
男女共学じゃないからの章
俺の中学時代の章
何を眺めるかの章
嫁に行った晩の章
だまされながらだますの章
つけ合わせに能力をの章
野良猫の兄弟の章
桜島を眺めての章〔ほか〕
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とても優しい小説だと思った。自分への優しさ、他人へのやさしさ。というより優しくありたいという気持ち。決して甘やかすのではない。この主人公は自分を甘やかそうと思っていないし、甘やかされて喜ぶタイプでもない。ただ現実があって自分がいるだけだが、それを真剣に見つめるということはすなわち対象へのこの上ない配慮であり、つまり優しさなのではないだろうか。
なによりも文章が優しい。主人公や主人公を取り巻く世界を見つめる作者の目が優しく、そして悲しい。ゴーゴリや魯迅の「狂人日記」との違いはこの点だろう。彼らは狂気をアイロニックに扱っているところがあるが、色川の作品にはひとりの男の必死な人生があるだけである。
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伊集院静 氏の「いねむり先生」を読んで、この本を知った。
淡々と書かれた文章が印象的だった。
『無』の中に、日々の出来事だけが彩られて書かれてある様に感じた。その他の事は病気の事も幻覚も全て『無』の中で起きている様に感じられ、読んでいて著者と同じかどうかは分からないが『孤独感』を感じた。
いねむり先生の中で、先生に発作が起きた時「今度は自分が先生を救う番だ」という事で確か先生を抱きしめるかなにかする場面があったと思うが、そして最後に同じ患者で結婚した圭子も別れると言いながらも面倒は見ると言っている。
孤独感の恐怖...弟の幼い時の事ばかりが目に浮かぶ事...等々
赤裸々な告白....
音 -
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色川氏の家族を綴った私小説。
弟との関係を描いた「連笑」、
幻視との奇妙な付き合いが恐ろしい「ぼくの猿 ぼくの猫」、
老耄の父親に振り回される家族を描いた「百」それに続く「永日」。
自分の家族と照らし合わせて読まずにはいられなかった。
どんなに逃げて離れたくても、ついてくる家族という因縁。
子供のころに抱いた劣等。
それでもなお、死なないでほしいという執着。
この世に生を受けた以上、逃れることのできない宿命が家族なのだと思い知らされた。
色川氏の底が知れない優しさに包まれて、絶望の色が薄まるようだ。
この作品に出会えて本当によかったと思う。 -
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作品紹介・あらすじ
“昭和最後の無頼派”といわれた色川武大が人生のさまざまな局面で得た人生訓の数々を縦横無尽に綴った最後のエッセイ集。
川上宗薫や深沢七郎、フランシス・ベーコンから井上陽水までもが採り上げられ、ほかに、戦争が残した痛ましい傷痕からあぶり出された人生観や犯罪者に同化する複雑怪奇な心情などが精緻に綴られる。
既成の文学通念に縛られることのなかった著者ならではの直感や洞察、そして卓抜した表現で読む者を色川ワールドに引き込む珠玉の47編!
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久しぶりに読む色川武大。
「作品紹介・あらすじ」にあるように、まさに「昭和」といった印象。令和7年の現在からすると、受け入れ難 -
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疲れ果てると人格が変わる。お酒のせいで普段と様子が異なるという事は誰もが経験するのかも知れない。また、誰もいない部屋、揺れる洗濯物に何物かを感じたり、幻覚とは言えないような幻覚を感じた事もある。私にとって幻覚とは、心霊現象に近い体験かも知れない。それを自らの精神の疾病と結びつけて考えてみた事はなかった。
幼少期、葬式の度に高熱を出し、別室で寝かされてはうなされた。優しかった故人が悪霊のように怖がらせることなどないはずだが、そう思っても一人の時間は長かった。高熱の状態で寝ると、気分の悪さも相まって必ずといっていい程、リアルな悪夢を見た。故人が私の上に乗っかっていた事もある。
「狂う」というの