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橘あきら。17歳。高校2年生。彼女が恋をした相手は、バイト先の店長。ちょっと寝ぐせがついてて、たまにチャックが開いてて、後頭部には10円ハゲのある、そんな冴えないおじさん。28歳の年の差をものともせずにあきらは積極的に店長に恋心をアピールするが、肝心の店長の方はというと、世間体は気になるし、女子高生の扱いは分からないし、自分に自信はないしで、なかなか距離を縮められない。三歩進んで二歩下がる、を繰り返すスローテンポがもどかしくもあり、愛しくもある。
タイトルにも「雨」という語があるように、この作品において天気や季節が担う役割はとても大きい。登場人物たちの心理を際立たせる演出道具になったり、あるいはその時々での状況を変えるきっかけとなったりして、作品に奥行きと説得力を持たせている。楽しかった部活の元後輩を見送ったあきらが仰ぎ見た空の、抜けるような青さや、二人で木の下でしのぐ雨がもたらす緑の匂い。
例え空が晴れても、雨が降っても、彼女たちが笑ったり泣いたりしている内に、次の季節はすぐにやって来る。春の空気の温かさ、夏に降る雨のあとの土の香り、秋雨の肌寒さや、りんとした冬の静けさが、コマを追うごとに読者の私たちをも包み込む。登場人物の一人一人にも過去と未来があって、通りすぎる季節があるのだと気付かされる。