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Posted by ブクログ
あとがきにもあるが、「哲学」と「エッセイ」をひとつに編んだ文章であり、決して小難しく考えるものでなく、身近に哲学することが存在していると感じさせてくれる。
個人的に印象に強く残ったのが”対話ワークショップ”であり、平田オリザ氏が開かれた対話ワークショップに著者が参加された時の話になるのだが、なるほどと思わされた。
ワークショップの内容自体は省かさせていただくが、平田オリザ氏云く「何をイメージしているかが問題なのではありません。どのようにイメージしているかというコンテクストをきちんとつかまないと、コミュニケーションにならないのです」と。
最後に著者の言葉で締めくくられるのであるが、ここでもまた考えさせられる。それを読み、ひととひと、国と国の対話で同じ土俵に乗ったとしても、出自(地域、文化など)が違えばやはり分かり合えないのではないだろうか。どれほどその裏付けされたものを学び理解したところで、「対話」が成り立つのだろうか?と。
著者の言葉に、「対話」という言葉に何を託しているのか?とある。その背景にあるコンテクストを丁寧に擦り合わせないと「対話」からますます遠ざかってしまうとも。
身近な存在であるはずの親兄弟ですら理解出来ないままである私にとって、「対話」は非常に壮大なテーマである。
Posted by ブクログ
・様々なテーマから、「表層」への享楽が浮かび上がる
哲学教師の職を得た三十代には、ひとが科学の基礎づけなどという「重い」仕事をやっているときに、顔や皮膚というもっとも表層的な主題に没頭した。そのあと、二十世紀の思想史から消え、だれも見向きもしない二つのテーマ、所有と幸福の問題に取り組んだ。 こだわる対象は刻々と変わってきたけれど、こだわりそのものは全然変わっていない。が、そのかたちには心なしかうらぶれたところがないではない。そう、洗い場の使い古したスポンジのように。
>>>本書、p214
この部分で出てくる、「表層」が、ケアや政治の言説、デザインからファッション、ブランド、果ては教員としての試験との向き合い方や恋愛にまで、その語りの紡ぎ方を決めていたように思う。
これは、千葉雅也『勉強の哲学』で語られていたところの「享楽」、つまり偶然の出会いの痕跡として反復されるテーマであり好き嫌いの基準であると感じた。
こういった享楽があることで、多くの人が見逃してしまうであろうキザなイタリア野郎の仕草からも哲学が紡がれる
>>>
空を向いて、イタリアらしいまぶしいばかりの陽射しを久しぶりに顔いっぱいに浴びるはずが、ふと、ひとりの男に眼を奪われてしまった。顔にではない。支配人のくせに仕事は店員にまかせ、壁にもたれたり、外の風景をぼんやり見つめたり、下を歩いているらしい顔見知りに手を振ったり……。きざなのである。が、優美なのである。そのぶらぶら歩き、しどけなさが。
(中略)
ふと、家の犬のことをおもった。離れにつながる通路のところで、犬がお座りをして、じっと庭を眺めている。その姿が妙に高貴に見えるのである。そうか、イタリア野郎もそうだったが、人間的であるという以上に、動物的であるということのその先にこそ高貴さが漂うのではないか。 フランス語のコスメティックが、コスミックから(英語ならコスメティックスがコズミックから)きていることをご存じだろうか。化粧はもともと宇宙へのご挨拶といった意味をもっていて、あのきらびやかな色に染め上げられた鳥や花に対抗するかのように、空や土に溶け込むかのように、あるいはもっと激しく、しばしのあいだ獣や鳥に変身しようとして、からだに色を塗り、皮膚を刻み、羽根を身につける……。ところがいまの化粧ときたらどうだろう。視線は宇宙ではなく、社会に、他のひとびとに向いている。そしてひとびとのあいだでじぶんがどんなふうに映るか、じぶんの存在をもっと「上等」に見せるにはどう装ったらいいか、つまりそのためのセルフ・イメージの演出や微調整にかまけている。みすぼらしいコスメティックである。 動物的であるというのは、社会よりも宇宙に感応するということなのかもしれない。その微細な気配の変化に感覚を研ぎ澄ませているということ。平原にひとりたたずむ鹿の、あの、ぴぴっと動く耳のように。
>>>p178
イタリア野郎から、動物的であることや化粧へ飛躍する足場としての「表層」という享楽。あるいは、『フローとストック』の枠組みで言えば、単に「イタリア野郎」とラベリングすることで常識的=具体的ストックとして処理するのではなく、特異な一例=具体的フローとして世界を解釈しなおし楽しむための表層の哲学という弛緩剤。
エッセイは平易な言葉で語られるからこそ、哲学者が書いていても人間らしい部分が浮き立つのだなと思った。
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