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花村萬月の名前を聞くと、サラダ油のシーン(!)で印象深い映画化タイトル「皆月」を思い浮かべる人も多いかもしれない。過激な性と暴力描写を得意とする作家だが、その根底にあるのは神への猜疑と冒涜である。
著者の「王国記シリーズ」の第一章目にあたる本作『ゲルマニウムの夜』の主人公・朧は、頭脳明晰だが人を殺し、育った修道院に舞い戻る。彼は人を殺し、純潔の修道女を犯しても、何の罰も下さない神を見限り、宗教者のなれのはて――王国の建立を決意する。
表題作の他に「王国の犬」、「舞踏会の夜」が収録されている。いずれも朧が修道院で神を疑い、信心深い神父とアスピラントを試し、自我に目覚めるまでの小編だ。修道院という本来神聖であるはずの場所で行われている暴力、虐待、同性愛の生々しく残酷な描写は圧巻。なお、2005年に大森立嗣監督・新井浩文主演で映画化もされている。
Posted by ブクログ
はじめに『ゲルマニウムの夜』を読んだとき、「これはとんでもないシリーズだ」と思った。そのぐらい評価が高い作品の続篇なので、読む前にやたらとハードルが上がっていたせいかもしれない。本作ももちろん良い作品には違いないが、「あれ、こんなもんかな」という感じがしてやや拍子抜けしてしまった。ただ、赤羽修道士を主人公とした表題作はとくに傑作で、この作品のなかにはさほどキリスト教的要素は登場しない(そもそも赤羽は「元」修道士だ)が、それでも全篇にわたってそのテイストが万遍なく塗されていて、この「宗教以外で宗教を描く」というのがこのシリーズ最大の特徴であり魅力ではないだろうか。(しかも、なぜか内容はきわめて宗教的だ。)こういう、アンビヴァレンスな感じ、逆説的な感じがすばらしい。このことを踏まえると、1作目より本作の評価が落ちてしまう理由として、併録された「刈生の春」における描きかたがあるのではないだろうか。この作品では、修道院の農場での過酷な生活を通して、指導者たちの「欺瞞」を映し出しているが、朧が直接不満を漏らすなど、その方法がどうも露骨すぎるのだ。もっと間接的に、比喩的にこの部分が描かれていれば、もっと高く評価することができたことだろう。ただ、視点や舞台や筋書を大きく変えても、根柢に流れるテーマがまったくブレないあたりはさすがの筆力である。この「王国」の行く末を、もうすこしだけ見守ってみようと思う。
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