「本書は、 Alain : Propos sur le bonheurの全訳です。したがって、直訳すれば、題名は「幸福(についての)語録」ということになります。「幸福論」としたのは、それの方が通りがいいからです。 お読みになれば直ちにお判りの通り、本書は、幸福についての、観念的、また体系的、学術論文ではありません。具体的、または実践的、小エッセーの集合です。現実の身近なところからお話がはじまっていて、決してそこを離れることはない。そして、問題はいつも、人間はどう生きねばならないか、から逸脱することがない。 その点では、日本の新聞雑誌によくのる身の上相談の解答者の人生案内風の文章に似ているといえます。人生の苦労人、達人でなければ扱えない内容です。しかし、身の上相談の場合と違うのは、これには強靭な思考の、いわば電気ドリルの運動がある。そのドリルが頑健な岩の穴をうがってゆく壮快さがある。男らしい作業の緊張感がある。安直な同情の湿っぽさもなければ、道学者めいた説教くささもない。与えられた問題と挌闘し、それを乗りこえようとする。変ないい方ですが、精神の筋肉のたくましさ、これしかない。」