荘園の成立(墾田永年私財法)からその解体(応仁の乱後)までの750年余を辿る通史。その変遷をわかりやすく解説するのは至難の業であろうが、本書はその点、非常に明快であった。
とくに院政期における「領域型荘園」の領主権=本家—領家ー在地領主による三階層の支配体制としてとらえて説明し、この「領域型荘園」
...続きを読むの成立を在地領主の開発と院政という新たな王権(中央権力)の介入との合作物としてとらえることで鎌倉期における荘園制が安定していった流れが把握しやすくなっていると思う。そこでは西欧の封建制と類似した性格を見て取ることができるのと同時に、中央権力との関わりにおける日本型の特徴も見いだすことができる。
以上が第5章まで。第6章は鎌倉期に安定する荘園の農業生産力の発展、荘園における消費の様子、流通と貨幣経済の発展、人びとの生活(主として信仰)との関わりなどが多面的に描写されている。そして、第7章以降が鎌倉後期における荘園の変容から最後の解体までについて叙述されている。飢饉などの危機について最新の気候歴史学の成果も取り入れつつ叙述されているのは、本書の大きな特徴のひとつである。
鎌倉後期から職の重層的な構造が崩れ一円化が進み、一円領では次第に領主から任命された名主に代わって土豪という独自の支配身分が成立、また荘園のなかの「村」が惣村として集合して領主からの自立をはたしていく。さらに国人領主は国衆へと変化、最後にはその国衆を束ねる戦国大名が成立していく。荘園の最終的な解体である。
日本の農村風景は荘園によってその原型が形成された。今でもそうした歴史的景観を味わえる箇所もある。本書の最後ではそうした場所の紹介もされているので、機会を見つけて訪ねてみたい。