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その美しい庭は、人の心を曝け出す。 駆け出しの造園設計士・高桑は大学の卒論で作庭師・溝延兵衛と、彼の代表作となったある庭を取り上げて以来、長年にわたり取り憑かれ続けていた。 武家候爵・吉田房興が兵衛に依頼したもので、定石を覆す枯山水を作るために、大きな池が埋められていた。その池からは、白骨死体が見つかっていた――。 昭和初期。限られた時代を生きたある華族の哀しみと、異能の作庭師の熱情が静かに呼応する「美しい庭」の誰も知らない物語。
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Posted by ブクログ
昭和初期のある華族と作庭師の生き様に、それこそ取り憑かれたようにひたすら読み続けた時間が濃密で至福だった。時代背景や内容全てがとても好み。奥様付きの女中トミが語る華やかで幸せいっぱいの吉田家に次々に降りかかる災難と苦悩。池から出た白骨に慄き真相には驚きと悲劇しかない。だけどなのかだからなのか1人の作...続きを読む庭師の与える影響がとてつもなく大きく深く、夫婦を変えていくのが素晴らしくも恐ろしくもある。タイトルの芭蕉の句と庭の見せる図があまりに切なく読み終えた時には心に穴が開いたよう。もっとこの美しい世界が続いたなら。
「行く春や鳥啼き魚の目は泪」芭蕉 「奥の細道」へと旅立つときに詠んだ句。 昭和八年から九年にかけて華族の吉田家で起こった事件です。 女中のトミが血で汚れたコテを弟分の惣六に「それを誰にも見つからないところに隠すんだよ」と渡す切迫した場面から始まります。 血で汚れたコテは何かの事件の凶器かと思わ...続きを読むれますが…。 そのコテの持ち主は庭師の溝延兵衛。 お屋敷の主人は吉田房興。 妻はアキ子(アキの字が変換できません)。一人息子の房通がいます。 房興には妹の準子(のりこ)がいましたが結婚前に誰の子か分からない子を死産して、亡くなっています。 ある時庭の池から白骨死体が浮かび、準子の子どもの父親かといわれた運転手や書生ではないかと噂がたちます。 房興は池を潰して新しい庭の設計を溝延に頼み、それに夢中になります。 アキ子と兵衛の間には恋愛以上の絆が生まれます。 でも賢夫人のアキ子は決して夫を裏切る事は一度もなく夫の為に生涯を捧げます。 そして事件は静かに起こり、最後は房興、アキ子、兵衛の関係性にジンと涙が出る、傑作ミステリーでした。
滅びゆく者をテーマにした本は何故かそそられる。背景に流れている雰囲気が好きで冒頭から引き込まれた。昭和初期、限られた時代を生きたある華族の哀しみと、異能の作庭師の熱情が静かに呼応する「美しい庭」の物語だった。 当主である房興は家というものに取り込まれ、個を埋没させている。経済的には恵まれてはいたが、...続きを読む自分らしい豊かな人生を生きてきたわけではなかった。才能ある純朴な新進気鋭の庭師・溝延兵衛に庭園を造ってもらうことになり、彼の生き様や、彼の作品である庭に寄せる思いを聞き、房興と彼の妻・韶子は自分自身を見つめ直す。 作庭師が雇い主の吉田房興に話す 「決められた道を行くことは簡単でございます。既にある道を外れることも容易(たやすい)ことでございましよう。難しいのは新しい道を作ることでございます」 一介の庭師の言葉が侯爵家の房興と彼の妻・韶子の心を揺さぶった! タイトルは「行く春や鳥啼き魚の目は泪」という松尾芭蕉の句から採ってあるが、ミステリー要素も散りばめられていて十二分に楽しめた。 初読みの宇佐美まことさんだったが、他の作品も更に読みたくなった。
『清閒庭(せいけんてい)』は昭和初期に天才庭師・溝延兵衛(みぞのべ ひょうえ)が、時の公爵・吉田房興(よしだ ふさおき)の依頼を受け、池を埋め立てて作り上げた広大な枯山水である。 浜辺に打ち寄せる波の音が聞こえてくる心地がする。 この庭に魅せられたのは現代の建築設計士・高桑透(たかくわ とおる)。 ...続きを読む彼も知らない、清閒庭と吉田家にまつわる秘められた物語を、公爵夫人・韶子(あきこ)付きの女中トミが語る。 滅びの予感が漂う。 「華族」といえば「斜陽」・・・と条件反射のように連想してしまう。 これも一つの、沈みゆく陽の物語だと思う。 庭づくりに熱中し、やがては取り憑かれたかのようにのめり込んでいく・当主の房興。 莫大な財と高貴な家柄を誇る吉田家は、次々と不幸な事件に見舞われる。 しかし、不幸は偶然ではなく、大木を中から食い荒らして死に至らしめんとする害虫のような輩が存在したのだ。 庭師と当主夫人の清らかな魂のふれ合いが、広大な枯山水の前庭ではなく、茶室の露地で描かれるのは対照的で奥ゆかしい。 人が死んでも庭は残る。 高桑の存在は、過去と現在を繋ぐために必要だったのだろう。 しかし、ドローンの使用の是非です。 自分の作った庭を鳥になって上から見てみたいと兵衛は言っていた。 それは不可能だと思ったからこそ、秘めた思いを作庭に込めたのだろう。 まさか未来の技術で上から覗かれるとは!! 時代の流れには抗えないのであった。 しかし、高桑にとっては、庭を守り続けるために必要なことだったのだろう。 庭がそこにある限り、房興の、韶子の、そして兵衛の思いもひっそりと生き続けていくのである。
昭和初期、華族である吉田家の庭にある池から白骨死体が見つかった。過去の令嬢の醜聞に関わる噂が飛び交う中、池は埋められ壮大な枯山水の庭が作られることになる。作庭師の溝延兵衛が手がけるその庭の工程が進む中、庭づくりに魅入られた吉田家の当主夫妻は徐々に変化を見せていく。ミステリ的な部分もあるけれど、それだ...続きを読むけではない魅力に満ちた作品です。 池から見つかった白骨死体に関わる謎がメインのミステリかと思っていましたが。主役は庭と作庭師ですね。もちろんミステリとしての部分にもきっちりと驚かされ、納得させられましたが。庭に魅せられ魅入られる人たちの物語を読むうちに、こちらも引き込まれていきました。そしてこの時代の、華族の儚い栄華が虚しく切なく感じられます。さらにそれを理解していた房興の姿が悲しくもありました。華族の先行きを見据えながらも、華族としての体面を保ち生きることしかできないんですよねこの時代では。 一方で確とした自分を持つようになった夫人の姿も印象的です。こちらもまたこの時代に、置かれた立場で生きるしかないという悲しさがありながらも、凛とした佇まいが眩しい。作庭師との絆が単なる恋愛などというものでないのもまた清々しいです。
昭和初期の華族が住む屋敷に日本庭園を作るお話。 ん? 宇佐美さんだよな、と読み始めてから、表紙を確認してしまった。まあ、この作家は文体もテーマも自在に書き分ける方なので、こういう作品があっても不思議はないのだが……。正直驚いた。 冒頭に置かれた短いエピソードからなにかしら怖ろしい事件が起きることはわ...続きを読むかるのだが、なかなかにゆるりとした展開のうえ登場人物も多く、物語に集中できない。しかし、そこまで計算しているのだ。多分。 最後の最後、現在の場面で明らかになる庭の真実と、エピローグに相当するエピソードが見事にリンクした。
昭和初期の華族のお屋敷での物語。 華族の暮らしぶりが細やかに描かれており、イメージが膨らんだ。100年やそこらで、時代は完全に様変わりしたのだとつくづく思う。 名家での庭造り、池に絡んだ事件などを軸に展開していくのだけど、ゆるゆるとしたテンポ感がイマイチ合わないのか、途中中だるみしてしまった。 後半...続きを読む、真相に迫ってきたあたりからは面白かった。
芭蕉の句のタイトルが目に留まり読んでみました。 戦前の特権階級だった華族の優雅な暮らしぶりとか、淡々とした品のある女中の一人語りが続く。遠い世界の事のようで、あちらこちらと話も的を得ずとめどもない噂話に、寝落ちしてしまい夢見心地でした。100人も女中を抱えていたとか、ただ車のドアを開け閉めするためだ...続きを読むけの係もいたとか。それ以外する事なければ時間持て余してさぞかし退屈そうだからいろんな噂話に花が咲いたんだろうなって思いました。 色々と秘められた情事とか殺人もあったりで、こうゆう事が起こらないと欠伸がでそうな話でしたが、そこら辺の箇所になると釘付けになったりで、そんな自分が下世話で残酷に思えたりでした。やがて華族制度が廃止になり衰退し、庭だけが残りその栄枯盛衰を現在に伝える。 事件も風化され忘れ去られていくなか、枯山水を設計した庭師の意匠だけが誰にも気づかれずに残ってるって、この遊び心いいですね。ナスカの地上絵みたいに謎めいて問いかけているようでした。
血で染まった柳刃ゴテをトミから隠すよう命じられた惣六。冒頭から闇深い。昭和8年~令和5年と時代を区切り、華族家に築かれた淸閒庭の謎、没落していく描写が切ない。芭蕉の句『魚の目は泪』の引用に得心。
昭和初期に吉田房興侯爵が、作庭師・溝延兵衛に池を埋めて枯山水を造る依頼をする。 大きな池から白骨が見つかり… 華族のさまざまな事情を知ることとなる。 異能の作庭師の溝延兵衛、彼の造り上げた彼の知る企みと言うべき、空から庭を俯瞰したら土地全体が魚に象られてる…魚は泣いてる。という気づきになんともいえ...続きを読むない思いがした。 まさに庭に取り憑かれた男が成したことだと改めて驚かされる。 華族が生きた昭和初期から庭に携わるものは、何年経っても心に残る美しい庭をという思いを持っているんだなと感慨深い気持ちになった。
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