本文だけで二段組約600頁の大著、しかもその内容が帯によれば、「考古学、人類学の画期的研究成果に基づく新・真・世界史!」というのだから凄い。
人類史20万年で分かっていることはごくわずか。しかし現実にはルソーの『人間不平等起源論』かホッブスの『リヴァイアサン』で示された発想の二者択一で、それをア
...続きを読むップデートしたものが語られているに過ぎないと著者たちは言う。例えば、農耕の発明により「バンド」から「部族」へ、さらに「首長制」→国家へであったり、狩猟採集、牧畜、農業、工業といった生産様式の変化などなど。ベストセラーらとなったビッグ・ヒストリーの著者たち(自分も大変面白く読んだ)、ハラリ、ダイアモンド、ピンカー等も、これまでの常識に安住しているとして批判される。
17世紀末のアメリカ先住民の哲学者=政治家カンディアロンクによる当時のヨーロッパ社会に対する批判の紹介から始まり、トルコの前9000年頃からの遺跡ギョベクリ・テぺ、前1600年頃にアメリカの狩猟採集民により建造され、商品文化の痕跡のないポヴァティ・ポイント、前100年頃から後600年頃まで存続し、多くの絵画芸術が残り、また居住用アパートメントが作られたメソアメリカのテオティワカンなど、これまで聞いたことのない考古学的遺跡から分かってきたこと、また素朴で単純な未開人といったものではなく、高度な政治や外交が行われ、また”所有”に関する考え方がそもそもローマ法やロック流のものではない別の在り方があったことが明らかにされていく。
これまで常識とされてきた社会の拡大、国家の成立、支配と被支配といったことに関して、別の人間社会の在り方があったことを最新の証拠によって明らかにするとともに、今後もあり得ることを著者たちは強く主張する。訳の功績でもあろうが、著者たちの主張は明晰で論理展開は分かりやす。ただ、あまりに膨大でこれまで知らなかった情報が次から次へと出てくるので、その内容を消化するだけでも一苦労だ。しかし、既成観念を打ち壊されるのはある意味快感である。
40ページ以上の訳者あとがきがあるのも、膨大な本書のエッセンスを解説してくれるものとして、とても参考になりありがたい。