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「また、来るよ」そう言い残して父は女を作って家を出て行った。父親の「男」としての一面を垣間見て、戸惑いを覚える加那子だったが、次第にその存在は遠くなっていった。そんなある日、父危篤の報せが届き――(「暮色」)。女の視点から男を捉え、浮気、略奪、同性愛などの様々な愛の形に秘められた、男の存在の曖昧さを浮き彫りにした、著者の新境地。男と女の不条理を描く五つの物語。
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Posted by ブクログ
違う男の話が一人の男の話に思えるのはなぜか、違う女の話が一人の女に重なることはあるのか。と思う私の中にも夜の曖昧さの中は心地良いかもしれないと思う気持ちがある。
短編小説五編を収録しています。 「文庫版のあとがき」によると、本書は『生きる歓び』『つばめの来る日』『蝶のゆくえ』につづく作品で、本書を含むこれらの短編集では「バブルがはじけた後の騒々しい焼け跡のような時代の中から「寂しさ」を拾い出そう」というねらいで書かれたものです。とくに本書では、「自分で見る...続きを読むことが出来ない男の背中」をえがくことがめざされており、このことは「男の根本にある不透明さ、曖昧さ」と言い換えられています。 前作『蝶のゆくえ』と同様、ストーリーのなかで登場人物たちの心情がたどるプロセスについて著者がくどいほどに説明を加えるというスタイルが採用されています。著者は、「百人分くらいの寂しさを集めないと、今の世の中って分かんないしな」と語っており、それぞれの登場人物の「寂しさ」を生む条件が明確に位置づけられていて、著者の分析的な知性がいかんなく発揮されている作品という印象です。 ただ、『蝶のゆくえ』を読んだときにも感じたのですが、著者が登場人物たちの設定と心理的プロセスを完全にコントロールして、彼らの配置によって「寂しさ」の諸相が生み出されるという構成は、小説としては破綻しかかっているのではないかという感想もいだいてしまいました。
女の側からの視点で、男の背中を描いた短篇集。女性の側の心理がわからなくては、この小説群は書けないです。そして、愛憎が絡んでいるから、なお、難しい表現なのでは?と思ってしまいますが、著者の橋本さんはそんな苦労を一言もあとがきで発していない。やっぱりこの小説を書いた50代の半ばになって、わかることなのか...続きを読む、それとももっと若いころから「わかっていた」ことなのか。知りたいのはそのあたりでしたが、ようわかりまへん。橋本さんは若い頃に『恋愛論』という本も書かれていて、ぼくの本棚ににもたぶん復刻版なのかな、それが積読になっています。それを読めば、この謎は解き明かされるような気がする。つまり、若いころからもう女性の心理は喝破していた、という。
妻子ある男が、ある日突然別の女のところに行って帰ってこなくなる。ほぼ同型のストーリーが、関係者ごとに主人公を変えて、輪を描くように綴られていく短編小説。どこかで現実にありそうな話で、どの人生の断片も壮絶で生々しかった。 すべての物語の背後では、世の中がバブルの熱で浮かされたようになり、しかる後崩壊...続きを読むを迎えて冷ややかに沈んでいく時代が静かな旋律のように流れていて、読後に全体を思い返せば、その旋律は、諸悪の根源となった男の満たされぬ空虚感とも、その男に振り回された登場人物たちの人生とも微妙に重なるように感じられた。 「男の身勝手いいかげんにしろ」という胸のムカつきを随分長いこと引きずれるほどの小説はそうない。装丁買いによって、普段踏み入れない世界に迷い込んだ貴重な読書体験となった。
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橋本治
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