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Posted by ブクログ
『おれは反社会的で、軽度の被害妄想と年を経るうちに追加された項目である神経症性障害、つまり、捷運(ジエユン)(都市高速鉄道MRT)のプラットフォームから突き落とされるのではないかという不安や、自転車で走ってるやつを歩道から突き落としたいという衝動などにも苦しんではいるが、今のところは、つまり、二〇一二年の七月現在という意味だが、俺はまだ生きているし、精神状態は安定している。』
p.10~p.11より
「台北プライベートアイ」の続編。
主人公は第一巻と同じ呉誠(ウーチェン)。彼は自分の心身の健康のために大学教授と劇作家という仕事を辞め、私立探偵へと転身した変わり者。
第一巻目から、「ライ麦畑でつかまえて」くらい主人公の思慮いっぱいの文面だなぁ……と思って読んでいたのだけれど、第二巻も相変わらず主人公が語りまくる小説だった。皮肉なんだか、弱音なんだか、真に迫った言葉なのか。
その判別しきれない独白の密度ごと、呉誠という人物の魅力になっている。
「ライ麦畑でつかまえて」の主人公は社会との折り合いの付け方に思い悩む小説だけれど、「台北プライベートアイ」の主人公、呉誠は社会経験を随分と積んだ大人の男性。ゆえに「社会」に思う所あっても「物申す!」という感じでもなく……。17歳のホールデン・コールフィールドに比べると圧倒的にカオスへの許容量がデカい。その“カオス許容力”は年齢だけでなく、台湾という土地が経験してきた歴史の影響もあるのかもしれない。斜に構えつつ、自分のことも他人のことも諦めきれない。土地を愛し、不安を否定せず、厭世的に見えて、人間関係を一番大切にする。矛盾だらけなのに、なぜか憎めない。
ミステリーって、事件解決を見届けるために読むのはもちろんなんだけど、この本は呉誠の「どう生きるべきか」という悩みにも読者は付き合う羽目になる。生き悩み方が充実していて「なんか……腹立ってきたな?」となるのもまた味。そういう探偵小説。読む人が呉誠という主人公のことを好きになれるかどうかが大きいシリーズだなぁと二巻目を読んでつくづく思った。
訳者あとがきで「ほかの作者だったら二冊か三冊書くであろう内容だから、まったく訳者泣かせ」とあるように、本作は事件が色々と起こる。それらは緻密に絡み合っているというより、もっと有機的にぐねぐね、ごちゃごちゃと関係しあって非常にボリューミー。
頭脳明晰な探偵が現れて、スカッと事件を解決する小説ではないけれど、人の縁が事件を包囲していく、その泥臭い推理の手触りが本作の唯一無二の魅力だと思う。人々の描写と台湾の町の雰囲気が活き活きと書かれていて、物語の舞台である台湾そのものにも興味が湧いてきてしまう。いつか旅行してみたい。
この次の巻である第三巻もすでに翻訳を進めているように書かれていたので楽しみです。
Posted by ブクログ
★5 あの私立探偵が返ってきたよ! 高品質、超濃厚な探偵小説 #DV8 #台北プライベートアイ2
■あらすじ
元大学教授の私立探偵の呉誠は、前回の連続殺人事件の解決以降、台北の淡水に引越しをしていた。彼は淡水にあるバー「DV8」に通うようになっていた。
ある日、新人弁護士の安安から仕事の依頼を受ける。少女時代、ある事件に巻き込まれた際、助けてくれた少年を探してほしいというものだったのだが… 前作、台北プライベートアイに続く、シリーズ第二弾。
■きっと読みたくなるレビュー
★5 高品質な探偵小説、どなたでも安心して読める一冊ですね。台湾の街並みやそこに住む人間たちを味わいながら、ボリュームたっぷりのミステリーを楽しめます。
今回はタイトルにもある「DV8」という名前のバーを拠点にしながら物語が展開される。美味い酒があって、キレイ目のバーテンダーがいて、酒場の仲間たちがいて… ゴキゲンなことから愚痴や悩みまで会話が飛び交い、賑やかで楽しい空間。いいなぁ~、こんな大人の世界、憧れちゃいます。
まず本作で語りたいのは、探偵×美女の色恋ですよ。もう超王道。若い子たちの恋愛じゃなく、大人の恋愛。セリフひとつひとつに含蓄があって、エスプレッソコーヒーのような渋みのある距離感。最高でしょ。
特に恋愛観についてエマと語り合うシーンなんかは、年齢を重ねて初めて理解できるこの味わい。陳腐な恋愛エピソードは興ざめになりがちだけど、本作は大成功ですよね。
他の登場人物たちも人間味あふれる奴らばかり、特に呑み仲間&仕事仲間たちが頼りになるのよ。やっぱり人間的にチャーミングだと、優秀で優しい人たちが集まってくるんでしょう。私も見習わなきゃです。
そして本作では、主人公呉誠の病気についても語られる。過去の痛苦を吐露するシーンでは、その病気のことがわからなくても、理解できるほど綿密に描かれるんです。苦悩を乗り越え、成長し、結果辛い目にあったからこそ、同じ悲劇にならないように人には優しくなれる。神様は時に辛いことを押し付けることはあっても、決して意地悪でやってるんじゃないと思わせてくれるのです。
さて今回の事件、人探しから始まるのですが、その後ちょっとしたノイズから大きく発展してゆく。さすがはプロの探偵の気づき、地道な地道な地道な調査を続けていくのです。これがなかなかの長さなんだけど、この長さが読みどころなんすよね~
しかも後半からの展開は読む手が止まらなかった、最終盤はどうなるんだと気になってしょうがなかったです。読み物としても重厚感たっぷりで、じっくりと楽しめる探偵小説でした。
■ぜっさん推しポイント
若い頃は大きな夢を追って道を反れてしまったり、無茶をして友人に迷惑をかけてしまったりと、人生を踏み外してしまうようなことが多かったですね。
大人になって守らなければいけないものが増えてしまうと、むしろ踏み外さないことだけを考えて生きるようになってしまう。生活や人間関係は安定するのでしょうが、挑戦的でアグレッシブな生き方とは言えないのかもしれない。そんなカッコイイ生き方に憧れつつも、やっぱり人生のレールから逸脱するのは勇気がいるものですよね。
でも、どんなに難しい道を選択したとしても、ひた向きに取り組んでさえいれば何とかなるんです。なぜならそんな魅力のある人には、自然と助けてくれる人たちが集まってくるから。
どんなに年齢を重ねても、チャレンジングに、素直に、ひた向きに、そして周りの人に優しく愛すべき人でありたいですね。
Posted by ブクログ
みなさま、ご無沙汰しております。しばし、漢字だらけの航路に出ておりました。
その航路の名は『DV8 台北プライベートアイ2』。台湾発の探偵小説『台北プライベートアイ』の続編でございます。
続編だからもう慣れたはず…と思われそうだが、今回も漢字の海にアップアップだった。
事件に次ぐ事件、その度に増える登場人物や重要ワード…。予感はしていたけど前作よりもページ数が増えていて、おまけに漢字を吸い込みすぎて腹パン…というのが正直な感想である。
「友だちになりたいわけではないが、人とつながっている感じは欲しい。もっと正確に言えば、おれは人類を憎んでいるが、人間を必要としているんだ」(P14)
主人公は引き続き、私立探偵の呉誠(ウーチェン)が務める。だが前作の登場人物は誰一人として出てこない。
「今まで孤独だったけど、ここで知り合った仲間たちとこれからも仲良く暮らしていくんだ」という心温まる結び方だったのに、肩透かしを喰らった感じ。まるで呉誠だけ別の宇宙に飛ばされたかのようで、しばらくはアウェー感から抜け出せずにいた。
というのも呉誠、今作では引っ越しをしている。場所が変われば登場人物のカラーも変わるというもので、今回も個性豊かな仲間たちが彼のもとに集結する。いや、「DV8」に集結する…と言っても良いかも。
「DV8」とは、バーの名前で”deviate”(「逸脱する」)から来る。
呉誠がたまたま発見した店で、エマという女性が一人で切り盛りしている。魅力的なエマに一目惚れした(前作から何も変わっていない…)呉誠は彼女目的で店を利用し始めるが、やがて事件捜査の活動拠点・捜査で知り合った仲間たちとの憩いの場と化していく。(そーいや、最初の事件の依頼もDV8で始まっている!)
「時間は犯人の味方ですよ」(P 216)
正直、推理面はいくつか予測できるところがあった。真犯人が別にいる点とか。
実際の事件ならまだしも、一応探偵小説なんだから既知の事実(ここで言うところの、警察による捜査)だけで済むはずがない。まぁ、一度に2つの事件捜査に乗り出すことになった展開には燃えたけども。(これ以上、口外せぬよう努めます…!)
感嘆したと言っても良いのが、呉誠の成長。(呉誠の年齢で「成長」というのも妙だが…)仲間への思いやりが前作よりも明らかに表れているのだ。
「大切な人にはハッピーでいてほしい。自分の問題でウジウジ悩むのなら、その人のために忙しくする」というマインドセットまで持つようになっている。全員集まってお祝いをする場面が節目節目で描かれているのも、そうした彼の良き変化を象徴しているように思う。
「つまり、あれだよ。縁があるなら千里離れてたって必ず会えるって言うじゃないか」(P 388)
作中で「過去と現在の間には関連がある」と語られているように、未来も現在の延長線上にある。それに関連すると現在、続編の3を執筆中なんだとか!ストーリーにもより深みが出るみたいで、こりゃまた漢字の海にダイブの予感…。(そりゃそうだ)
古いけど、気分はもう「欽どこ」ならぬ「紀(筆者名)どこ」だ。
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