齋藤陽道の作品一覧
「齋藤陽道」の「声めぐり」「齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
聾者で写真家の著者だからこそ敏感に気づくことのできた、「言葉」として形をとる以前の、自分の内面やあるいは相手との間に生じる無形の「ことば」の大事さを説く本。
「言葉」というものは非常に有用なもので、それだけで相当な情報量を込めることができ、「言葉」の応酬だけで実生活上は不自由なく過ごすことができる。
しかし、本来、それら発せられた(あるいは記された)「言葉」が生まれてくる背景には、発した人の中にそれ以上に膨大な量の「言葉」になる以前の、あるいは「言葉」にならないような思いや経験、感情、生活などの背景が必ず存在しており、著者はこれを「言葉」と区別して「ことば」と呼ぶ。
それらの「ことば」は時に、「言葉」のかたちを取ることなく相手に伝わることはある。目線や表情や空気、肌の接触などを通じて、「口に出さなくても伝わっている」と感じた経験は誰にでもあるのではなかろうか。
SNSを中心に、「言葉」がかつてなく容易に飛び交い押し寄せてくるだけでなく、発信もできる時代にあって、「言葉」のその字面のみを記号として捉えてインスタントに反応していくことも多いのが現状だろう。
一旦、そのインスタントなやり取りから距離を置き、自分のなかに溢れる「ことば」を見つめること、相手にも「言葉」の背景にある多くの「ことば」があるであろうことに思いを巡らせること。
それが自分自身をよく知り、他者理解に繋がり、本当の意味でのコミュニケーションに発展していく。
言い表されたものよりも、人や世界はもっと豊かである。
忙しない現代だからこそ、そして本書は著者が自らの「ことば」であった数々の気持ちを振り返りながら紡ぐ「言葉」だからこそ、心に響く一冊になっていると思う。