19世紀に「幸福の9割は健康に基づく」と説いた本書は、現代のFIREやミニマリズムの先駆的な隠遁哲学といった感じ。虚弱な自覚がある自分には、一言一句が世俗に疲れた心にジワーっと沁みる。
著者は徹底した厭世家だ。今日という「小さな一生」をいかに「あまり不幸せではない状態」でやり遂げること、期待値を極限まで下げて孤独を「十八番」にすること、未来の不安で現在を曇らさないこと。その徹底した「現在」の肯定が、刺激過多な現代で心を適正な位置に戻す知恵なのかもしれない。
とはいえ、「大部分の人間は低劣」と言い切る清々しいまでの毒舌には笑ってしまった。自分は残念ながらショーペンハウアーが言うところの「マヌケ」側の人間だと思うが、彼の毒と知恵を拝借して、マヌケなりに人生を最適化し、なんとかやり過ごしていきたいと思う。
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◆ 心に留めておきたい言葉(本書より引用)
・幸福の定義
「幸せな人生」とは、「あまり不幸せではない人生」、すなわち「まずまずの人生」であると解すべきだ。もともと人生とは、楽しむべきものではなく、克服されねばならぬもの、どうにかやり遂げねばならぬものである。
・健康の優先順位
人間の幸福にとって無病息災は、ずばぬけて大切なのだ。……いっさいを健康の後回しにすべきである。
・現世の幸福の到達点
苦痛なき状態で、しかも退屈でなければ、基本的に現世の幸福を手に入れたと言えるだろう。
・FIRE的視点
家族を持たず自分独りだけでも、真に独立して、つまり働かずに悠々と暮らせるだけの財をもともと持っているというのは、はかりしれぬ利点である。これで人生につきものの窮乏や労苦から免除・免責される、つまり万人が背負う苦役、地上の子の自然の定めから解放されるからだ。運命からこのように厚遇されて、はじめて真の自由人に生まれたといえる。
・教育への提言
世界には努力して得るべきものがたくさんあるという妄想を根絶する早期教育を青年たちに授けることができたら、たいそう有益だろう。
・孤独と調和
そもそも人間は、自分自身を相手にしたときだけ、「完璧な調和」に達することができる。友人とも恋人とも「完璧な調和」に達することはできない。
・現在という一生
毎日が小さな一生なのだ。朝の目覚めは小さな誕生にあたり、夜の眠りは小さな死にあたり、これと共に一生を終える。
・処世の極意
「愛してはならぬ、憎んでもならぬ」には、あらゆる処世術の半分がふくまれ、「何も言うな、何も信じるな」には、残りの半分がふくまれている。