進化生物学者により生物の性質について書かれた本。人類を含め、生物の性質は「増える」ことであり、そのメカニズムについて説明している。その観点から生物は、「多産多死」か「少産少死」に分かれ、人類は後者に属する。少産少死の生物は進化を続け、より死なないようになっているが、それが現代では本来の目的である「増
...続きを読むえる」ことからかけ離れ、「悩み」などの弊害をもたらしていると言う。今までに聞いたことがあることが多かったが、わかりやすく体系的に纏められているので、明確に再認識できた。面白い。
「脳で幸せを感じるしくみは、幸福感をつかさどるニューロンに信号が伝わるからですが、ニューロンというものはあまり頻繁に信号が送られると、どんどん鈍感になる性質があります。そのため最初は幸せであってもすぐに慣れてしまって、同じくらいの幸せを感じるには次はもっと強い刺激が必要になっていきます」p15
「間違いないのは、私たちの祖先となる生物のすべてが子を残そうとしてそれに成功したことです。もしどこかで失敗していたら、私も皆さんも存在していなかったでしょう」p17
「生物は、増えられる環境があると後先かまわず限界まで増えてしまう性質を持っている」p22
「生命誕生前の原始地球において、何の命令も持たず、増えて遺伝する能力だけを持った物質が出現したと考えられています。ひとたびそのような物質が出現しただけで、様々な能力を生み出し、私たちが現在目にする生物へと進化したと想像されています」p35
「「増える」という現象には、時間が経つにつれてどんどん増える能力が向上していくという特徴があります。たまたま少し増えやすいものが現れると、それは元のものよりもたくさんの子孫を残すからです。こうして増えやすさに貢献する能力がどんどん進化していくことになります」p41
「(増え方の戦略2つ)「多産多死の戦略(とにかく速く増える)」「少産少死の戦略(ゆっくり増える代わりに、できるだけ死なないようにする)」」p45
「私たちは増えるものの末裔です。私たちに受け継がれている性質は、身体的な特徴も精神的な特徴も、増えることに貢献しているか、少なくとも増えることに害のない特徴に限られます」p65
「個体の生き残りやすさと生殖細胞の増えやすさとのズレが大きくなっている)原因は多細胞個体とは生殖細胞の乗り物であったにもかかわらず、多細胞個体のほうを大事に思ってしまったという誤解にあります。これが人間の未来に大きな影響を与えるような気がしています」p78
「付き合いの長さが安定な協力関係を生み出すひとつの要因になっていることが分かっています」p86
「私たちは協力しないと、今の人口も快適な生活も維持することはできません。協力することが増えることに貢献すればするほど、協力を善いものとみなし、他人にもそれを強いる性質が子孫の中で強化されていきます。そして私たちはますます協力するような性質と倫理観を持つようになってしまっています。人間が協力関係を増やすことによって大成功したことが、現代人の抱える他者との関わりの悩みを生み出しています」p93
「私たち人類が今のように農耕を行い定住し始めたのは1万年ほど前だと言われています。それまでの100万年ほどは、少人数のグループで移動しながら狩りや採集で食べ物を集める狩猟採集生活を送っていたと考えられています。1万年という時間は、長いようですが生物の体のつくりを変えるには短すぎます。したがって、私たちの身体や脳は未だ約100万年続いた狩猟採集社会に適応していると言われています」p96
「(食肉)どこか人目につかない場所で生身の動物から肉を切り離す作業が行われています。マグロの解体ショーはよく見世物になっていますが、あれは魚だからまだ許されているように思います。ウシやブタの解体を見たい人はあまりいないでしょう。私たちは、哺乳類を殺すこと、さらには解体することに少なからぬ抵抗感を持っていることを示しています(少産少死の戦略では、命を大切にするから)」p102
「(栄養を得ることは生存を決める要因ではなくなっている)2019年のデータでは、世界中で生産されている食料を世界の人口で割ると、平均して一人あたり毎日約2900kcalの食料に相当しています。成人男性でも一日に必要なカロリーが約2600kcalですから、この値は世界中のすべての人間に必要な食料は生産できており、適切に配分さえできれば飢えて死ぬことはないことを示しています」p105
「人間にとっても、生き残って子孫を残すことは最重要事項です」p118
「性差の解消は、社会性を発展させた生物にとっておそらく必然かと思います」p142
「結局のところ、生物は末永く幸せになるようにはできていません。これは増えるものとしての当然の性質です。そして「幸せになりたい」という欲求も「死にたくない」「仲間外れにされたくない」といった欲求と同じで先祖から与えられた刷り込みです。その程度のものとして、ほどほどに追及するくらいがちょうどいいのかもしれません」p155
「(みんな宇宙で極めて珍しい存在)「(動物学者リチャード・ドーキンス)我々がこうして存在しているのは、驚くほど幸運であり、特権でもあるので、決してこの特権をムダにしてはならないのです」」p160