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Posted by ブクログ
直木賞受賞作「ホテルローヤル」を読んで、文章は上手いが文体と湿った行間は肌にあわない感じがして敬遠していたが、梅川昭美の三菱銀行人質事件が題材なら話は別。絶対に面白そうだと思ったので拝読し、やはり期待を裏切らない傑作だった。梅川本人を描くために、悲惨な家庭環境と、母と元カノの関係性と梅川との関わり方を、如何にもな桜木ウェット感で見事に描写している。また大阪で1強の読売新聞社会部に一矢報いるかたちでの毎日新聞社会部の奮闘を、梅川と同い年の北海道出身記者の全く違う生い立ちでありながら、団塊世代特有の閉塞感の体感を通しての視点で、デスクに鍛えれながら読み解いていくことで梅川の人生に迫る。事件そのものではなく、事件背景を時代と生育環境と女性関係性から深く考察している。桜木氏に一番あった題材だと思った。できれば読書前に、こちらもノンフィクションの傑作「破滅::梅川昭美の三十年」を読んでおくと理解が深まる。
Posted by ブクログ
久しぶりの桜木作品。
発売日のサイン会で桜木紫乃先生にお会いできた。
少しだけお話できる時間をとってくださった。
わたしは緊張しすぎて上手く話せず、大好きな作品「ブルース」の影山博人に惚れました。といきなり言った。それでも先生は優しく、「いつもだらしない男ばかり書いてたから、たまにはいい男を書いてみたかったのよ」とおっしゃった。またあんな過激なものが好きなのねとも。おだやかで気さくな方だった。
異常に非ず、、淡々と語られる犯罪に至るまでの日々。良いことが一つもない人生を生きた親子の哀しみなのか寂しさなのか諦めか、何とも言えない空気が全編にわたって感じられる。すべてをなくし何もない男は、大きな事を成し遂げるために5人も殺さなければならなかったのか。わたしも播磨町の交差点に立ち、思いを馳せてみたいと思う。
Posted by ブクログ
1979年1月、大阪の三菱銀行の支店に男が侵入し、強盗を試みた末に警官2人と行員2人を猟銃で射殺して立てこもる事件が起きた。犯人の梅川昭美(30)は42時間の籠城の後、警察に射殺された。日本犯罪史上に残る極めて重大な事件だった。
この事件を題材にした作家の桜木紫乃さんの最新作「異常に非(あら)ず」が新潮社から4月に刊行された。
桜木さんはかつて事件を取材した元毎日新聞記者との話が、本書を書くきっかけになったという。毎日新聞は事件後、梅川の生い立ちから籠城、射殺までを追った連載記事「破滅」を載せた。その連載をもとに全文をあらたに書き下ろした「破滅 梅川昭美の三十年」(毎日新聞大阪社会部編、1979年、晩聲社)が出版されている。
私は「異常に非ず」をより深く理解するためには、桜木さんが参考文献に挙げたこの本を読む必要があると感じ、ネットで古本を手に入れて読んだ。
第1部「破滅-梅川昭美の三十年」と第2部「密室-梅川昭美の四十二時間」で構成する。毎日新聞は梅川の犯罪を異常な人間の異常な行為で片付けるのでなく、犯罪が個人の暗い部分に根ざし、時代と社会のゆがみを反映するものとして、梅川の30年と、その30年が最後の42時間に凝縮されている、と考えたとしている。
同書は、梅川の人生と事件の全体像を知る、まさに新聞社の力を結集した大変な力作であり、資料的な価値も高い。梅川は死亡し本人は何も語らない中で、その心の闇に挑んだ。今読んでも全く古びておらず、逆に新鮮さすら覚える。
梅川がどのような人物で、なぜ凶行に至ったのか。「異常な犯罪者」で終わらせるのではなく、梅川と周囲の人間の心の深層に、小説の形で迫ったのが、桜木さんの「異常に非ず」である。
梅川がモデルの花川清史、花川の母のカヨ、愛人だった亜紀、毎報新聞のベテラン記者の近藤と若手の海原を主な登場人物に設定。特に花川とカヨの母子関係を基軸に据え、花川と亜紀の男女関係、花川の犯行動機を追う新聞記者の迷いや執着などを、小説的な想像力と創造力を駆使して物語に結晶させた。それぞれが語る会話の構築力は実に巧みで素晴らしい。
両書で鍵を握るのが、梅川が残した自分を語る言葉である。
<オレは精神異常やない。道徳と善悪をわきまえんだけや>
「破滅 梅川昭美の三十年」も「異常に非ず」も、この言葉の深い意味を探り当てるために書かれたともいえるだろう。
桜木さんは最近のあるインタビューで、こう答えている。
<罪自体は断罪されるものだし、誰かに憎まれて当然のことですが、小説は断罪するものでも、裁くための道具でもない。ジャーナリストは丹念に取材して「実」を積み上げ、真相にたどり着こうとする。小説家は「こうかもしれない」という「虚」を積み上げた先に何があるのかを確かめに物語へ入ってゆく。積み上げた「虚」と「実」が、似たような形をしていればいいなといつも思うんです>
「虚」と「実」の相克と共存。
「異常に非ず」を、梅川の事件を題材にしつつ犯罪者や周囲の人物の“心という謎”に迫る物語とリードで紹介した山陽新聞文化面の記事(4月30日付)にはこうある。
<小説とは人の道を説く道具ではない。読者が「共感」できなくても構わない。「このようにしか生きられなかったという人がいるんです。そういう人を書いていきたい>
梅川が書かせたこれらの2冊が、事件から半世紀近くを経て、私に新たな読書体験をもたらしてくれた。
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