主人公の「僕」は大聖堂の石段の上に置き去りにされていた。そして孤児院にいたのを貧農のパドリーノ一家に引き取られた。養育費銀貨一枚のために。私生児と呼び囃されながら「僕」はガミネッラの丘で幼年時代を送り、養育費が支払われなくなると今度は平地の農場へと売り渡されていく。主人公の生涯を追いながら描かれるの
...続きを読むは農村の激しい貧困、戦争の惨禍、人々の愛憎劇。残酷な現実と悲哀の中に月光のように静かに輝くのは、貧しさに喘ぎながらもその地で生きようとする人々の姿だ。様々な感情、思惑を抱きながらも、誰かを愛し、催される祭の時は賑やかに、精一杯楽しみ、そうしてまた日々の労働に身を砕く。人の生き様を、困難な時代に翻弄された人々を淡々とだけれど美しい筆で描いた本作は胸が痛むけれど、感動的な物語。「故郷は要るのだ、たとえ立ち去る喜びのためだけにせよ。故郷は人が孤独でないことを告げる。村人たちのなかに、植物のなかに、大地のなかに、おまえの何かが存在しおまえがいないときにもそれが待ちつづけていることを知らせる。」この一節が本作の全てを言い表しているように思えます。