下巻も上巻に劣らず内容が濃い。冒頭の2章「落天女」「聖家族」
で描かれる岡本一平・かの子・太郎の芸術家一家の話だけでお腹
いっぱいになる。
それぞれに才能を持ち、それを開花させた家族の肖像はあまりに
も常識からかけ離れている。もしかして、岡本太郎氏が生涯、
独身を通したのは一平・かの子夫
...続きを読む妻の影響があるのだろうかと
の読後感を抱いた。
「木曽路はすべて山のなかである。」で始まる『夜明け前』を
書いた島崎藤村。作品は好きなんだよ、私は。『夜明け前』を
携えて、実際に木曽路へ行ったことだってあるくらいに。
でも、人間として最低。姪の駒子さんに手を出して妊娠させた
のに、責任も取らずに自分は海外へ逃げ出しているんだもの。
本書では駒子さん関連でしか描かれていないが、藤村は確か
「戦陣訓」の作成に協力しているはず。
心の弱さを売りにして女性をたらし込んで、次々に心中未遂事件
を引き起こした太宰治を描いた「傷にしてナイフ」も秀逸。
「文人の愛と死」をテーマとしている本書だが、作者自身が
告白しているように宮沢賢治に関しては女性関連の内容を
描くことが出来ず、親友・保坂嘉内へ宛てた手紙を下敷きに、
男性同士の友情を描くのが精いっぱいだった模様。
代表作である『銀河鉄道の夜』のカンパネラのモデルであったと
言われる保坂氏。ならば賢治はジョバンニなのか。所謂、婦女子
が喜びそうな作品でもある。
北原白秋と2番目の奥様・江口章子さんを描いた「子象と雀」の、
章子さんの最期にボロボロと涙を流し、武者小路実篤の最初の
奥様・房子さんは「美しい村」に住み続け、平成元年まで
ご存命だったことに驚く。
ある程度は知っていた文人たちの生涯でも、異性への愛を視点
(宮沢賢治を除く)にすると違った側面が見えて来る。
それにしても取り上げられている文人の皆さん、やっていること
が滅茶苦茶すぎる。原題に置き換えたら炎上案件ばっかりなので
はないだろうか。
まあ、それが魅力と言えば魅力なのかもしれないが。