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Posted by ブクログ
主人公の聡里が獣医になるために大学に入って、実習や動物病院でのバイトを通じて、しっかりと成長していく物語。ドラマは見ずに小説から。
北海道での一人暮らしや勉強・実習、そして人付き合いへの不安で一杯の新入学。夏の実習での洗礼や進路、恋の悩み。そうしていろんなことを乗り越えて、少しずつ一人前になっていく様子が瑞々しく、人との会話や関わりの中で、聡里が感じることや考えることの心の機微がリアルに伝わってきて、あ、自分もこんな場面だったらそう思うよな、とか、よくここまで言えた、頑張った、とか、すっかりのめり込んでました。
物語に沿って聡里が少しずつでもしっかりと前に進んでいく様子に、すごく元気をもらえました。どんな仕事でもやってみないとわからない大変さがあって、でもやってみないと得られないものがありますよね。目の前の動物だけでなくその後ろにいる人たちに想いを馳せることができるように、自分もなりたい。
舞台になった大学の様子はすごくリアルに描かれていて、情景や空気の匂いなんかが懐かしく浮かびましたよ。
Posted by ブクログ
心が揺さぶられる、大変優れた小説だった。
物語は、主人公の聡里(さとり)が獣医学を学ぶため、付き添いの祖母と共に北海道の大学に到着する場面から始まる。
山場は入学して間もなく訪れる。聡里は入寮してすぐ、同室の綾華から理由もわからないまま嫌われていることに気づく。
ある日、そのことで二人は対峙し、聡里は自分が嫌われる理由を知ることになる。けれど、その理由となった「ある物」には、これまで誰にも語ることのなかった、他人には計り知れぬ背景があることが聡里の口から明かされる。ここで私たち読者は、孤独で凄惨な時期を過ごしてきた、聡里の人生の一端を知ることになるのだ。
そして、その事実を知った綾華の態度はここから一変する。二人の間には確かな友情が育まれてゆき、お互いの存在が大学生活のかけがえのないものとなっていく。
聡里の大学生活は、学業の厳しさと経済的な制約もあり、決して華やかなものではない。登場人物もかなり限られているせいか、物語はある意味で淡々と進む。けれど、胸が締め付けられ、涙があふれる場面が何度かあり、いつの間にか聡里に強く感情移入していた。
この物語を通じて、自分のことを本当に思ってくれる人の存在がどれだけ生きる力になるのか、そして、人と交わり、他人の人生の歩みや考え方を知ることがどれだけ自分の生き方に彩りを与え、心を育ててくれるのかを深く教えられた。
そして、今の自分の悩みや苦しみも、聡里のそれと比べたら大したことではないと思えるし、聡里のように心優しい人間でありたいと思わされた。
作中で、鳥好きの同級生・残雪君が教えてくれたいくつかの知識もおもしろかった。「鳥は羽の模様で互いを見分けている。空を飛びながら自分と同種の羽の模様を見分けて、つがいになる」という話。
真偽のほどはわからなくとも、人間もまた、目に見えない共通の「模様」のようなもので惹かれ合っているのかもしれないな、と想像が膨らむ。
偶然だが、聡里が学んだ実在する大学には、私の周囲に縁の深い人が多く、個人的に強い思い入れがある。
私自身は遠く離れた場所に暮らしているが、小説に出てくる江別や野幌といった場所には何度か訪れたことがあり、親しみ深い。私にとっても、青春時代の一端を織りなす場所ともいえる。
そういう意味でも、心の底から「読んでよかった」と思える大切な小説になった。
Posted by ブクログ
◼️ 藤岡陽子「リラの花咲くけものみち」
ドラマシーズン2あるそうで嬉しい。獣医を目指す女性・聡里の北海道での奮闘・成長。
藤岡陽子氏は「手のひらの音符」が少しチクチクする感触だったのでやや暗い物語を書く人なのかも、というイメージがあった。ドラマを先に観て、SNSのやりとりでお互い「ドラマを観て椋鳩十「大造じいさんとガン」という作品が残雪という登場人物の名前の由来になっているから読んでみた、という話で盛り上がり、原作もぜひ読んで、と薦められていた。帯でドラマのシーズン2があると知り、楽しみにしている。
岸本聡里は小学生の頃実の母親を亡くし、継母が愛犬を嫌い処分するのを恐れて不登校に。15歳で祖母チドリの家に引き取られる。祖母の勧めで北海道・江別にある北農大の獣医学部に進学する。憧れを実らせた形だったが、実習期間の馬の出産で母馬を救うためのショッキングな措置にパニックを起こし、大学をやめる気持ちで東京のチドリのもとへ帰ってしまうー。
聡里は山田杏奈、最初はソリが合わなかったが後に親友となる綾華に當真あみ、同期で鳥の研究に入れ込む残雪が萩原利久、先輩で初恋の人・一馬は佐藤寛太、その恋人に石橋静河、チドリは風吹ジュン。それぞれ想像しながら読んだ。北の大地に若く爽やかなキャストは好感度大。
正直を言うと・・主人公の不幸な家庭環境、というのは最近の小説で多いなあ、軽いなあという感覚を持っている。しかし重要な意味を持つチドリとの関係性は、優しさと厳しさが相まって微笑ましく、そして哀しく、リアルさもある。
北海道の、本州とはまったく違った土地柄と、牛や馬などの大動物を育てる農家の環境、伴侶動物とされるペットへの人間の接し方を丹念に描き、その中で成長していく聡里。様々な考え方や態度、立場が盛り込まれている。知的好奇心が刺激され、思い入れも入り、北への憧れもあり、読み込んでしまう。
説得力のあるベースを積み重ねていて、主人公が自分の道を定める場面では、分かっていたけどやっぱり感動した。チドリや綾華、残雪ら心を許せる友人たちとの会話も軽妙でいて温かく、各シーンも絵が浮かぶように書かれてもいて、工夫を感じる。
口数も少なく、引っ込み思案、頼りなかった聡里の、本当の意味での"巣立ち"。読む大人はアオハル時代の自分を回顧し、大人への階段を昇る自分の姿、将来へ踏み出した時のことを思い出すのか。北の大地への憧れと、動物たちの息吹、生きる熱と死、溌剌とした若者たち。多くの要素が魅力的な小説世界を組み上げている。
ラスト、6年後のエピローグ。読後感が良い。ドラマは原作から少し飛躍しているようだが、それでも楽しみだ。小説も2をぜひ書いてほしい。
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