私の仕事
国連難民高等弁務官の10年と平和の構築
著:緒方 貞子
朝日文庫 お 79-1
どろどろとした混迷の現場に踏み込む緒方の姿に感銘を受けました
難民援助の現場から復興支援の現場へ一直線に進むことになった緒方の歩みを示したもの
国家が権力によって、領土を完全に保全し、国民の生命の安全を完全に保護できる時代は終わったということである
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、1950年に東西対立の悪化する国際情勢のなかで、共産圏から逃げてくるヨーロッパの難民を保護支援するという目的で開設された組織である
緒方が任期中に難民縁者の従来の枠を超えなくてはならないと決断した時は、大きく...続きを読む 3つ
①1992年クルド難民救済における、イラクへの人道的介入
②1992年サラエボで軍との協力による物資空輸を開始したこと
~停戦合意のない戦闘状態のなかで人道援助をおこなったこと
③1994年ルワンダ難民のなかに、集団虐殺に関与した武装兵士や軍人、民兵が紛れ込み、彼らと難民をどのように区別するかという問題が生じた時
緒方の判断 現場に応じて、一番役に立つ方法は何かを問うということ
役に立つとは、最後の点にて、人の使命を助けるということである
つまり、生きていてさえすれば、彼らには、次のチャンスが与えられるということである
貧困そのものが問題ではなく、ひとつの国内でつねにある特定の社会層が貧困であることが紛争の火種になる
ということである、こういう火種は兵器で解決することはできない
また、UNHCRが難民問題を解決することはできない
それは政治の領域であった、UNHCRは難民を援助すること
難民問題を解決するためには、紛争当時国の政治的な問題解決をまたなければならないのである
気になったのは、以下です
■ジュネーブ忙中日記
・BASICなところで、語学の達人
・とにかく多忙、移動、移動、そして、多くの人との会合、どうやってアポをとっているのか、そして
会議の準備や、結果などはどうしているのかとの疑問
・要人の打ち合わせが、次々にはいってくる ⇒プロトコールを含めて、それをこなしていることは、
事務の達人というよりも、その時々に要人と適切な会話ができること自体すごい
・UNHCRのトップとしての組織のリーダシップ
・それってどこなの、見慣れない地名のオンパレード、国と国との関係性、国際政治の常識が
しょせん、できる範囲で、無理をせず、やれるだけやるとの結論 ⇒ 無理をたくさんしているように見える
■国連難民高等弁務官の十年
・クルド問題 トルコの受け入れについては、もともと、国内問題として、トルコはクルド問題を抱えていた
・民族主義の高揚による国家の崩壊は、新たな難民問題の発生をもたらすものとして多くの危険をはらんでいる
・自国内にある難民に対し、国際社会が保護・救済を与えることは理論的にも、現実的にも、極めてむずかしい
それは国家主権の壁に直面するからである
・人道的介入権:国際社会は国内で難民化した人々に対し、国家主権の壁を越えて人道援助を強要する権利を有する、という主張である
・ユーゴの解体過程は、激しい戦闘と、民族浄化として知られる民族的相克のため、国連やECによる停戦・和平調停は容易に成果を上げることができなかった
・UNHCRは難民の命を救い、彼らの苦しみを和らげることに多少役立つことはできる。だが、紛争を解決することはできない
■難民援助の仕事を語る
・難民を規定しているのは、
①難民の地位に関する条約
②国連難民高等弁務官事務所規定
③アフリカ統一機構のアフリカ統一機構難民条約
・難民問題を体系的に理解するというのは、答えをもっていることではなく、何が問題なのかを質問できるということではないでしょうか
研究者の仕事は常に問題を提起し、その答えを見つけて行こうとすることだからです
・人道援助というのは、紛争あるいは戦争の中で、犠牲者である人々に対して保護と救済を与えるということだと思います
・私どもが苦労するのは、今の戦争の多くが国内で起こる紛争だということです
内紛の場合はとくに、和平が成立しても、条約で決められた条件をすんなりと実施できない場合があります
■外交演説・講演
・日本政府主導の「人間の安全保障委員会」
①委員会は、人々の安全保障に焦点をあてます。すなわち、人々が中心なのです
②人間の安全保障の脅威に対して、保護、能力開発の2つから取り組みます
国家建設のために、能力育成が最優先させられなければならないのです
■世界へ出ていく若者たちへ
・人間は仕事を通じて成長していかなければなりません
その鍵となるのは好奇心です
常に問題を求め、積極的に疑問を出していく心と頭が必要なのです
・私が心がけているのは、現場事務所の裁量をふやすことです
任せられる裁量の大きさが仕事への動機づけとなるからです
・コンセンサスというのは、自然に形成されるものではなく、強力なリーダシップが引っ張って初めて、形になるものです
・私は高等弁務官に就任するにあたって、日本には、人道大国になってもらいたい、という期待を表明しました
いま、キーワードは、ソリダリティ(連帯)だと思っています
遠い国の人々に対して、連帯感が持てるかどうかが鍵です
(結論)
若い世代に申し上げたいことは、国際社会で言葉はとても大切だということです
しっかりした言語能力がなければ、実のある活動はできません
自分の意思を伝えたり、用を足す手段としてだけに考えず、相手の文化を学ぶ材料だととらえるべきです
言語とは文化であることを自覚して学び、使うことが必要です
言語を通じて開ける新しい世界、ひとつの文化、別の価値体系との遭遇が、遠い国の人々に対して連帯感を持つことにつながります
目次
難民救済と人間の安全保障―はじめに
1 ジュネーブ忙中日記
2 国連難民高等弁務官の十年
3 難民援助の仕事を語る
4 外交演説・講演―平和の構築へ
5 世界へ出ていく若者たちへ
初出一覧
解説 石合 力
ISBN:9784022619013
出版社:朝日新聞出版
判型:文庫
ページ数:400ページ
定価:860円(本体)
2017年05月30日第1刷発行
2019年11月30日第2刷発行