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近所に憧れの老作家・坂下宙(ちゅ)ぅ吉(きち)が引っ越してきた。私は宙ぅ吉のデビュー作「三つ編み腋毛(わきげ)」を再読する。そして少しでも彼に近付きたいという思いを強くして──「イナセ一戸建」を含む六篇のほか、文庫版特別書下しとして、作中登場する坂下宙ぅ吉のデビュー作「三つ編み腋毛(抄)」を収録した全七篇。淫靡な芳香を放つ狂気を描く、幻の短篇集が待望の文庫化。
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Posted by ブクログ
文庫化おめでとうおめでとう。 本編は以前単行本で読んでるので、出てすぐ文庫を買っておいてそのままになってたんだけど、書き下ろしの三つ編み腋毛を読みました。 本文は案の定気持ち悪かったし、選評がめちゃくちゃ面白かった。イナセ一戸建てを読み返そうかな。あと独居45の文庫化早よ。
この作者の書いた文章を読んでいると、自分が一週間以上風呂に入っていないような、垢と泥で皮膚がべたべたとしていて頭からは皮脂の臭いがいるような感覚を味わうことができて、シャワーを浴びたくなる。 どの作品も面白いから皆に薦めたいけれど、村八分にあうかもしれないので職場の人とかには言えない。 表題作の『...続きを読むヤイトスエッド』は、これまで読んできた吉村萬壱作品とは毛色が違って面白かった。少し、町田康を思わせる。 『B39-Ⅱ』のラストが衝撃的だったが、『ボラード病』と通じるところがある。 「坂下宙ぅ吉」を描いた作品があるそうだが、単行本は絶版になっており、文庫化もされていないとのこと。残念。
裏表紙の紹介文「淫靡な芳香を放つ狂気」は伊達ではなく、結構強烈な描写が多くて耐性がないとまともに読めないであろう本。というか多分まともに読めてない。 どいつもこいつも考え(思い込み?)が極端で、その極端な考えが、例えば不浄なものに聖性を見出したりするのでわからない。汚くてもいいじゃん、ならまだ...続きを読む分かるのだが、汚いものを貴ぶのは何だかよくわからない。「絶対にあり得ない」(p.154)。 それでも、当の本人からすればそれが正常なわけで、その切実さを前にどうすればよいのかもさっぱり分からない。人は人、自分は自分ではあるけど、活動の幅が重なってきたらそんな正論を言っている場合ではない。この小説に出てきた「常識人」と同じく、彼らを隅に追いやるしかない。 常識を疑ったところで、得るものよりも失うものの方がずっと多いと思ってしまう。「常識を疑う」という言葉にむなしい響きを感じてしまうのは、それが理由なんじゃないかな。齢を重ねるごとに、どんどん私は臆病になってゆく。
清潔と不潔。 浄と不浄。 きれいはきたない、きたないはきれい。 下種は聖。 これらはつまり極端は対極に転じ得るということだ。 (中島らもと通ずると思うが、ふたりを並べた論は見たことがない。) 男は女を犯すとき、女になって男に犯されたいと夢想する。 女はマゾヒスティックな殉教を夢見る。 すなわち男と...続きを読むは別文脈で受け容れる(ように見える)。 男も女も、対する女と男に、過剰な願望を押し付けて、それが裏切られては怒り失望するしかないのだ。 「B39」と「B39-Ⅱ」の関係は連作の極北。 大げさではなく世界が反転するんだもの。びっくりした。 ところでかつて「ハリガネムシ」でウンコを握り潰す場面を読んだ私は、「小説の描写とはこれだ!」と教えられたものだが、 「不浄道」ではなんと、ウンコを壁に投げつける!! 狂気すれすれだが一ミリだけあちらがわに行ってしまっ(て皮一枚をたよりになんとかぎりぎり戻ってき)たようで感慨深い。 (連想される「はだしのゲン」の糞垂れ流す将校は、ミリ単位ではなくあちらがわ) 芥川賞は功罪両面を併せ持つが、この作家をフックアップしたのだから、やっぱり偉大なのだ。
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