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一九二一年、ある無名の青年が広く知られる人物を殺害した。一代で財閥を作り上げた安田善次郎を襲った犯人の名は、朝日平吾。その衝撃は原敬首相暗殺の連鎖を生み、二・二六事件に至るテロリズムの世を招来する。彼は屈辱、怨恨、強い承認願望を抱いていたのではないか――。当時と現代に格差社会という共通項を見出す著者が、青年の挫折に満ちた半生を追ってゆく。『朝日平吾の鬱屈』改題。
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Posted by ブクログ
寂しさというものがテロを起こさせるのか。どう見ても、本人が悪いと三者的には感じるが、本人はそんな気もないのだろう。 そんな中、文庫版あと書きで元首相銃撃に関して「社会を変えるには、こんな手があったか」という声が書かれていた。恐ろしいベクトルだ。自分として、周りの人が少しでも良い状況でいられるように...続きを読むつとめたい。
作者の事実を突き合わせる書き方がより朝日の心情を表していて強い恐怖を感じた。秋葉原事件もそうだったが、余計な描写がない中想像を膨らませることができる。
テロルの原点 安田善次郎暗殺事件 中島岳志 凄い本を読んでしまった。少なくとも2023年では暫定1位である。 個人的に、今年の年始にタモリが番組内で「2023年はどのような年になるのでしょうか」と聴かれた際に、「新しい戦前になるのではないでしょうか」と発言したことが、ずっと印象に残っている。 そ...続きを読むうした中で、今年に入ってから同じく中島岳志氏の『血盟団事件』、小島俊樹氏の『五・一五事件』、そして本書を手に取った。なぜなら、新しい戦前の起点をどこにするかということの参照点は、やはり私自身も安倍首相の銃撃事件にあり、1930年代のテロリズムの脅威と、この事件に重なりを見出さざるを得ない。 私自身、これらの3冊を読んだ感想としては、現在27歳の私と同年代もしくはそれより若い人々が、貧富の差に喘ぎ、社会の在り方を希求するがゆえに暴走してしまった結果として1930年代のテロリズムがあるというものである。 本書の文庫本あとがきには、私も共有する中島氏の確かな危機感を表した以下の文章がある。 テロやクーデターは、必ずや国家の治安維持的暴力を肥大化させる。だから、賢い方法ではない。しかし、むき出しの資本主義が人間の生存を脅かし、その実存までも揺るがすとき、社会の片隅から漏れ出した鬱屈が、テロリズムという凶行となって表出する。「自己であることの欲望」がそのまま暴力へと繋がってしまう。そして、そのような暴力を、社会が「世直し」ととらえるとき、悲劇は時代とともに加速していく。 私たちが、朝日平吾以降の歴史の顛末から学ぶべきことは、実は多い。(P244) だから、そんなテロが起きないように、社会を立て直していかなければならない。多くの人の居場所を作っていかなければならない。承認格差が是正されるような社会の在り方を構想し、実現を目指していかなくてはならない。「社会的包摂」や「地域社会の相互扶助」を本気で考えなければならない。(P245) 不幸にもテロが起きてしまったとき、私たちはもう一度、朝日平吾以降の歴史のプロセスに遡行して、現代社会を見つめなおす必要がある。朝日以降の社会が、テロの連鎖を生んでいったプロセスを直視し、その結果がいかなる悲劇を招いたかを知らなければならない。(P245) 私は、無論テロを賛美しないし、暴力に断固として反対する。しかしながら、本書で描かれ、苦悩し続ける朝日平吾や、血盟団事件の井上日召や小沼正が苦しんだ社会像もまた、凄惨なるものであり、中島氏の言うようなむき出しの資本主義によって、実存的不安をも持てない状況を現代に再現してはならない。サルトルによれば、我々人間は何をなすべきかの目的を持たずに生まれてくる。実存が本質に先立つのである。自分の本質はわからないが、近代では完全なる自由の下、あらゆる行動が自己責任として自分の前に降りかかる。そんな自由の刑の下で、私たちは葛藤しながらコミュニティや活動に心血を注ぐことで、自分自身の自由の刑を縮小しつつ、自身の本質を見出していく。 朝日平吾は、その性格も理由ではあるが、徹底的に家族やコミュニティから拒絶され続けてきた。また、労働者のための、世直しのための事業に関しても渋沢栄一を除き、多くの富裕層から拒絶された。逆恨みでこそあれ、朝日の実存を承認し、自己の本質を見出すプロセスが悉く頓挫している。拒絶され続けた結果、彼の計画は誇大的となり、虚しい妄想と化していく。映画でホアキン・フェニックスが演じたJOKERそのものであろう。社会はますます混迷を深め、新たな戦前の岐路に立っている。 朝日とJOKERは自分の周囲から徹底的に見放され、凶行に走った。そのプロセスを再現させてしまうのでは、私たちが歴史を学ぶ意味がない。 これは三島が『文化防衛論』でもは話していることだが、人間は徹底的に怖いものである。自分自身への恐怖、他者に内在するどう猛さへの恐怖、これらが社会を成り立たせる。社会に総取りはない。社会は人間に内在する凶暴性にもっと関心を向けるべきであろう。そんなことを学んだ本である。
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テロルの原点―安田善次郎暗殺事件―(新潮文庫)
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中島岳志
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