【感想・ネタバレ】私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築のレビュー

あらすじ

63歳で女性初・日本人初の国連難民高等弁務官となり、冷戦後の10年間、世界の難民支援を指揮した緒方貞子氏。当時の貴重な日記を中心に、エッセイ、インタビューなどをまとめたもの。難局に直面したとき、彼女はどう判断し、どう対応したのか。

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Posted by ブクログ

私の仕事
国連難民高等弁務官の10年と平和の構築
著:緒方 貞子
朝日文庫 お 79-1

どろどろとした混迷の現場に踏み込む緒方の姿に感銘を受けました

難民援助の現場から復興支援の現場へ一直線に進むことになった緒方の歩みを示したもの

国家が権力によって、領土を完全に保全し、国民の生命の安全を完全に保護できる時代は終わったということである

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、1950年に東西対立の悪化する国際情勢のなかで、共産圏から逃げてくるヨーロッパの難民を保護支援するという目的で開設された組織である

緒方が任期中に難民縁者の従来の枠を超えなくてはならないと決断した時は、大きく3つ
 ①1992年クルド難民救済における、イラクへの人道的介入
 ②1992年サラエボで軍との協力による物資空輸を開始したこと
   ~停戦合意のない戦闘状態のなかで人道援助をおこなったこと
 ③1994年ルワンダ難民のなかに、集団虐殺に関与した武装兵士や軍人、民兵が紛れ込み、彼らと難民をどのように区別するかという問題が生じた時

緒方の判断 現場に応じて、一番役に立つ方法は何かを問うということ
 役に立つとは、最後の点にて、人の使命を助けるということである
 つまり、生きていてさえすれば、彼らには、次のチャンスが与えられるということである

貧困そのものが問題ではなく、ひとつの国内でつねにある特定の社会層が貧困であることが紛争の火種になる
ということである、こういう火種は兵器で解決することはできない

また、UNHCRが難民問題を解決することはできない
それは政治の領域であった、UNHCRは難民を援助すること
難民問題を解決するためには、紛争当時国の政治的な問題解決をまたなければならないのである

気になったのは、以下です

■ジュネーブ忙中日記

・BASICなところで、語学の達人
・とにかく多忙、移動、移動、そして、多くの人との会合、どうやってアポをとっているのか、そして
 会議の準備や、結果などはどうしているのかとの疑問
・要人の打ち合わせが、次々にはいってくる ⇒プロトコールを含めて、それをこなしていることは、
 事務の達人というよりも、その時々に要人と適切な会話ができること自体すごい
・UNHCRのトップとしての組織のリーダシップ
・それってどこなの、見慣れない地名のオンパレード、国と国との関係性、国際政治の常識が

しょせん、できる範囲で、無理をせず、やれるだけやるとの結論 ⇒ 無理をたくさんしているように見える

■国連難民高等弁務官の十年

・クルド問題 トルコの受け入れについては、もともと、国内問題として、トルコはクルド問題を抱えていた
・民族主義の高揚による国家の崩壊は、新たな難民問題の発生をもたらすものとして多くの危険をはらんでいる
・自国内にある難民に対し、国際社会が保護・救済を与えることは理論的にも、現実的にも、極めてむずかしい
 それは国家主権の壁に直面するからである
・人道的介入権:国際社会は国内で難民化した人々に対し、国家主権の壁を越えて人道援助を強要する権利を有する、という主張である
・ユーゴの解体過程は、激しい戦闘と、民族浄化として知られる民族的相克のため、国連やECによる停戦・和平調停は容易に成果を上げることができなかった
・UNHCRは難民の命を救い、彼らの苦しみを和らげることに多少役立つことはできる。だが、紛争を解決することはできない

■難民援助の仕事を語る

・難民を規定しているのは、
 ①難民の地位に関する条約
 ②国連難民高等弁務官事務所規定
 ③アフリカ統一機構のアフリカ統一機構難民条約

・難民問題を体系的に理解するというのは、答えをもっていることではなく、何が問題なのかを質問できるということではないでしょうか
 研究者の仕事は常に問題を提起し、その答えを見つけて行こうとすることだからです
・人道援助というのは、紛争あるいは戦争の中で、犠牲者である人々に対して保護と救済を与えるということだと思います
・私どもが苦労するのは、今の戦争の多くが国内で起こる紛争だということです
 内紛の場合はとくに、和平が成立しても、条約で決められた条件をすんなりと実施できない場合があります

■外交演説・講演

・日本政府主導の「人間の安全保障委員会」
 ①委員会は、人々の安全保障に焦点をあてます。すなわち、人々が中心なのです
 ②人間の安全保障の脅威に対して、保護、能力開発の2つから取り組みます
 国家建設のために、能力育成が最優先させられなければならないのです

■世界へ出ていく若者たちへ

・人間は仕事を通じて成長していかなければなりません
 その鍵となるのは好奇心です
 常に問題を求め、積極的に疑問を出していく心と頭が必要なのです
・私が心がけているのは、現場事務所の裁量をふやすことです
 任せられる裁量の大きさが仕事への動機づけとなるからです
・コンセンサスというのは、自然に形成されるものではなく、強力なリーダシップが引っ張って初めて、形になるものです

・私は高等弁務官に就任するにあたって、日本には、人道大国になってもらいたい、という期待を表明しました
 いま、キーワードは、ソリダリティ(連帯)だと思っています
 遠い国の人々に対して、連帯感が持てるかどうかが鍵です

(結論)
若い世代に申し上げたいことは、国際社会で言葉はとても大切だということです
しっかりした言語能力がなければ、実のある活動はできません
自分の意思を伝えたり、用を足す手段としてだけに考えず、相手の文化を学ぶ材料だととらえるべきです
言語とは文化であることを自覚して学び、使うことが必要です
言語を通じて開ける新しい世界、ひとつの文化、別の価値体系との遭遇が、遠い国の人々に対して連帯感を持つことにつながります

目次
難民救済と人間の安全保障―はじめに
1 ジュネーブ忙中日記
2 国連難民高等弁務官の十年
3 難民援助の仕事を語る
4 外交演説・講演―平和の構築へ
5 世界へ出ていく若者たちへ
初出一覧
解説 石合 力

ISBN:9784022619013
出版社:朝日新聞出版
判型:文庫
ページ数:400ページ
定価:860円(本体)
2017年05月30日第1刷発行
2019年11月30日第2刷発行

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2024年06月01日

Posted by ブクログ

信念に生きた強い人。このような人に国を率いて欲しいと思う反面、自分も決断の場面で少しでも緒方さんのように振る舞えるようになりたい。講演などで直接話を聞いてみたかった。
以下、覚えておきたいフレーズの備忘録。

「ものを決める時は迷う。しかし、悩み続けるハムレットではだめで、決断する時は一瞬の度胸だ。

「体系的に理解するというのは、答えを持っているということではなく、何が問題なのか質問ができる、ということではないでしょうか。」

「言葉や約束だけではなく、行動こそがアフガニスタンの運命を決定するのです。」

「人間は仕事を通して成長していかなければなりません。その鍵となるのは好奇心です。常に問題を求め、積極的に疑問を出していく心と頭が必要なのです。」

「日本人は答えはきっちりと出すが、問題を出してこないという欠点があるように思われます。」

「私は、国の内外を問わず、自分で歩いてみることを、若い世代にすすめます。」

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2022年01月27日

Posted by ブクログ

緒方貞子さん活躍の様子、1990-2000頃までの世界情勢、考え方、その背景(解説)を、外交官のような方々だけでなく私のような一般人にも読み取れる貴重な書。若い人へ向けた成長を期待する文章もあり、そこでは日本の在り方にも言及している。いまの時代にも影響を及ぼすNY世界貿易センターでのテロ、世界の難民、その流入などに関心ある人にも有益。アフガニスタンで活躍された中村哲医師の話は出て来ないが、同時期の動きがわかる。

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2021年01月24日

Posted by ブクログ

あまり詳しくはしりませんでしたが、何となく尊敬する
世界で活躍している日本人として、緒方貞子氏の
イメージを持っていました。
いろいろな活躍や、アグレッシブな考えにふれて
感銘を受けましたが、一番のところは今の私と同じ、
ちょっと上の年齢で、国連難民高等弁務官に就任
(引き受けれられて)して、それからの
非常にアグレッシブな行動に脅威を覚えました。
自分もこのままでは、まだまだこれから。と思える内容でした。

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2020年06月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

思考も行動も、実践的な方だということをあらためて知る。
冷戦後の世界、自分がまだ世界について知らないとき、このような激動の国際社会で日々奮闘していた一人の日本人の女性がいたことを、これからも忘れずに生きたいと思った。

一人の人間にとってはあまりにも大きすぎる困難に直面したような場面で、彼女が下してきた決断と背負ってきた責任の偉大さに改めて圧倒されると同時に、明確な基本原則というぶれない軸があって、それらの選択や行動が積み重ねられてきていることを学んだ。

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2020年01月02日

Posted by ブクログ

20年前の世界線の本。世界の難民問題について概要を知ることができた。緒方さんの忙中日記のパートはかなり具体的な内容で、あまり業界知識の乏しい私にはイメージがわかなかったので飛ばし読みしました。時系列が行ったり来たりする構成なので、例えば特定地域の難民問題を集中的に学習したい場合は、自分で個別に調べたほうが良い気がします。1990年代の難民問題のポイントや課題認識を学ぶことはできました。この本を読んだ後に動画で個別の地域の歴史などを見るとよく理解できました。

この本は、難民問題の教科書ではなく、あくまでも緒方さんの回顧録的な位置付けの本なので、一職業人としての視座や流儀に触れることができたし、若者たちに向けたメッセージのパートについては、引き締まる思いがしました。(30代だけど)

国際関係の博士号と政治学の博士号を取っているらしく、やはりこの業界で働く人はみな大学院でしっかり勉強をしてきた人であって、学部卒で体たらくをしていた自分はこの世界で働いてはいけないと思いました。また、大学受験の時、国際関係学部に憧れていた自分を思い出させてくれました。

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2025年11月20日

Posted by ブクログ

私にとっては読みにくい部分もあったし、時間が経っているので、かなり状況も変わっていて、記憶を遡りながら…という感じだった。
緒方貞子さんの激務や努力が理解できた一方で、日本のNGOはもっと大きく、活動すべきと理想論が掲げられていて、非営利団体で働いている私としては、努力で何ともならない部分があるなと少し思ってしまった

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2024年01月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人から、読み終わったから、と、もらった本。

総論として、前半は微妙だったけど、後半は人となりが知れて面白かった。

彼女のUNHCRでの困難な決断三つ。本書の前半は、ひたすらこの三つが核になっている感じで、今はこの当時の「急増」と言っている規模よりも難民の増大は半端ないので、ややコンテクストが古い感じ。過去こうだったのね、トップはこういう生活なのね、という感覚で読む。

三つ。
イラク国内におけるクルド難民救済 国内避難民を保護することとなり大議論。 p.13
サラエボで、軍との協力による物資空輸を開始。停戦合意のない戦闘状態のなかで人道援助を行ったはじめての経験。従来のICRCの仕事。ユーゴ解体によって、今日の国内避難民が明日の難民になる可能性があったから。予防のため。また、直接的には、ICRC代表がサラエボで襲撃を受け亡くなり、彼らが撤退し空白が生まれていたため。 p.14
コンゴ民主共和国へのルワンダ難民大量流出の際、難民と、集団虐殺に関与した武装兵士や軍人、民兵が紛れ込み区別できなかった。そのためキャンプでどちらも支援することになったが、人道支援の原則から外れるということて非難轟々。


後半は、高等弁務官を辞めてから(終わり頃)のインタビュー等が収録されており、問題の扱い方がやや多角化する。軍隊の出動と人道援助部隊との関係の議論はいまだに絶えないし、難民キャンプ軍事化・治安不安定化の懸念も絶えない。そういう点でのコメントなど、今でも参考になるかも。国際警察としての軍隊の起用法を考えるとか。

また、日本人が今後世界でプレゼンスを示すにはどうしたらよいか、なんてコメントも載っていたりして面白かった。語学力は...重々認識しつつ...ぐぬぬ。
日本が均質すぎるがゆえに、世界の問題が身近じゃない、だからこそ積極的に意識しないと見えてこないというのは同意。

最後の解説で引用されていた緒方さんの言葉は、なんか端的に人となりを表しているのかなと思った。
島国日本が、「日本は素晴らしい」と自賛し、日本だけの繁栄や心地よさを求めればどうなるか。
「すばらしかったらそれを広めるということが一つの使命です。この国は物がなくなったりもしないし、犯罪もひどいわけじゃない。やや、心地よすぎるのです。だけど、ほかの国も心地よくならないと、いつかは、私たちも心地よくなくなる。それをもう少しはっきり認識することが必要ではないかと思います。」 p.399

緒方さんが、2000年金当時からsolidarityを提唱していたとは知らなかった!

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2020年05月10日

Posted by ブクログ

平和ボケしている日本、しかしパワーバランスが崩れつつある現在、読んでおくべき本だと思う。が、本書の構成がしっくりこない…。それから、なかなかに難解。。。

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2020年01月21日

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