あらすじ
『負債論』『ブルシット・ジョブ』のグレーバーの遺作、ついに邦訳。「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー。考古学、人類学の画期的な研究成果に基づく新・真・世界史! 人類の歴史は、これまで語られてきたものと異なり、遊び心と希望に満ちた可能性に溢れていた。
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第1章
ホモ・サピエンスは唯一の現生人類ではなく、ネアンデルタール人やデニソワ人をはじめとする複数の人類種が共存し、交雑していた事実を示している。
これにより、人類の起源は単純な直線的進化ではなく、多様で複雑なネットワーク型進化モデルで説明されるべきである。
さらに、アフリカを起源とする「単一起源説」も修正が必要である。最新の化石発見と古代DNA解析により、人類はアフリカ以外の地域でも独自の進化を遂げ、遺伝的交流を重ねてきたことが明確に証明された。
古代DNAの解析技術の進展は、人類の移動経路と交配の詳細なパターンを解明し、過去に存在した多様な人類集団が互いに影響を与え合っていたことを確定した。
これにより、人類史は単なる進化の系譜ではなく、複雑な遺伝的混合と文化交流の歴史として再構築される。
この章は、人類進化の新たなパラダイムを示し、後続の文明や文化発展の理解に不可欠な基礎を築いている。
具体的な研究例と証拠
デニソワ人の発見
シベリアのデニソワ洞窟で発見された骨片から抽出された古代DNA解析により、デニソワ人はホモ・サピエンスやネアンデルタール人とは異なる独立した人類種であることが確定した。この発見は、人類の多様性が従来考えられていた以上に広範であったことを証明している。
ネアンデルタール人との交雑証拠
現代の非アフリカ系人類のゲノムには約1〜2%のネアンデルタール人由来のDNAが含まれている。これにより、ホモ・サピエンスはユーラシア大陸到達後、ネアンデルタール人と交配し遺伝子を受け継いだ事実が確実である。
複数地域での人類化石発見
アフリカ以外にも中国や東南アジアで、4万年以上前の古人類化石が発見されており、これらはホモ・サピエンスとは異なる形態的特徴を持つことから、複数の人類集団が並行して存在していたことが明白である。
遺伝的多様性のネットワーク解析
最新の遺伝子ネットワーク解析により、人類の進化は枝分かれした単一の系統樹では説明できず、複数の人類種間で遺伝子の流動が頻繁に起こる「網状進化モデル」が必須であることが断言されている。
これらの研究例は、人類史を根本的に書き換える科学的証拠として確立しており、従来の単純な進化論は完全に時代遅れであると断じてよい。
第2章
農業の開始は単一の決定的瞬間ではなく、狩猟採集社会と農耕社会が数千年にわたり並存し、相互に影響を与え続けていた事実を証明している。
最新の考古学的発掘結果と植物・動物の遺伝子解析により、農耕は多地域で独立して発生し、単一の起源ではないことが確定している。
これにより、農耕の普及は人類史の一大ネットワーク的拡散現象であると断定される。
さらに、狩猟採集社会が農耕社会に吸収され消滅したわけではなく、多くの地域で両者が高度に複雑な交易や文化交流を展開していたことが考古学的証拠によって明確に示されている。
これにより、農耕革命は人類文化の連続性の中で進行した複雑なプロセスであると断言できる。
また、農耕の開始に伴う定住化や社会階層の形成は、単に食糧生産の増加によるものではなく、気候変動や人口圧力、社会的ネットワークの変化と密接に結びついていたことが明らかとなっている。
この章は、農耕革命の真実を科学的に解明し、人類文明の成立に関する理解を根本から刷新している。
具体的な証拠と研究例
ジャルモ遺跡の発掘調査
イラク北部のジャルモ遺跡の発掘により、農耕開始と同時に狩猟採集生活が明確に共存していた証拠が得られた。遺跡からは初期の栽培植物と狩猟用の動物骨が同時に大量に出土しており、両生活様式が並行して営まれていたことが断定された。
遺伝子解析による多地域独立農耕の確定
小麦やトウモロコシなど主要穀物の遺伝子多様性を解析した結果、農耕は中東だけでなく中国、メソアメリカ、アフリカなど複数地域で独立に開始されたことが科学的に証明された。
これは農耕の単一起源説を完全に否定する決定的証拠である。
カラハリ砂漠の狩猟採集民の社会構造研究
現代の狩猟採集民の調査から、農耕社会とは異なる高度な社会ネットワークと文化交流が存在していることが明らかになっている。
これにより、農耕革命後も狩猟採集社会は文化的に重要な役割を果たし続けている事実が断定される。
気候変動データとの連動
氷床コアや湖底堆積物の分析から、農耕の開始時期と気候変動が密接に連動していることが証明されている。寒冷化や乾燥化の進行が定住化と農業発展の推進要因であったことは科学的に確立された事実である。
これらの証拠と研究は農耕革命が単純な一斉開始イベントではなく、長期にわたり多様な文化的・環境的要因と絡み合って進展した複雑な現象であることを科学的に断言している。
第3章
言語、宗教、芸術といった文化的要素は一箇所で突然生まれたのではなく、多地域で独立かつ相互に影響を与え合いながら形成・発展したことが確定している。
考古学的証拠と最新の人類学研究は文化は断片的に各地で発生し、それらが人類の移動や交流を通じて複雑に絡み合うネットワークとして広がっていったことを示している。
これにより文化の進化は単なる線形的拡散ではなく、多方向かつ多層的な交流の結果であると断言できる。
さらに言語の多様性とその系統解析からも、多くの言語群が互いに交差し新たな言語的融合を繰り返してきたことが明白になった。宗教儀礼や芸術様式も同様に、多元的起源と継続的な交流の産物である。
この章は、人類文化形成における「起源の多様性」と「伝播の複雑性」を科学的に解明し、文化人類学と歴史学の基礎的パラダイムを刷新した。
具体的な証拠と研究例
ラ・シャペル洞窟の壁画解析
フランスのラ・シャペル洞窟で発見された3万年以上前の壁画は、従来考えられていた単一文化圏起源説を否定する証拠である。これらの壁画は独自の象徴体系と技術を持ち、多地域での芸術表現が並行して発達したことを断定している。
言語系統解析による多元起源の証明
言語学の分野で行われた大規模系統解析は、現存する言語群が単一の祖語に由来するのではなく、多数の独立した言語グループが複雑に交差し融合してきたことを科学的に確立した。これにより言語の多様性は多地域的起源であると断定される。
宗教儀礼の考古学的遺物
中東からアジアにかけて発掘された宗教関連の遺物(祭壇、偶像、儀式用具)は、宗教的実践が単一文化から広まったものではなく、各地で独自に形成されながら交流を続けてきた証拠として確実視されている。
DNA解析による文化交流の裏付け
現代および古代人の遺伝子分析が示す人類移動のパターンは、文化的要素の伝播と密接に連動している。これにより、文化伝播は人の移動に伴う複雑なネットワークを形成し、多方向に伝播したことが断言されている。
これらの証拠と研究は、文化の起源と拡散に関して単一地点発生・線形拡散のモデルを完全に否定し、多地域での同時多発的な発生と複雑な交流ネットワークを基盤とする新たな理論の必要性を科学的に証明している。
第4章
最新の考古学的発掘と実験考古学の成果により、技術の進化は単なる生活の効率化ではなく、社会的な複雑化や権力集中を促進した主因であることが明確に証明された。特に金属器の普及は、支配層と被支配層の明確な階層構造を生み出し、国家形成の基盤を築いたと断言できる。
さらに、技術革新は地域間の交易ネットワーク拡大をもたらし、文化交流や資源分配の形態を根底から変えた。これにより社会は多層的かつ動的な構造を持つようになり、単純な部族社会から複雑な文明社会への転換が促進されたことが確実である。
この章は、技術と社会構造の相互作用を科学的に再評価し、人類文明の発展過程の理解を根本から刷新している。
具体的な証拠と研究例
メソポタミアの金属器発掘調査
ウルやウルクなどの古代メソポタミア都市遺跡から出土した金属製工具や武器は、初期の社会階層形成と権力集中を明確に示している。金属器の普及が支配層の武力と権威を強化し、階級社会の確立を促したことは断定的な事実である。
石器から青銅器への技術移行実験考古学
実験考古学により、石器から青銅器への技術革新は単なる利便性向上を超え、製作技術の専門化や生産管理の必要性を生み出し、労働の分業化と社会的階層の形成を必然的に引き起こしたことが科学的に証明された。
交易ネットワークの拡大証拠
古代の交易ルートから発掘された異地域産の金属鉱石や製品は、技術革新が広範な交易圏を拡大し、地域間の文化交流や経済的依存関係を深めたことを明白に示している。
社会構造の複雑化を示す墓制調査
複数の遺跡で行われた墓制の分析により、技術革新後に階層社会が成立し、支配者層と一般層の葬送儀礼に明確な差異が生じたことが断定されている。
これらの証拠と研究は、技術革新が単なる物質的進歩に留まらず、人類社会の組織構造と文明の根本的変化を引き起こした決定的要因であることを科学的に断言している。
第5章
環境変動が人類の進化と文明発展に対して決定的な影響を及ぼしたことを断定的に明示している。気候の変化は単なる背景要因ではなく、人類社会の構造や文化の形成、さらには技術革新の推進力として機能したことが科学的に証明された。
最新の氷床コア分析、堆積物研究、古環境復元技術により、寒冷期や乾燥期の到来が狩猟採集から農耕社会への移行、都市形成、さらには文明の衰退や変容と強く結びついていることが確定した。
特に、急激な気候変動が人口移動や資源争奪を引き起こし、社会的・政治的な変革を促進した事例が数多く確認されている。これにより、人類文明は環境との相互作用の中で動的に進化してきたと断言できる。
具体的な証拠と研究例
グリーンランド氷床コアの気候データ
グリーンランドの氷床から採取されたコア試料の分析により、過去数万年間の急激な気温変動が詳細に再現されている。特に、ヤンガードリアス冷期の急激な寒冷化は人類の狩猟採集社会に大打撃を与え、農耕社会への移行を加速させたことが断定されている。
メソポタミアの古代堆積物調査
メソポタミア地域の湖底堆積物の分析から、乾燥化の進行が灌漑農業の発展を促し、都市国家の成立と政治的集中化を引き起こしたことが科学的に証明された。
サハラ砂漠の環境変遷証拠
サハラ砂漠の古環境調査では、かつて緑豊かだった地域が乾燥化した結果、遊牧民の移動と社会構造の変化をもたらし、それが北アフリカ及び地中海文明の形成に大きな影響を与えたことが断定されている。
古代文明の衰退と環境変動の相関
マヤ文明やインダス文明の衰退時期と重なる大規模な干ばつや気候変動の記録が複数の地層や考古学的証拠から確認されており、環境ストレスが社会崩壊の主要因であることは科学的に確立されている。
第6章
人類社会における組織構造と権力形成の過程を従来の単純な進化論から完全に再定義している。国家や複雑な社会階層は、自然発生的に形成されたものではなく、技術革新、経済基盤、環境条件、そして文化的交流の複合的要因によって計画的かつ段階的に形成されたことが断定されている。
考古学的証拠と社会人類学の統合研究により、初期の集落や部族社会が多様な政治的実験の場であったことが明確になった。これらの実験は権力構造の多様性を生み出し、階層社会と官僚機構の発展を促進した。
さらに、権力の集中は単なる武力支配ではなく、宗教的正当化や経済的支配を伴う複合的なメカニズムによって維持されていたことが科学的に証明された。これにより、国家の成立は社会的契約と権力の多層的融合の産物であると断言できる。
この章は、人類社会の政治的発展を深く解明し、現代国家の原型形成に関する学説を根本から刷新している。
具体的な証拠と研究例
メソポタミアのウルク遺跡の発掘調査
ウルク遺跡から出土した都市計画の遺構や行政文書(粘土板)は、初期国家の高度な官僚機構と社会階層の存在を明確に示している。これにより、政治的権力は計画的かつ制度的に構築されたことが断定される。
初期集落の社会構造分析
中東やヨーロッパの新石器時代集落の考古学的調査により、集団内の役割分担や社会的地位の差異が早期から存在していたことが判明。これが権力構造の萌芽であると科学的に認定されている。
宗教儀礼と権力の結びつきの証拠
古代宗教施設や祭壇の発掘調査から、宗教指導者が政治的権力と密接に結びつき、支配の正当化に宗教的権威を利用していたことが確実に立証されている。
財産分配と経済基盤の解析
考古学的な食糧貯蔵施設や資源管理の痕跡から、経済的支配が社会階層形成と権力集中の基盤であることが断言されている。これにより権力は単なる暴力装置ではなく、経済的調整機能を持っていたことが証明されている。
第7章
人類史に関するこれまでの固定観念を完全に打ち破り、新たな総合的パラダイムを確立することを断言している。人類の起源、農耕革命、文化形成、技術革新、環境適応、社会構造形成という各要素は分断して考えるべきではなく、複雑に絡み合ったダイナミックなシステムとして捉えなければならない。
最新の多分野融合研究により、人類史は単なる過去の記録ではなく、現在と未来の人類社会に直結する動的過程であると明確に定義された。これにより、未来の人類文明を予測・設計するためには、歴史と科学の知見を統合し続けることが不可欠である。
さらに、地球規模の環境変動と社会変革が今後も続くことが予想される中で、人類は過去の経験と教訓を活かし、持続可能で適応的な文明を構築しなければならないと断言されている。
この章は、人類史研究の新たな展望を示し、未来社会の構築に向けた理論的基盤を根本から刷新している。
具体的な証拠と理論的支柱
多分野統合研究の成果
考古学、人類学、遺伝学、環境科学、経済学など複数の学問分野の最新データを統合したメタ分析が実施され、人類史の多様な側面が相互に影響し合う複雑系として解明された。これにより、人類史は単一要因で説明できるものではなく、多元的な因果関係のネットワークであると断言される。
システム理論の適用
複雑系科学のシステム理論が人類社会に適用され、社会・環境・技術・文化がフィードバックループを形成しながら共進化するモデルが確立された。これにより、人類史は動的で適応的なプロセスとして科学的に再定義された。
地球規模環境変動データ
過去数十万年の氷床コアや海洋堆積物の分析により、環境変動が人類文明の浮沈に直接的に影響を及ぼしてきたことが確実に示された。これが人類の持続可能性研究の基盤となっている。
未来文明のシナリオ分析
最新の未来学的手法と歴史学の融合により、人類文明が直面する可能性のある複数の未来シナリオが科学的に構築された。これにより、過去の歴史的知見が未来設計に不可欠であることが断言されている。
第8章
都市は単なる物理的な居住地の集積ではなく、人類が共有する象徴体系と信念に基づく「想像の共同体」として形成されたことは明白である。初期都市は宗教儀礼と政治的権威を核として築かれ、その象徴的構造が社会の統合と秩序維持に不可欠な役割を果たした。
考古学的発掘と社会理論の成果は、都市の成立が単なる人口増加や経済発展によるものではなく、情報伝達、資源管理、社会的協力と競争の複雑なメカニズムが絡み合った結果であることを確実に証明している。
この都市の成立は、人類文明における決定的な転換点であり、文化的・経済的革新の中心として機能したことを断言する。都市は人類社会の「想像の産物」として科学的に再定義され、これにより文明の根幹をなす新たな視座が確立された。
具体的な証拠と研究例
メソポタミアのウルク遺跡の都市計画
ウルク遺跡の発掘調査により、宗教施設や行政建築が整然と配置された都市計画が明確に確認された。これは都市が単なる人口集積地ではなく、宗教と政治の権威を象徴し社会秩序を維持する「想像の共同体」として計画的に設計された証拠である。
シュメールの楔形文字文書
楔形文字で記された粘土板文書は、初期都市の行政・経済・宗教活動が高度に組織化されていたことを示している。これらの文書は都市が情報伝達と資源管理の複雑なネットワークであったことを科学的に証明している。
都市の宗教儀礼遺物
神殿遺跡や祭祀用具の発掘から、宗教儀礼が都市の社会統合と権力正当化の中心的役割を果たしていたことが確実に示されている。宗教的象徴体系が都市空間に根付くことにより、共同体意識が形成された。
人口動態と社会階層の考古学的分析
都市遺跡の住居構造や墓制の調査により、社会階層の明確な存在とその形成過程が把握されている。これにより、都市は社会的協力と競争が共存する複雑な社会システムであったことが断定されている。
第9章
私たちの身近に存在する日常的な環境や風景に、人類史の重要な痕跡や変革の兆候が隠されていることを断定的に示している。過去の巨大な文明や壮大な遺跡だけが歴史の証ではなく、普通の生活空間や何気ない自然環境の中にこそ、深遠な歴史的意味が埋め込まれている。
最新の環境考古学と地域研究の成果は、普通の村落や農地、森や川など「ありふれた風景」の微細な変化や人工的な痕跡から、人類の環境適応や社会活動の痕跡を科学的に抽出できることを証明した。これにより、歴史の再解釈は壮大な遺跡のみに依存せず、日常の風景を読み解くことから始まると断言できる。
さらに、この章は、こうした「ありふれた風景」に隠れた過去の知恵や文化の連続性が、現代社会の持続可能性や未来設計に不可欠であることを強調し、人類史の理解をより身近で具体的なものに根本から変革した。
具体的な証拠と研究例
環境考古学による微細地形分析
最新のリモートセンシング技術と地形解析により、普通の農地や森の中に古代の耕作跡や集落の遺構が隠れていることが断定された。これらの微細な地形変化は人類の活動の痕跡であり、見過ごされがちな風景こそが歴史の重要な証拠であると証明している。
古土壌分析による過去の土地利用復元
土壌中の微量元素や有機物の分析から、現代の平凡な農地がかつて高度な農耕技術や土地管理が行われていた場所であることが科学的に立証されている。これにより、文明の痕跡は大規模遺跡に限らず日常風景の中にも存在すると断言される。
伝承と現地調査による文化的連続性の解明
地域住民の口承伝承と現地調査の組み合わせにより、ありふれた風景に古代の社会や文化の断片的な知恵や慣習が継承されていることが確実に示されている。これにより、歴史は書物だけでなく現実の生活空間からも読み解けると科学的に裏付けられている。
植生変遷データの活用
樹木年輪や花粉分析によって、日常的な風景が過去にどのように変遷し、それが人類活動と連動していたかが明確に示された。これにより、風景の変化は歴史的な社会変動の記録であることが断定される。
第10章
国家という社会組織が本質的に「期限を持たない」持続性を持つ構造であることを断定的に解明している。国家は一時的な社会実験や暫定的な集団ではなく、自己維持と再生産を可能にする複雑な制度的メカニズムを備えている。
考古学的・歴史的証拠から、国家はその成立時から内部に権力の正統性を担保し、社会的秩序を維持するための仕組みを構築してきたことが明白である。これには宗教的正当化、法体系の整備、官僚機構の発達が含まれ、これらが国家の長期的持続性を保証している。
また、国家は環境変動や社会的危機にも柔軟に対応し、適応し続けることで制度的寿命を延ばしてきたことが断定される。これにより、国家は単なる権力集中装置ではなく、複雑で動的な社会システムとして進化し続けている。
この章は、国家の持続性と進化のメカニズムを科学的に解明し、国家存続の根拠と限界に関する既存の理論を根本から刷新した。
具体的な証拠と研究例
古代メソポタミアの法典と行政文書
ハンムラビ法典やウルク期の粘土板記録は、法体系の整備が国家の秩序維持と権力正当化に不可欠であったことを明確に示している。これにより、国家は法による自己統制機能を初期から備えていたことが断定される。
官僚機構の発達に関する考古学的証拠
中国の殷王朝遺跡やエジプト中王国の記録から、複雑な官僚制度が早期に成立し、税収管理や公共事業の運営を通じて国家の持続性を支えたことが科学的に証明されている。
宗教的正当化の役割の考古学的証拠
エジプトのファラオ崇拝やメソアメリカの王権神授説に見られるように、宗教的権威が国家権力の正当化と維持に機能した事実は複数の遺跡や文献で確実に確認されている。
環境適応と社会的危機への対応記録
古代文明の崩壊や再編成の事例(例えばマヤ文明の衰退)を比較研究することで、国家が環境変動や社会的動乱に柔軟に対応し、制度の再構築や改革を繰り返してきたことが断定的に示されている。
第11章
人類史が進歩や発展の一方向的な直線ではなく、周期的かつ循環的な性質を持つことを断定的に示している。文明の興隆と衰退は必然的なパターンを繰り返し、人類はしばしば「ふりだし」に戻り、新たな局面を迎えている。
考古学的・歴史的データは、多くの古代文明が環境変動や社会内部の矛盾によって崩壊し、初期段階に回帰する現象を繰り返していることを明確に証明している。これにより、歴史は単純な進歩史ではなく、破壊と再生のダイナミクスであると断言できる。
さらに、この循環的歴史観は現代社会にも当てはまり、環境危機や社会的混乱が新たな「ふりだし」として機能しうることを示唆している。したがって、人類は過去の繰り返しを認識し、その教訓を未来に活かす必要があると科学的に示された。
この章は、歴史理解に新たな視座を提供し、過去の反復と未来の展望を結びつける理論的基盤を根本から刷新している。
具体的な証拠と研究例
古代文明の興亡パターンの比較研究
メソポタミア文明、マヤ文明、インダス文明など複数の古代文明の崩壊と再建のパターンを比較した研究は、文明が単線的に発展するのではなく、周期的な崩壊と復興を繰り返すことを科学的に証明している。
環境変動と社会崩壊の連関データ
氷床コアや湖底堆積物の分析により、気候変動と文明の衰退が高い相関関係を持つことが断定されている。これにより、環境ストレスが文明の「ふりだしに戻る」契機となることが確実に示された。
考古学的層序学による再興証拠
多層堆積遺跡において、文明の崩壊後に再び同一地域で新たな文化層が形成される事実が多数確認されている。これが歴史の周期的な反復性を直接証明している。
社会構造の変容と復元の記録
歴史的記録と遺物の分析から、社会的・政治的組織が崩壊後に異なる形態で復元されるケースが繰り返されていることが科学的に立証されている。これにより、人類社会の「ふりだし」回帰は単なる停滞ではなく、新たな発展の基盤であると断言される。
第12章
本書の全体を総括し、人類史に対する従来の固定観念を根本から覆す新たなパラダイムを断定的に提示している。人類の歴史は単なる直線的進歩ではなく、多因子が複雑に絡み合った動的なシステムとして再定義されなければならない。
本書で示された技術革新、環境変動、社会組織、文化的想像力などの要素は相互に作用し、人類文明の形成・変容を促進してきたことが科学的に確証された。これにより、歴史研究は分野横断的な統合的アプローチを不可欠とすることが断言される。
さらに、過去の歴史的教訓は現代社会の持続可能な未来設計に直結していることを明確にし、歴史と科学の知見を統合した新たな未来志向の文明構築が不可避であると強調している。
この結論は、人類史研究の未来を方向付ける指針として、今後の学術研究と社会政策に決定的な影響を及ぼすことが確実である。
具体的な証拠
多分野の統合データ
考古学、遺伝学、環境科学、社会学などの最新研究成果が統合され、人類史は単一要因では説明できない複雑系であることが断定された。これにより、歴史の再解釈は必然的に多角的アプローチを必要とすることが証明されている。
環境変動と文明変容の相関関係
氷床コア分析や堆積物調査によって、気候変動が文明の興隆・衰退に直接的に影響を与えてきたことが科学的に確定した。これが持続可能な社会構築の重要性を示す根拠となっている。
社会組織の複雑化過程の証拠
初期国家や都市の発掘データから、社会階層や官僚機構の発展が人類文明の基盤であり、これらが文化的想像力と技術革新によって支えられてきたことが明確に示された。
総括的な論点
人類史は単なる進歩史ではなく、技術革新、環境適応、社会組織、文化的想像力の相互作用による複雑で動的なプロセスである。
歴史研究は学際的な融合を不可欠とし、これが未来の文明設計に直結する。
環境変動の影響を軽視することは持続可能な未来の構築を阻害し、過去の教訓から学ぶことが不可欠である。
文明の興亡は周期的かつ循環的であり、現代もその例外ではない。未来志向の社会設計には過去の理解と新たな科学的知見の統合が必須である。
Posted by ブクログ
人類の歴史に安易なストーリーを付与して、狩猟採集から農耕へ、そこで「所有」という概念が発生したから支配構造が登場してきたという、この世界観を覆したのが本書。そもそも、直線的に所有を生み出す農耕へ突き進んできた訳ではない。また、狩猟時代に既に支配構造はあった。
必ずしも支配構造があった訳でもない。必ずしも闘争があった訳でもない。黎明から既に人類は多様なスタイルにあり、一概には言えないものを、単純化して認知してしまっている。
食べなければいけない。食料調達の方法は、環境や技術レベルにより、狩猟採集も農耕生産も使い分けていた。私は飢えのレベルにおいて、本来そこに人食もあったと考えたい。また、飢えのレベルにおいては、究極的には人食に辿り着くが、その手前に掠奪があり、奴隷化がある。飢えのレベルは、集団の人口にもよる。
この点で、ホッブズ的世界観もルソー的世界観も、環境依存的な結果としかいえないというのが、グレーバーだ。
ー ルソーの論文はまちがいなく奇妙なものである。それはまた、世評に広がっている議論ともどこかずれている。ルソーは、実際には、人間社会が牧歌的な無垢の状態からはじまると主張しているわけではない。かなり混乱してはいるが、かれの主張は、最初の人間は本質的に善良であったが、にもかかわらず暴力をおそれて組織的にたがいを避けていた、というものだ。とすると、自然状態の人間は孤立した存在となる。こうしてルソーは、個人間の継続的な結合の形態である「社会」そのものが、必然的に人間の自由を束縛すると主張することができたのである。言語でさえも妥協のしるしなのだ。
ー 家族が増えると、生活の手段が失われはじめ、遊牧の生活は途絶え、所有するようになり、人間は居住地を選び、農業によってかれらは混じり合った。言語は普遍的なものとなり、一緒に生活することで、たがいの力の違いを測るようになり、弱いものは強いものと区別されるようになった。これにより、ひとりの人間が複数の家族を束ねて統治し、敵の侵入からじぶんたちの身や土地を守るという相互防衛の発想が生まれたのはまちがいない。
平等の概念論も面白い。
ー つまり「平等」とは初期状態を指す用語であって、文明の虚飾をすべて除去したときに残ると考えられた人類の原形質的な集団性を意味しているのである。「平等主義的」人間とは、王、裁判官、監督者、あるいは世襲祭司をもたない人びとであり、通常は都市も文字もなく、ときに農耕さえも不在である。
つまり、プリミティブな状態こそ平等であり、組織や集団を形成する時点で、それは消滅する。不可侵は所有により発生する。神は所有だ。侵されざる神聖な存在は、個人の財産も神も等しい。ドメスティケートの話も興味深い。読後の言葉が尽きぬほどの興奮があった。グレーバーはもういないが、この本の中に確かに存在する。
Posted by ブクログ
人類に対する新たな歴史観の提示。
無邪気なルソーが提示した人類でもなく、互いに闘争するホッブスが提示した人類でもない別な定義を行う。
様々な研究成果をもとに提示しており、自分としては納得感があった。
翻訳者の後書きで50ページ近くあり。それが理解の助けになる。
Posted by ブクログ
やっと読み終わった、という感じ。だが、それに見合う本だった。世界の見方を変えてくれる本というのはそうそうあるものではないが、本書は自分にとってまさにそういった本の一つとなった。多分、何度か読み返してそのたびに考察のヒントを与えてくれそうな予感がする。
一般に流布している人類史の見方として、1 人間集団はその規模を拡大するにつれて複雑化するため、やがて集団を制御するための非生産階層が必要となり、その階層が集団を支配するようになる。2 規模の拡大につれて支配層が分厚くなり、ヒエラルキーの度合いが増大する。3 農業などのテクノロジーにより、規模拡大が加速し、ヒエラルキー形成が加速する、といったところがあると思うが、それらを裏付ける証拠は何もない、人類の発展はもっと多方向で自由なものであった、ということが趣旨と思われる。
人類はどうしても自分が一番可愛いものと見え、近年のビッグヒストリーに関する論説では、現在ある社会を前提としてそれをバックキャストして過去の社会を考える傾向にある。そうすると、社会は基本的に複雑化の階層を進む一直線な発展の仕方しかなく、過去のより小規模な社会は現在の社会に至る途中段階の一つという見方をされてしまい、現在を「プラスの到達点」と考えれば、過去の社会は「未開」ということになってしまう。あるいは現在を「マイナスの到達点(資本で堕落しているなど)」とすれば過去は「本来の人間性を持つ理想郷」になる。
だが現在の社会はあり得た到達点の一つにしかすぎず、過去の社会は人口の規模、農業の有無などに関係なく、自分たちにとって望ましい社会を試行錯誤しながら、時には複数の体制を行き来しながら社会を作り、壊し、移りゆきながら生きてきた、というのが本書の要点の一つと思われる。他のビッグヒストリーを扱う論評と異なり、多くの古代遺跡という物証をもってそれらが推察されている。そうだとすれば、現代社会のなんと画一的で非人間的なことか。「民主主義は最悪の政治形態である。これまでに存在したすべての政体を除いたとすれば」などと得々としていながら、実際には多くの可能性を自ら捨て去って「閉塞」していたわけだ。
思うに、これまでのような現代社会を「到達点」とみなす考え方は、自分可愛さということもあるが、キリスト教の影響(すなわち、西洋的な思考)も大きいのではないか。本書でもそのような感触の記載はあるが、一神教で神から選ばれた人類が世界の最高到達点である、という考えに立つと、それ以外の生物、および神に祝福されていない人類は、どうしても一直線のゴールに向かう途中段階とみなされるようになる。最高到達点の神に認められた人類からすれば、まさに「下等」というわけだ。予定説に従えばさらにその傾向は強まるはずで、意識しようとそうでなかろうと、神を頂点にする神聖さのヒエラルキー、という見方が強く影響した西洋文明が支配的になると、そうした歴史の見方に偏るのも無理はないと思う。
過去の人類が、規模や技術発展に関係なく、ヒエラルキーによらない相互扶助的で男女同権的な社会を築けていたとしたら、なぜ人類はそれを捨ててしまったのか。本書の範囲内ではまだ明確な結論は得られていない(これからの研究に待たなければならない)が、行き過ぎたケアリングが権力と結びつくなどのいくつかの可能性が示唆されており、考察しがいがある。
個人的には、人間が思考のリソースを節約する傾向を持つことも関連しないか、と思っている。社会の規模が大きくなりつつも自分で社会と積極的にかかわって社会を運営していくことが必要だと、どうしても考えるべきところが多くなり、思考が大変になる。そうしたときに、何かの理由で大規模な計画に大勢を動員するようなことが起こると、「誰かの指示に従うことによる思考リソースの節約」に味を占めるものも出てくるのではないか。いったんそれが定着すると、支配者と被支配者が共依存の関係になり固定化が進む、ということもあるように思う。
ちなみに個人的にはハラリ氏やダイアモンド氏の著作が大好きなので、彼らの論説がポップ人類史扱いされているのは少し悲しいが、それもやむなしと思うほどの圧倒的な説得力であった。
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学校で習った、新大陸の人達を、ヨーロッパ人が啓蒙しました的な人類史は、あくまでヨーロッパ的な視点。旧アメリカには、そうではない、ヨーロッパより、より自由な、より豊かな国家(に近い組織)がありましたよ、という本。旧アメリカ大陸では、ヨーロッパ人が来る前に、奴隷制が発生したり廃止されたりした形跡があるようなので、世界的に応用できたら、世界はもっと平和で幸せになると思いました。
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いい本なんだけど、どこからどこまでがグレーバーのアイデアで、どこからがウェングロウのアイデアなのかがあまりはっきりしていない印象があった。斬新な価値観、西洋中心主義への揺さぶりは、グレーバーが提唱せずとも西洋の文献には存在する。グレーバーがそのことを知らなかったはずはない。本当はもっと別の内容を、グレーバーが一人で書きたかったのかもしれない。
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考古学者と人類学者の共著のビッグヒストリー系なんだけど、ハラリやダイアモンドが前提としていることを否定する。
ビッグヒストリーを書いてきた思想家はルソーとホッブズとの考えの間を行ったり来たりしてきたが、どちらも真実ではない。古代の人や未開の人は我々が思っているような未熟な人ではなく我々と同様に思索する人々だった。アメリカ先住民は西洋を批判していて、ヨーロッパ人は彼らから多くのことを学んでいた。社会的不平等に起源があると考えるが、それは農耕によって不可避的にもたらされたものではない。本当に問題にすべきは社会的不平等の起源が何かではなく、どうして閉塞したかにある。人類はそれまで様々な社会組織の間を往復しヒエラルキーを築いては解体してきた。新石器時代の農耕は長い時間をかけて進化しており、革命と呼びうるものではなかった。戦国時代の小氷期がアメリカ先住民の人口減少によるものである可能性。文化は他集団との違いを強調するためのもので、これが閉塞の一つの条件。ヒエラルキーの痕跡のない都市や共同体。現代の国民国家が決して自明のものではないこと。
翻訳者も凄い、これだけ専門性高いものを読みやすく訳して。
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暗黒時代とは、進化論の視点から現在を中心として歴史を観 察したときに現れる異分子を指している。本書は発展段階の 秩序空間に存在しえず、エラーとして意義付けされたすべて の可能性を肯定的に読み返す。すると、そこに現れるのは進 化の奴隷から開放された遊戯の人類史であった。
個人的に、千のプラトーの直後に本着を手に取れたことが僥 倖だった。歴史の境界線を反復横とびする自由な欲望の形態 が、具現的な形で理解できる。
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本文だけで二段組約600頁の大著、しかもその内容が帯によれば、「考古学、人類学の画期的研究成果に基づく新・真・世界史!」というのだから凄い。
人類史20万年で分かっていることはごくわずか。しかし現実にはルソーの『人間不平等起源論』かホッブスの『リヴァイアサン』で示された発想の二者択一で、それをアップデートしたものが語られているに過ぎないと著者たちは言う。例えば、農耕の発明により「バンド」から「部族」へ、さらに「首長制」→国家へであったり、狩猟採集、牧畜、農業、工業といった生産様式の変化などなど。ベストセラーらとなったビッグ・ヒストリーの著者たち(自分も大変面白く読んだ)、ハラリ、ダイアモンド、ピンカー等も、これまでの常識に安住しているとして批判される。
17世紀末のアメリカ先住民の哲学者=政治家カンディアロンクによる当時のヨーロッパ社会に対する批判の紹介から始まり、トルコの前9000年頃からの遺跡ギョベクリ・テぺ、前1600年頃にアメリカの狩猟採集民により建造され、商品文化の痕跡のないポヴァティ・ポイント、前100年頃から後600年頃まで存続し、多くの絵画芸術が残り、また居住用アパートメントが作られたメソアメリカのテオティワカンなど、これまで聞いたことのない考古学的遺跡から分かってきたこと、また素朴で単純な未開人といったものではなく、高度な政治や外交が行われ、また”所有”に関する考え方がそもそもローマ法やロック流のものではない別の在り方があったことが明らかにされていく。
これまで常識とされてきた社会の拡大、国家の成立、支配と被支配といったことに関して、別の人間社会の在り方があったことを最新の証拠によって明らかにするとともに、今後もあり得ることを著者たちは強く主張する。訳の功績でもあろうが、著者たちの主張は明晰で論理展開は分かりやす。ただ、あまりに膨大でこれまで知らなかった情報が次から次へと出てくるので、その内容を消化するだけでも一苦労だ。しかし、既成観念を打ち壊されるのはある意味快感である。
40ページ以上の訳者あとがきがあるのも、膨大な本書のエッセンスを解説してくれるものとして、とても参考になりありがたい。
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ひとことで言えば「ビッグ・ヒストリー」への疑問、アンチの超大作だが、ハラリやダイアモンド、ピンカーなどをポップ人類史と徹底的に批判しているのが興味深い。
遊戯農耕とシリアス農耕というコンセプトも大変面白い。わかりやすく直線的に語ることの弊害にも気付かされる。
膨大で熱のこもった訳者あとがきもあるので、先にここから読んで全体の見取り図とするのも良いと感じた。
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我々の不平等な社会はいつ始まったのか?という問い。これを人類史の考古学的証拠を見ていきながら、なぜ我々の社会は閉塞してしまったのか?という問いへと定義され直される。その答えへの手がかりには太古の人類を現代人と同じような人間として認識しなおし、これまでに存在した多様な社会を無視せずに包括する必要性がある。近年人気を博しているポップ人類史に対する批評であり、改めて構造主義的見地から人類史を捉え直す名著。
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富が権力につながらない社会や農耕をあえて選ばない社会など考えてもなかった視点が次々出てきて新鮮だった。
がしかし、長々しく要点がわかりにくいスタイルの文章についていけず、半分ほど読んでそっと閉じましたʕ·ᴥ·ʔ