Posted by ブクログ
2022年07月11日
橋本治(1948~2019年)氏は、東大文学部国文科卒、イラストレーターを経て、小説家・評論家・随筆家となる。小林秀雄賞、柴田錬三郎賞、毎日出版文化賞、野間文芸賞等を受賞。
私は新書を含むノンフィクションを好んで読み、興味のある新刊はその時点で入手するようにしているが、今般、過去に評判になった新書で...続きを読む未読のものを、新・古書店でまとめて入手して読んでおり、本書はその中の一冊である。(本書は2004年出版)
本書は何と言っても「上司は思いつきでものを言う」というタイトルが目を引くが、私は常々「上司は、部下の話(提案)に対して何かコメントしないと、存在意義を否定されると考えるので、何でもいいから思いついたことを言う」と考えており(自戒の念も含めて)、著者の論理展開を興味を持って読み進めたが、シンプルにまとめると以下のようなものである。
◆問題がある会社・組織において、部下が建設的な提案を行うと、上司(達)はそれまで自分(達)がやって来たことに問題があったと言われたと感じるため、素直に受け入れることができない。そして、上司(達)は(それほどバカではないので)、問題があることは薄々認識しつつも、その責任を問われるような建設的な解決案には賛成せず、(問題の所在・責任を明確にする必要のない)ムチャクチャなアイデアを口にする。
◆上司とは、「現場」から乖離した立場なので、そもそも、現場の部下から上がってきた建設的な提案に対して、有効なコメントなどはできなくなっているものなのだが、自分は偉いと思っている上司は、優位性を保つために、部下を困らせるようなテキトーなことを言い、また、部下思いで未だに部下と一緒に仕事をしたいと思っている上司は、(悪気はなくとも)ピントのズレたアドバイスをして部下を困らせることになる。
◆上司から思いつきでものを言われたときの対応策は、論争などをすることではなく、ただ「あきれて」何を言い返されても聞き流すことである。「本当にあきれられて、それで己の愚に気づかない人間はいない」と思うべし。
後段では、そのほか、日本の会社・組織の問題点を、歴史を遡っていろいろと分析している(著者は当初、「サラリーマン(社会)の欠点」というタイトルで書くことつもりだったという)が、本書において肝腎なことは「上司は思いつきでものを言う」ということなのだそうである。
よく言われるように、著者の文章は独特で、くねくねして、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして、少々読み難いのだが、「上司は思いつきでものを言う」というテーマは、こうした思考回路の著者だからこそ面白く書けたとも言えるのかも知れない。(理路整然と書かれても、「ちょっとなぁ」と言ったところか。。。)
前半だけでも一読して面白い一冊と思う。
(2022年7月了)