津田梅子の生涯と功績が時代背景も絡めてわかりやすく書かれていて過不足がない。
梅子が留学し、理想としたアメリカでも、当時は女性参政権はなく、大学も男性と同じように学べたわけではないが、それでも日本と比べれば天地の差があったのである。大金をかけて留学させ、三人(梅子、捨松、繁子)とも、意欲も能力も高か
...続きを読むったのに、帰国しても仕事がないというのは、いかに苦しかっただろうと思う。男性の帰国者はやりがいのある仕事と高い地位が約束されていたのに。
繁子と捨松は結婚したが、そこには諦めもあったに違いない。梅子は生涯独身だったので仕事を堂々とやれたというのはあると思う。昭和の終わりの時代ですら、結婚した女性が働いていいのは、家事育児をきちんとやって、夫に「迷惑」をかけないならば、という条件がついていた。つまり、家事育児が女の一番大切な仕事であり、仕事で手が回らず夫に家事育児をさせるようでは妻失格という世間の感覚だった。明治はもちろんそれ以上だっただろう。
梅子は新しい紙幣の顔になるが、立身出世した男性よりダントツで身辺潔白だったし(婚外子も妾も当たり前だった男性と比べれば)、「津田塾大学を作っただけでしょ」と言う人は、当時女性が働き、女子に教育(嫁入り教育ではなく、本当の学問)を受けさせることがいかに困難であったかを知るべきだと思う。
ま、しかし、あまりに人間としてもケチのつけようのない素晴らしい人物なので、面白味には欠ける。これは、私個人の「どこかぶっ壊れた人が好き」という特殊な嗜好によるもの。普通にオススメできるいい伝記だと思う。
大庭みな子の方は小説だから梅子の違った面も描かれているのかなと気になっている。