Posted by ブクログ
2018年01月20日
「俺はそんなことでおまえに対する見方を変えたりしねえよ。おまえは誰かの奥さんにとっちゃ殺したいほど憎い相手だったんだろうが、それは俺には関係ねえ。俺とお前の関係には、他の誰も関係ねえ。」
『そんな私を誰がどう思ってるいるかなんてことも、心の底からどうでもよかった。なにを言われたって相手にしなけりゃ...続きを読む無音と同じだ。利用されてる? 使用している? あわれ? あばずれ? 汚らわしい? いずれ刺される? そんなのお互い様なんだよ。』
『酸素を使って、電気を使って、ガスを使って、水を使って、インフラに寄生して。倫理を破壊して人を傷つけて、食い扶持すら人から盗んでる。それが私という人間だ。生み出せるのは排泄物と二酸化炭素と迷惑のみ。』
『私をこの世に産んだ人の記憶は、今も私に深々と突き刺さり、打ち込まれた釘みたいに貫いて、もう変えようもない過去の時間に私を磔にしている。それはまるで川の流れの源、すべての傷に繋がっていて、今この瞬間も新鮮な血を湧き出し、枝分かれする裂け目へと流し込み続けている。』
『そして、そのあとには必ず朝がくる。今日は昨日になって、明日は今日になる。
過去は変えられないし、明日のことはわからない。でも、今日やることは私が選べる。』
『この拳にちゃんと力が込められたなら、一体なにを殴ろうか。全力で打ち抜いてぶっ飛ばしてやりたいのはなんだったろう。私を傷つけ、弱くするもの。悲しくさせるもの。泣かせるもの。動く力を奪うもの。ほらあんたなんかダメに決まってる、と、証拠みたいに目の前にぶらさがるもの。べっとりのしかかって視界を塞ぎ、過去に引き戻そうとするもの。』
『そういうなにかに名前はない。人生からそれだけ切り取って摘出することもできない。でも居場所はわかっている。私の頭の中にあるのだ。そいつはずっと前からあって、ある時を境に腐りだした。不穏な速度で膨れ上がった。気が付けばパンパンに張り詰めて、まるで小さなバッグに無理矢理詰め込んだ西瓜のようになっていた。』
「俺、これ着るとかっこよくなっちゃうんだよ。ごめんな信濃、目に毒だろ」
「ううんいいの大丈夫気にしないで。私の網膜、無職は認識しない仕様だから」
「いや俺別に無職じゃねえよ」
「あれー醍醐どこー? 見えなーい」
「さっきまで見えてただろ」
「なーにー? 聞こえなーい」
「このくだりに鼓膜は関係ねえだろ」