あらすじ
万物を癒す神にまつわる表題作ほか、流罪人に青天狗の仮面を届けた男が耳にした後日談、死神に魅入られた少女による七十七人殺しの顛末など。デビュー作『夜市』を彷彿とさせる傑作ブラックファンタジー!
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登場人物は繰り返し選択を迫られ、それは一度きりの運命ではなく、
別の形で何度も現れる試練のように感じた。
「未来が良くなると分かっていても、刀を振り下ろすことができるか」という問いのようなものを感じ、
これは単なる勇気や残酷さの問題ではなく己の使命/宿命/存在意義をかけた選択であって業のよう。
その選択が次の世界を形作ると知りながらも、果たして自分は手を下せるだろうのか?と考えてしまう。
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恒川ワールドを堪能。
不穏な空気がふんわりと漂う静かでダークな世界観。スッと入っていける。雰囲気を大事にゆっくり読みたい気持ちに反して、面白くて一気に読んでしまった。
獣の話が良い!
どの話も面白くて、夢中で読みました!
恒川先生は非日常を描くのが本当に上手く、まるで本当に自分が不思議な世界に迷い込んだような気分になります。
カイムルとラートリーが凄く好みでしたが、他の話も負けないくらい面白く印象的でした。
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「化物園」より、読みやすかったです。
孤独な自分と心を通わせてくれた相手への、忠誠心というか、信頼感というか、そんなテーマが根底にあるように思いました。
幼い子供が母親と引き離されてしまうという、私にとって苦手な展開の話もありましたが、どうにかこうにか救われた結末でした。「死神と旅する女」「廃墟団地の風人」「カイムルとラートリー」の3作が特に面白かったです。
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6篇全てが傑作の、恒川ワールド全開な短篇集。
ファンタジーやホラーというジャンルを超えてむしろ神話の領域に近い幻想小説なのに、文体がとにかく読みやすく平易で、にも関わらず唯一無二。
冒頭の1行目を読んだ瞬間から、たちまちその世界観に呑み込まれてしまう…
東雅夫さんの解説もとっても素敵だったな。
「恒川光太郎の文体が、まったくといってよいほど奇を衒わず、常に平明かつ明晰でありながら、読む者にたいそうなまなましく、異界の感触と消息を伝えて余りある」
まさしくそのとおり。
収録作の中でもとくに『死神と旅する女』が、とても好きです。
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「神」と「風」をテーマとした作品集。筆者はハッピーともバッドとも、何とも言えないような結末を迎える作品が多い中、「死神と旅する女」はこれ以上ない結末であり、爽快であった。しかし、筆者の文章が持つ独特の余韻は失われることはなかった。そして最後の短編「カイムルとラートリー」は筆者屈指の名作である。「竜が最後に帰る場所」でゴロンドという未知の生物がいたように、今作では言葉を話す虎の生涯が描かれる。短編ではあるが、どんな大作にも負けない大叙事詩であると言っても過言ではない。誰が読んでも面白い小説であると断言できる。
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続けて恒川光太郎の本を読んでる。これも短編集で全て良かったけど素直にラスト2話の「カイムルとラートリー」「廃墟団地の風人」が好き。もちろん他のものも楽しかった。帯の文章を見てはじめて、はじめて読んだ夜市から感じていたこの懐かしさは遠野物語だと思い至った。原因やその後なんておそらく誰も知らない知る必要もないがそこにある不思議なことがふんわり包むようなやさしい文章で書かれている、他の人が書けば苦しくなるような話もその書き方(視点)のおかげで距離感を持って感じられる、どうにかできる話ではなかったのだと。さみしいけど懐かしくて優しく感るのは読んでいる側が「何かできたのではないか」と思わされずに済む、ある種突き放しているとも言えるやさしい視点のせいかもしれない。次は秋の牢獄を買っている、それも読むのが楽しみ。
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今までにこのようなジャンルはあったのだろうが、幻想的、ファンタジーという言葉では言い表せない新鮮さを感じた。恒川氏はスタープレイヤーのような長編よりも、本書のような短編が得意なようにも思える。
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【収録作品】無貌の神/青天狗の乱/死神と旅する女/十二月の悪魔/廃墟団地の風人/カイムルとラートリー
「無謀の神」顔のない神がいる村。時折、赤い橋を渡ってよそ者が来る。橋を渡って向こう側へ帰ることができるのは、ある条件を満たさなかった者だけ。ホラー。
「青天狗の乱」流人島を舞台とした時代もの。
「死神と旅する女」死神にさらわれた無垢で空っぽの少女・フジ。約束を果たして戻り、二児の母となった彼女の元に再び死神が現れる。世界線が分かれる話で好み。
「十二月の悪魔」記憶を失いつつある老人のアイデンティティ・クライシス。近未来小説、か。考えると怖い。
「廃墟団地の風人」空からおちたゴーストと転校してきて居場所のない少年。孤独な少年たちの友情譚がいい。
「カイムルとラートリー」人語を解する崑崙虎・カイムルと下半身の不自由な、千里眼もちの姫・ラートリーとの出会い。淡々と語られる冒険譚が豊か。
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赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような場所に私は迷い込んだ。そこには人を癒し、時に人を喰う顔のない神がいた。(表題作)
童話やファンタジーのような、ホラーやSFのような不思議で残酷で美しい話が6話収められた短編集。
どの話も寂しく静かでとても素敵なのですが、表題作の『無貌の神』が一番好きでした。世界から見捨てられたような場所。神の屍を食らったものは、もう元の世界に帰れない。ヨモツヘグイ的な、共食信仰(=同じ釜の飯を食う事は、同じ仲間となったという事)の考え方が織り込まれた寂しい集落の雰囲気がとても良かったです。宗教的共食の雰囲気や考え方には何だか惹かれるものがある。
『死神と旅する女』は、この本の中では少し異色で、静かでしっとりした話の多い中では比較的活劇的……というか、さっぱりしていて爽快。時代劇のようなのにSF的でもあって面白いです。
他には、この本の最期に収められている『カイムルとラートリー』。話すことができる獣とお姫様の、異国の童話のようなお話。
本当に、どこかの国で語り継がれていても不思議ではない雰囲気があり、自由と友情を感じる優しい話です。ラストシーンも美しくて好き。
どの話も、読後に少しの寂しさを残しながらもさらりとしていて、ほんのりと優しさや希望が胸に残ります。
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素晴らしかった。一気に駆け抜けた
全部良かったけど
"死神と旅する少女"は震えた
不思議な高揚感に包まれた。
高揚感を感じた自分に対して
ちょっと背徳感もあったが
それは正義と信念によって
許してもらえるだろうか。
"廃墟団地の風人"これも
良かった
目に見えない風は
嬉しい時、悲しい時
いろんな場面で吹くもの
その時の思いは上手く言葉に出来ないものだけれど
その想いを恒川さんはいつも
表現してくださる
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どの話もさすが恒川さんといった感じ。
私が1番印象に残った話は青天狗の乱。恒川作品の中で初めて時代小説を読んだ。見届物を届ける仕事、島流しにあった人の末路、江戸から明治への開花など時代小説として楽しめるだけでなく、不思議な面をめぐるある男の話の、結末がはっきりとわからないからこそ色々と想像を巡らせる楽しみがあった。私の推測は青天狗は島の住民の誰かで、とみせの放火もロショウが青天狗役の住民に託したんじゃないかと思った。根拠としては街中で遭遇したそっくりさんの反応が本当に人違いな感じな印象を受けたのと、青天狗の殺陣シーンがあまりにもプロだったこと、語り手にもとみせの女将の殺人を依頼するくらいだから色んな人に頼んでいそう、っていう薄い根拠ですが。
死神と旅する女も「時影様と時をかける少女」ってタイトルが浮かんだ。解説を読んでサムトの婆様に近い描写があること知ってさすが、と思いました。
解説を読んでわかる設定が多くあってそこもまたいい。夜市の風の古道が私は好きだけど、今回風を感じる作品が多くあって好みに近い小説だった。
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特に前半に並べられた数作から立ち上ってくる、幕末~明治~大正~昭和に掛けて世に満ちていたであろう濃密な気配は実に独特なもので、それこそ「死神と旅する女」に出てくる時影のような男がそこらを跋扈していたのだろうな…と頷かせる。
小野不由美氏の「東亰異聞」の世界にも通じる色合いというか。
一転、ダークなファンタジーといった趣の「カイムルとラートリー」では、動物好きの読者に過度なストレスを掛けない展開と結末に、ほっと安堵した。
それぞれ、絶対的な説得力を持つ理屈がギミックの裏側に構築されているというわけではないけれど、なんとも言語化しにくい幻想的な魅力を醸しており、改めて著者は短編の名手であると再認識した。
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面白かったです。淡々と語られる昔話を聞いているように読みました。
表題作の神の造作が好きです。神を含む輪廻に飲み込まれることで保っている時間も超越した世界…好きでした。クトゥルフに同じ名前の旧支配者がいると解説にありました。
「青天狗の乱」「死神と旅する女」も好きでした。死神と〜は日本が第二次世界大戦に参加しなかったパラレルな世界。運命に注文された〈世界〉という絵を作る時影…死神、なのかな。絵筆はその時々で必要で。でもパラレルワールドは存在してるので、注文される世界もいくつもあるのかも。
「カイムルとラートリー」もとても良かったです。喋る「崑崙虎」かいむる、かわいいし健気。ラートリーも賢くてよいです。ふたりが出会えてよかった。
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裏表紙にも書いてあるように「暗黒童話」という言葉があってる。
「死神と旅する女」が一番好きでした。
気づいたらその世界に入り込んだような感覚で読めるのは恒川さんだけだなぁと思った。
恒川光太郎の世界観
夜市を読んでからずっと恒川光太郎という作家が気になっていました。この本も面白いけど、夜市が星5つだとすると、こちらは4つかな。でも、独特の世界観に魅了されます。
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過剰に飾り立てることのない平易な言葉で、淡々と行を変えていく短い文章で、ぞくりと背筋が寒くなる独特の雰囲気を出すのが恒川さんの本領だなぁ、と。恒川さんの短編集らしい短編集だなぁ、と、ご満悦になれる読み心地でした。
表題作「無貌の神」は、その世界の物を食べたら帰れなくなる、超常的存在を殺めた者がその役目を引き継ぐなど、題材として目新しいものではないのですが、寂れた集落に漂う空虚感が空恐ろしい。
「青天狗の乱」は、怪奇の大部分が人づてに聞いた話をまとめたものという点と、「怪奇ではなく、全ては作られたものかもしれない」という可能性を残しているという点で、他とは少々異なる趣。
個人的に今巻で一番好きなのが「死神と旅する女」。ホラーのようでSFのようで、血腥いのに美しさを感じるこの世界観、いやぁ、いいわぁ……///
「廃墟団地の風人」は、サブロウの目線で描かれる団地の情景や自然景のみずみずしさと、同じ目線で見る人間模様の対比が切ないです。
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面白かったです。短いけど世界観が凄くて引き込まれました。もっとホラーかと思ってたけどそんな事はなく、民俗伝承、時代劇、SF、童話的な話まで多彩で、幻想的な短編集です。色々な話があるので作品ごとに評価はわかれるけど、死神と旅する女、カイムルとラートリーが良かった。廃墟団地の風人、カイムル〜はハードではあるけどどこか牧歌的な雰囲気で似た作品があれば読みたいな、恒川さんの他の作品も読んでみます。
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本作品の白眉は『死神と旅する女』
謎の男達に殺されそうになる女の子?
度胸という性格で助かるものの謎の男と旅する事に?
まぁ好みだと思います。
何故か恒川氏の初期の作品を思い出しました。
表紙が何故か豪華に見えるのは私だけでしょうか?
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ダーク寄り、余韻はあっさりめの恒川ワールド短編集。
「死神と旅する女」は、読んだことがある作品でした。刀を手に幻のような旅と、殺し。好きだったやつです。どこで読んだんだろう…アンソロジーかな…
「十二月の悪魔」が、主人公も読者も突き放すようなストーリーで新鮮でした。
「カイムルとラートリー」は、短い中に人の一生の儚さを感じる、恒川先生らしいなと思う作品。ずっと味わっていたい。
それにしてもラートリーが片思いしていた相手に別れを告げるシーン、そこら辺の少女漫画(例えです)の100倍切なくって、悶えた。あの短い台詞で彼女の長年の生活や心の内を想像できてしまう…すごい…恋というより、自分の中の柔らかい部分、そして故郷を捨てる苦しさが詰まってる。
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久々に恒川さんの短編小説を読んだ。これまでに読んだ著作よりは若干、余韻が弱い話が多いようにも感じられたが、やはり日常の隣りにある非日常(怪異)を、時に不気味に、時に切なく表現していて、どれも琴線に触れる物語だった。「「境界」を越える」というのが本書のテーマと言えそうだが、それが何を意味するのか、何をもたらすのかは、まさに6通りである。
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恒川さんは2冊目。短編集ということもあり読みやすかったです。少し不思議で少しぬるりとした感触の物語の中でカイムルとラートーリーのお話はもっと長く読みたいなと感じたお話でした。
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所謂リアリズムの範疇には収まりにくいことくらいしか共通項のない、様々な傾向の小説を集めた短編集。ハッピーエンドとは言えないように思うが、読後感が爽やかな「死神と旅する女」「カイムルとラートリー」の二作が印象的。
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一時期よく読んでいたが、この作者の作品を読むのは久しぶり。6篇の短篇集。
ホラーまではいかないが、怪談・寓話・民話・都市伝説の絶妙な混ざり合いが好き。
裏表紙にある暗黒童話が言い得て妙。
神と呪いは紙一重な「無貌の神」現代社会がチラ見えするところが逆にとても遠い場所にいるように感じられる。
「死神と旅する女」日常生活を送るには劣っている者が持っている異様な素質、と書くと少年漫画のようだ。読んでいる時には思わなかったが。
時を超えて歴史に干渉する話はどうにも好みである。
「カイムルとラートリー」読後の切なさと爽快さが良い。途中の展開も読みたいところではある。
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文通仲間との、文通読書会の今回の課題図書。
短編集で、どれも異界のものがしっかりとした存在としてこの世に存在する。
顔のない神様は人を食べ、その神様を倒したときは神様を食べる人たち。彼らは神様とひとつになることを麻薬のような救いに感じている。
無罪の罪で島流しにあった男は、差し入れられた青天狗の面をつけ、虐げた武家の人間を人外のものに憑かれたように襲っていく。
女の子が出会った男は、世界の流れを変えることで絵を描く。彼女に小刀を渡し、77人を切れば家に返すと、約束した。彼女はたくさんのさまざまな人間を斬り、そして彼女は未来、戦争で焼かれなかった東京の土を踏む。
廃墟と化したマンションに落ちてきた風は、ひとりの少年と交流をしていくうちに、空へと帰る術を失う。そして自身の消滅を感じながらひとつの時間足を踏み入れていく。
一匹の崑崙虎の子供が、身を守るために身につけた『言葉』とともにさまざまな人の手に渡り、そしてたったひとりの王女様と檻を出ていく物語。
それぞれが独立している短編。そのどれもが世界が確立され、その中へと強く手を引かれて入り込んでしまう。物悲しさや、怖さとともに、あたたかさが内側にシミを作る。淡々とした文章と、ドラマチックな内容。あっという間に終わってしまう長さが口惜しいくらいだった。そしてどれもが美しい。結晶を作り出す作家さんだとおもった。