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AIBO、皇太子妃ご懐妊報道、略字体、口蹄疫、ピッキング、大リーグ、臓器移植、世界同時多発テロ、加工食品……。私たちを取り囲んでいるモノ、技術、現象、事件、情報……そうした文明のちっぽけなしっぽの一端から、巨大な憂鬱が見えてくる。明晰な論理と非凡な視点、そして鋭い感覚で日常に潜む微細な欺瞞をも見抜いてゆく。単行本未収録の24編を加えた全49編の文明批評エッセイ。※文庫版に掲載の写真は、電子版には収録しておりません。
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Posted by ブクログ
平野啓一郎は、文体が好き。スコーンと頭に入ってくる。エッセイとなるとなおさら。所謂「文明論」ではないけれど、現代社会への平野氏なりの切り口が面白い。
最新の技術や社会問題、著者のこれまでの経験などを 私のような凡人にもわかりやすく、的確に表現されています。 現在の世界に対して持つ、「ちょっと変じゃない?」という感情をしっかりと理論立てて説明してくれている、という感じです。
毎度この方の文章を読むたびに、文学、歴史、音楽等の広範な知識とそれに基づく深遠な視点と思想に驚かされる。ややニヒリスティックに感じることもあるけれど。ともあれ、圧倒的な知識をとっても、それを反映させる筆力をとっても、この方は本当に天才だと思う。同じ時代に生きていることを感謝するくらい。 本書が書かれ...続きを読むたのは同時多発テロが起こった2000年頃。BSEやライフスペース、そんなこともあったなとなつかしく思う一方で、その視点や発想は今読んでも全く色褪せることがない。むしろ今こそ議論してもよいのではとさえ思う。特にパトリオティズムやナショナリズムのくだりは今こそ日本人が考えるべき内容だと思った。
10年以上前の随筆集。日常的な生活の変化(進歩)が人間の思想、人間関係、感情に与える微妙な影響を考察し、それがやがて文明社会の在り方に変化をもたらしていく考察を丹念に行っている。そのため、全然古びていない。難解な文体を操る小説家は、自らの思考過程をこんなにもストレートに、かつ深く、それでいて簡潔に書...続きを読むき記すことが出来るのだと感服した。
芥川賞作家・平野啓一郎氏による時事に関するエッセイです。この本を読んでいてとき、狂牛病の話が九州であって、 平野氏はそれより先にこの話題を書いていた箇所を読んで 平野氏の先見の鋭さに驚いたことがあります。 実のところを申し上げますと、僕が平野啓一郎氏の一連の作品を読もうと思ったのは、ツイッターで平...続きを読む野氏に送ったメッセージになんと、平野氏ご本人から返事を貰ったからという実に単純な理由からでした。でも、高校時代に『日蝕』で挫折して以来、彼が文句なしの天才なことは分かっているのですが、正直言ってどうもとっつきにくかったので、小説はともかくとしてエッセイからまずは始めてみようと思って手にとって読んでみたのがこの本でありました。 ここで取り上げられている主な事象は、狂牛病や9・11や荒れる成人式やロボット犬のアイボなどのことを『あぁ、こんなことあったなぁ』と思いながら読んでいると、衝撃的な写真が目に飛び込んできました。それは、2000年にイギリスで発生した口蹄疫についての写真で、殺処分された牛がクレーンで吊り上げられているものでありました。 その傍には蹄を上に向けて並べられている牛の屍骸がありました。おそらく、これから埋設されるのだろう。うろ覚えで申し訳ないのですが、こういう結びだったと思います。『飛行機や船が行きかっているのだから、こういうものだって「輸入」されることは十分にありうる。だから決してこの問題は「対岸の火事」ではないんだ』と。 僕はここを読んでびっくりしました。平野氏がこういうことを既に予期していたのだということに。その後、宮崎県では口蹄疫が蔓延していたころに他の県にまで飛び火するかもしれない、といわれていたことが発生し、いまさらながらのようにこれを書いていて思い出されてきました。僕は平野氏のような透徹したまなざしを持つことはできないのだと痛感しつつ、平野氏のつむぐ『言葉』には謙虚な気持ちでこれからも耳を傾けていきたい、と思っているのです。
この人は特異な人なんだろうか。視点が面白い。あえて書いているようだが平易なほうがこの人の魅力は上がるように感じる。
好きな作家平野啓一郎さん。梅田望夫さんとの対談本もあったり、はてなでブログ書いていたり、小説はガチな純文学系ですけどけっこうメディア・テクノロジー系も強いのだと思っています。
2006年2月 平野氏のエッセイは優しい内容をここまで難しく書くか?と思うほど理論化してくれるところが面白い
20年以上前のエッセイだが、楽しめた。 ソニーのAIBOとか、9.11同時多発テロとか、そんな頃の作品だが、話題の古さよりも、言い回しや説明の仕方、言語を用いて正確にかつできるだけフランクに伝えようとする姿勢が印象的。 「鍵というものは、あのキザギザした複雑な形状に或る種の色気があって、それは聞...続きを読むより明かされてはならない等の錠の内部の秘密を精密になぞったものであるのだが、その錠の秘密こそは、奥に隠された錠に守られるべき秘密と直接に通ずるものであるのだから、鍵の形状は、いわば錠の奥に控える秘密そのものの内から銀った堅固なネガということになる。宝物を収めた箱の鍵であるならば、それは、宝物そのものの秘密の巧みな物質化である。女の部屋の鍵であるならば、彼女という秘密の、掌の内に握って収められるほどに凝縮された姿態である。鍵っ子の首に紐でぶら下がっているのは、小さな金属製の不在、誰もいない彼の家の空虚である。」 「携帯覚話は、端的に言って恋愛の想像力を枯渇させ、それを随分と単純な直接的なものにし、更にはそこに至るまでの過程や別れといった本来かなり複雑な手続きを必要とする筈のものを大幅に簡略化し、或る意味では工夫を奪った。 嘗ての恋愛に於いては、お互いに完全に一人であるという時間が多くあった。その間に様々な想像を巡らせることは出来たであろうし、文学が生まれる余地は、恐らくはその会わない時間の長さにこそ存していたであろう。」 かっこいい。 なお、あとがきによれば、これでも「文体は自ずと砕けたものとなった。語句や固有名詞の使用に関しても、小説の執筆に際してよりはずっと緩やかな基準で採択されている。」というのだから、驚き。
芥川賞受賞作家、平野啓一郎の2000年頃の時事に対する随筆。流石に二十年以上も前のことなのでAIBOや狂牛病の問題など、些か古くはあったものの、気付けば忘れ去られていたことの中に、結局のところ何だったのかと、その本質も知ることがいかに難しく、またそういった物事に対して考えるということが、いかに大事...続きを読むなのかと知らされた。 個人的には「錠と鍵とを巡るイメージ」、「新しい身体」などは共通点が垣間見えて興味深かった。しかし平野啓一郎は、こういった時事の随筆よりは小説の方が断然その表現力が圧倒していると思うのは私だけであろうか。
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文明の憂鬱
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平野啓一郎
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