Posted by ブクログ
2020年07月20日
姑の介護に追われる主婦。仕事ばかりの夫、引きこもりの息子、一人暮らしをして家を出た娘、家族は誰も助けてくれず、救いのない日々を過ごしています。
そんな折、日本で「七十歳死亡法案」が可決され、70歳以上の高齢者は全員安楽死することが決まります。姑はいま68歳。あと2年で自由の身になる、と希望を見出しま...続きを読むすが、寿命までの2年間をわがままに過ごそうとする姑、早期退職して海外旅行へと出発してしまった夫など、その2年間も地獄のような生活が待っていると知り、絶望します。
そして、「荒療治」のため、主婦は家出を決意。残された息子と祖母(姑)、夫と娘も生き方を再考しなければならなくなります。
「昭和」な夫や息子の生き方にもイライラさせられますが、若い息子のや娘のほうが生き方を変えやすい、というのはリアルだな、と思います。
日本の国家財政に余裕がなくなっていることは事実ですし、超高齢化社会が進み、介護をめぐる問題も看過できません。この小説と同じような社会変化をこの令和の日本で起こすことは望めませんが、それぞれの家庭で個人が「話し合い」「助け合う」ことが何より大切ですし、「自分はこれほど苦労している」という負担感で家事・育児・介護を押し付けあうのではない生活を送ることが必要だと改めて感じます。
あとは、社会制度(社会福祉制度)への興味・関心をしっかりと持ち続けること。どういった結論になるにせよ、選挙に行って意思を示すことも必要だと(作品の主題とは異なりますが)感じました。
物語としては、作品の登場人物それぞれの視点から各自の思いが描かれていたことも、作品が一方的な描写にならず読みやすかったと思いますし、「すべて丸く収まったハッピーエンド」ではなくとも、明るい未来が見える結末で、読後感も悪くありませんでした。
重いテーマを扱った小説ですが、露悪的なものではなく、希望を感じる作品でした。