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Posted by ブクログ
著者はテキサス大学の心理学教授。本作が処女作ということになるようだ。訳者は「フェルマーの定理」の訳で有名な青木薫氏、最近ではブライアン・グリーンの大著「時間の終わりまで」などがあり、科学啓蒙書の翻訳には定評がある。本書もそれらの例に漏れず訳がこなれていて読みやすい。
著者の主張は本書で幾度となく言及されているように、政治哲学者ジョン・ロールズの思想の強い影響下にある。ロールズによれば、「遺伝子セット(自然的偶発性)」と「社会的環境(社会的偶発性)」は、内在的であるか構築的であるかの違いはあれど、どちらも人間の表現型(実際に発現し測定可能な特質)に作用し、人生の広範な局面に影響を与えるのであり、道徳的見地から甘受すべからざる不平等の原因であることには変わりない。
従って、前者は絶対的で後者は相対的だとする〈優生学〉の立場は、遺伝の存在を理由にそこから生ずる社会的不平等を放置する無責任なニヒリズムだということになる。また、本来価値中立的な遺伝的情報の差異を即座に社会構築的な(主に西洋白人種を中心とする)価値のヒエラルキーに還元してしまう伝統的な価値基準についても、遺伝子が社会的「価値」に与える影響を吟味せず、生得的なものに盲目的に価値を割り振ろうとする硬直的な価値判断基準であると批判する。
さらに、そもそも不平等の原因を炙り出すような遺伝子セットの研究自体を不道徳であるとして忌避しようとする〈ゲノムブラインド〉の立場も、不平等と「暗黙の共謀」関係に立っているとして強い批判の対象とする。個体差に遺伝の影響が存在することを認めることと、遺伝の結果生じる不平等を放置することは全く異なるというわけだ。
上記2つのアプローチを批判した上で、著者は〈アンチ優生学〉の立場に立って公平性に関する政策を遂行すべきだと説く。
双子研究の成果によれば、現在各国で用いられているゲノムブラインドなアプローチは、貧困世帯における認知能力の遺伝率(=遺伝子の表現型に対する影響度合)を低める、いわば優秀な遺伝子の発現率を阻害するように作用しているという。著者はそのように「高い方を削って全体を均す」のではなく、社会にとって遺伝的に最も不利な因子を持つ人々を遺伝子検査によって特定した上で、それらの人々が幸福な生を生きるために必要なリソースを割り振ろう、と主張する。このように本書には、「構築的であるにすぎない現代社会の価値観に照らして、生得的に有利な因子を持って生まれてきた幸運な個人は、その恩恵を社会に還元すべきである」という、ノブレス・オブリージュ的な発想が根底にある。
先述のロールズの提唱した有名な概念に「無知のヴェール」があるが、遺伝子検査にはこれと同じような機能があるのだ、というのが本書の梗概なのだと思う。無知のヴェールを被れば個々の前提条件が取り除かれ、最も不利な立場に立って公平とはなにかが考察できるようになる。同様に、遺伝子検査によってどのような遺伝子型が最も不利な表現型につながるのかがわかれば、その遺伝子と表現型の間の長い因果の鎖のどこにどのように介入すべきかを判断する際の不確定要素が取り除かれる事になるのだ。「遺伝子研究の歩みを止めるな、なぜならそれは単に功利的ではない公共の福祉、真に道徳的な公平性につながるのだから」という力強いメッセージを感じた。
Posted by ブクログ
遺伝と「平等」と言うと、優生学とか過去の色んな犯罪学とか絡んできて若干引くところがある。
筆者も、それは否定しないし、実際過去にはそれが利用されて来たのも事実。
だが、社会的成功や人生に、「遺伝」が絡んでいることは、否めない事実であり、それに目を瞑ることもまた、誤りにつながると論ずる。
前半は、様々な遺伝に関わる研究の成果、手法の進歩、問題点について触れ、遺伝の影響を排除は出来ないことを述べ、後半でそれを前提にした上で、では、どう言う社会を作っていくのが望ましいのかを説明していく。
いい内容だと思う。
環境ガチャと遺伝ガチャは事実であるが、いくつかの特定の遺伝子に起因する病例などを除くと、極めてたくさんの因子が絡んでくる為、簡単にこの遺伝子が決定的とは言えない。あくまで統計と確率の問題ではあるが、それでも確実に、傾向はある。
遠くから見ればはっきりするが、近づくほどぼやけると言う言葉もいいな。
そうして、そうして「不平等」を一番背負った人が幸せになるための適切な介入はなされるべき。
生まれ持ったものを「手柄」には出来ない。
自分が何であるか、何になるのかが不明な状況で社会は設計されるべき。
感謝と謙虚と援助だな。
Posted by ブクログ
少し内容的には難しかったが、今まで人を分ける時にはそれは優生論となってしまい、あまり遺伝と人の関係は研究されて来なかった。
だけども、人は誰しも違う遺伝子に生まれ、それが個性として現れることは事実である。
生まれた時の遺伝子と生きる環境によって人の人生は変わってくる。
よく言われる親ガチャは悪い意味で使われがちだが、人が親からもらってるもの、遺伝子が違うのは事実である。
それをうまく利用することで社会を良くすることはできるかもしれない。
そう思わずにはいられないが、持つものが結局は負担が大きくなる。それには結局は反感を買ってしまう部分があり、どうなのだろうと思ってしまう。
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