あらすじ
「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(本文より)
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Posted by ブクログ
学生時代に読んだ以来、7〜8年振りに再読。あまり書籍は読み返さない性分だが、『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』の中で本書について触れられていたので手に取った。序盤は何とも頼りない?(奇妙な登場人物からの働きかけに受動的な印象)主人公が、妻の失踪を契機にその奇妙さの理解に努めたり、自ら問うたりと少しずつ姿勢が変わっていった印象。日常的な風景が浮かぶ描写が多く、また主人公の年齢も30歳と自分と近いこともあり、一読した際よりもすんなりと話が入ってくる(登場人物はかなり不思議だが)。改めて、読むタイミングにより解釈や気になるポイントも変化するのだなと思う。
特に印象に残った箇所は以下
・ひとりの人間が、他のひとりの人間について十全に理解するというのは果して可能なことなのだろうか(p.53)
・しかし僕にはその出来事が妙に気になった。まるで喉にひっかかった魚の小骨のように、それは僕を居心地悪くさせていた。<それはもっと致命的なことであったかもしれないのだ>、僕が考えたのはそういうことだった(p.68)
・とくによっては、好奇心は勇気を掘り起こして、かきたててもくれる。でも好奇心というものはほとんどの場合すぐに消えてしまうんだ。勇気の方がずっと長い道のりを進まなくちゃいけない(p.142)
Posted by ブクログ
主人公岡田亨は妻クミコの突然の失踪で、これまでの生活が一変する。前半、猫の綿谷ノボルを探してほしいと妻に頼まれて、近所を探し回っていた。そこで、現在不登校でバイクの事故で足を負傷した謎の少女に出会う。また岡田の義兄綿谷ノボルと関係する謎の女性姉妹に対面する、以前から関わりのある老人の知人の男性の昔話を聞くなど、主人公は妻の失踪以降、さまざまな人物と知り合う。そして、近所の井戸が主人公を含め多くの人々をつなげていく。