三島浩司の作品一覧
「三島浩司」の「ガーメント」「クレインファクトリー」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
- 作者をフォローする
- フォローすると、この作者の新刊が配信された際に、お知らせします。
無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで200万冊以上配信中!
「三島浩司」の「ガーメント」「クレインファクトリー」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
『ダイナミックフィギュア』、『高天原探題』などの作品を手がける。
小説・文芸
小説・文芸
小説・文芸
小説・文芸
小説・文芸
Posted by ブクログ
古風なタイトルだが、舞台は現代。
京都を中心に突然土が人の上に被さり生き埋めになるという怪異な現象が起こる。この土盛りは墳墓と呼ばれ、生き埋めになった人は玄主と呼ばれる。玄主は自力で墳墓から抜け出すこともあれば、救出されることもある。他方、同様に土盛りが生じ、そこから不定形の生物のようなもの、シノバズも現れるようになった。シノバズは人間の動機を殺す。動機を殺されると、まずシノバズを認識することができなくなり、さらに重篤になるとまるで意欲を失ってしまう。人間の動機を殺す作用は墳墓からも玄主からも発せられる。
なぜシノバズが現れるようになったかというと、最初の玄主、一号玄主である皆土清美が土に埋もれたとき、たまたま近くを通りがかった高校生の寺沢俊樹がそれを掘り出したからだとされている。そのとき、他の人は生き埋めになった少女を救出しようという動機を殺され、墳墓が出現したことすら認識できなかったのに、寺沢だけがそれに気づいて、救助に向かったのだ。
京都周辺に出現するようになったシノバズを討伐する組織、高天原探題が結成される。隊員のことは被官と呼ばれる。上司は執権、連署など、律令制の名称を用いて、一種異様な雰囲気を作っているが、和風の術語は三島浩司のトレードマークである。
動機を殺すシノバズと対峙することは困難なので、被官は5人でチームをつくり、次々に出会い頭をねらってシノバズに襲いかかるという戦術をとる。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将とこれは武道の団体戦の名称。シノバズは警棒で殴られ続けると死んでしまう。銃も使われたことがあったが、シノバズに動機を殺され呆然状態になった被官が一般人を誤射してしまった事件があり、このような原始的な方法が定着した。
基本的な設定はまあこんなとこ。容易に近寄りがたい奇妙な生物を討伐する組織と個性的な登場人物の人間模様が絡むあたりは『ダイナミックフィギュア』、異様を失った人間が大量発生してしまうところや、主人公が自分と関わる因果の輪を閉じようとするあたりは『シオンシステム』のヴァリエーションなのが、ちょっと気になる。最新作なのに。
一号玄主の出現から数年後、寺沢は隔離状態にある清美に会うことを目的に高天原探題にはいっている。他方、高天原探題は不祥事を起こしたことから改組され、禁傾と呼ばれる謎の組織のメンバーは排除され、さらに監査役が活動を監視する体制になっている。
清美は人間の動機を殺してしまい、たいがいの人間には見ることもできなくなってしまうので、ひとり隔離された状態で動物の世話をする仕事をしているのだ。
寺沢は清美を助け得たように、元来、動機を殺されにくい特徴を持っている。生物は他の生物に危害を加えないようでいても、最後の最後に自身が危険に陥れば殺意を持つに至る。殺さずなどの誓いを立てた者を持戒者といい、持戒者はシノバズや玄主を見ることができる。寺沢は、必ずしも持戒者ではないが、殺すという覚悟があれば殺すし、殺さないと決めたら殺さないという矛盾のない人間、隠された動機がない人物なのだ。シノバズが及ぼす力は受戒であり、他の生命体からの危険を排除する力である。墳墓からは玄主とともに銅剣が出土するが、銅剣は動機を増幅し、シノバズを前にしても、動機を殺されずに向かっていくことができる破戒の剣である。よって銅剣を持った者は暴走もしやすい。持戒・受戒・破戒、これが本書の生物学的アイディア。
寺沢と清美の純愛は重要な縦糸。また、敢えて東京を舞台にしないというのも、三島作品の特徴。はからずも評者は京都への行き帰りに本作を読んだ。ちょっと短くて、もう少し展開して欲しい気もするが、そうすると『ダイナミックフィギュア』になるだけか。
Posted by ブクログ
『ダイナミックフィギュア』もそうだったが、この作品も設定は極めて理路整然としている。が、三行では説明できない。本の帯には「戦国時代+メカ+タイムスリップ」と書いてあるが……
主人公の大学生・花輪めぐるほか見ず知らずの4人の男女が戦国時代にタイムスリップする。日常生活において、何らかの扉を開けるとそこに自分のドッペルゲンガーがいて、その瞬間、戦国時代にスリップしているのだ。不在中はドッペルゲンガーが適当に生活しているらしい。あちらには着の身着のまま到着するが、ケータイとかは持って行けない。危険が迫ると、メカ鎧のようなヌキヒが自然と現れて守ってくれるし、また武器も出してくれる。そうして、歴史上重要な人物を殺すなど歴史が変わるようなことをすると、現代に戻ってこられる。そういう彼らのことは楔者と呼ばれている。すなわち歴史に楔を打ち込むのだ。でも戻ってきても歴史が変わっているわけではない。最初は桶狭間の戦いで,どうやら信長戦記とお付き合いしなければならないらしい。こちらで2週間の間に戦国では1年が経過するという平行関係にあり、彼らはたびたび戦国時代に飛ばされる。誰が何のためにそんなことをさせているのかはわからない。もちろん命に関わることもあり得るのだが、ヌキヒにより相当守られているので、シュミレーション・ゲーム感覚でもある。また、信長や秀吉などあちらの重要人物もまたヌキヒを纏っていて、強大な力を発揮するのでそれと戦わねばならないのだ。
これが設定の重要な半分。
主人公・花輪めぐるは実は楔者ではない。彼はある日、周囲の時間が止まるという怪異に遭遇する。戦国時代の服装をした少女が下半身を天井に埋め込まれた状態でぶら下がっているのを発見し、助け出すのだが、少女はすぐに立ち去ってしまい、時間も流れ出す。しかし後日、行き場のない少女がめぐるのアパートにやってくるので彼は保護してやる。少女は名前も来歴も「知る必要はない」と教えないのだが、めぐるは『鶴女房』を連想して彼女を「ツゥ」と呼ぶことにする。ツゥは「のぞく必要はない」と部屋にこもってしまう。中からはカタン……、シッ……と奇妙な音が聞こえてくる。めぐるは気になってふすまを開けてしまう。そこでタイムスリップ。
戻ってきてから、めぐるとツゥの共同生活が始まる。ツゥの態度はすげなく尊大だが、凛としていて、辛抱強く慣れない時代での生活を覚えてゆこうとする。健気なツゥにめぐるはちょっと距離をとりながら接していく。ぎこちなくて、ガラス細工のように繊細なラヴ・ストーリー。どう考えても悲恋が待っているとしか思えないだけに、日常的なありきたりの一瞬一瞬が愛おしい。
めぐるにはドッペルゲンガーは現れず、ツゥが「のぞく必要はない」と部屋にこもるときが、めぐるが戦国に赴くときだ。そして、他の楔者たちのところにドッペルゲンガーが現れるときだ。しかし、現代の彼らにとってタイムスリップは災厄でしかなく、何とか回避しようとする。つまり扉を開けないようにする。しかしあの手この手で彼らは戦国にタイムスリップさせられてしまう。
めぐるが戦国に赴くとまず裸足の足の裏にツムギという名のヌキヒが現れて、足を守る。戦闘となると、ナナコ、サヤ、リンズ、ギンランと次々と強力なヌキヒが彼の身を守る。敵のヌキヒもどんどんエスカレートしていく。タイトルの「ガーメント」とはこの「衣装」のことであろう。タイムスリップでは線維のように織ったものなら持って行けることがわかるなど、全体に織物の意匠が仕掛けられている。
ミッションがはっきりしないまま、戦国と現代を行き来しつつ、タイムスリップと関わるこの世の構造すなわち「世の実相」、ツゥの正体とその役割が、謎として解明されるのを待ちながら、本能寺の変へと物語は進んでいく。『鶴女房』の意匠も作品のそこかしこに仕掛けられていて、それは見事なほど。
作者の三島浩二のホームページをみると、執筆のポリシーのひとつに「道徳心に問いかける」ものにしたいとある。ここでも「世の実相」が哲学的な問いを投げかけてきて、物語に深みを与えている。先が読みたいのに、読むと終わってしまうので読み進めたくないと葛藤し、最後は胸を締め付けられるような思いになる。それは『ダイナミックフィギュア』と同様に。
帯にならって三題噺で表現するなら、「鶴女房+モビルスーツ戦記+時間哲学」。