【感想・ネタバレ】虹の歯ブラシ 上木らいち発散のレビュー

あらすじ

『○○○○○○○○殺人事件』で鮮烈デビューした「奇才」による待望のメフィスト賞受賞第1作!上木らいちは援交をする高校生で名探偵でもある。殺人現場に残された12枚の遺体のカラーコピー、密室内で腕を切断され殺された教祖、隣人のストーカーによる盲点をつく手口――数々の難事件を自由奔放に解決するらいち。その驚くべき秘密が明かされる時、本格ミステリは新たな扉を開く! さらにパワーアップした傑作短編集登場。【解説入り】

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Posted by ブクログ

ネタバレ

援交探偵、上木らいちを主人公にした連作短編集。前作『◯◯◯◯◯◯◯◯殺人事件』で衝撃的なデビューを果たした援交らいちだが、今作はよりその特異なキャラクター性を煮詰めた短編集となっている。本来、探偵は謎めいたものであり、その人物の秘するものが色々とあけっぴろげになる性的な物事からは距離を置かれることが多いが、らいちはそんな常識をあざ笑うように簡単に股を開きチンポをしゃぶり抵抗なく誰とでも寝る、究極的なまでに世俗的なキャラクターである。白眉なのは峰不二子のように色仕掛けを武器にしているわけでなく、純粋にカネと享楽のために寝ているという部分だろう。この軽薄さが逆に謎めいた印象を彼女に与えており、また係る事件もどことなく淫靡な雰囲気の漂うエロい事件である。

幕開けからしておっぱいコピー事件と呼ばれるひどい事件から始まるわけだが、この事件も作りは非常に秀逸であり、タイマー設定できない連続コピーが逆に容疑者のアリバイを証明しているというのが素晴らしかった。また時間をたっぷり掛けた理由がバイアグラによるもの=普段は不能であることを解決編のフェラで解き明かしたりするアクロバティックさが良い。一見するとバカミスだが、その実しっかりとした論理に裏打ちされており、推理小説としての満足度は非常に高い。コピーではなくカメラというのは盲点で、容疑者のプロフィールによって明かされていたわけだが、このギミックはなかなかに面白いと思った。

他にもセックス教団の教祖がイカという衝撃的な真相の事件と密室を合わせた短篇などもお気に入りである。しかし触れなくてはいけないのは、最後の赤と、キーパーツとなる橙だろう。最後の最後で上木らいちの正体に迫るわけだが、連作短編の太字の部分を繋ぎ合わせて矛盾を突き合わせて浮かび上がる正体は複数のパターンがありはっきりとしない。つまりはどの色を選ぶかでらいちの正体が確定するというマルチエンディング仕様である。それはさながらUMAの正体に迫るようであり(それを意識したのからいち人間じゃない説もある)またミステリの多重解決ものを利用した落とし方でもあるのだろう。複数人説、老婆説、男説など、正体明かしの時に出てきがちなネタを全部拾っているのが小憎らしい。そして発散に至るわけだが、それも含めて謎めいた印象を保ったままなのが実によかった。

文体も非常に俗っぽくて読みやすいが、あとがきの作者の言葉を読んでなぜ波長が合うかその理由がやっと分かった。作者が好きなのは安部公房とカフカで、これは僕が学生の時に好きだった作家の二巨塔である。一気に読み切ってしまったが、次作の文庫落ちが待ち遠しい。メフィスト賞作家にハマるのは殊能将之依頼かもしれないな。

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2019年05月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

叙述トリック部分がわざわざご丁寧に太字で書かれているので「実は高齢者?」「実は男?」「実は人間じゃない?」とか想像しながらも「でもそれってありふれてるし、しかもそれを太字にしちゃったらバレバレじゃない?」と違和感がありつつ読み進めていくとラストの考察パートが面白い。
それでいて一つ一つの作品も、なんだか驚いたような驚いてないような、感心するようなしないような絶妙なトリックで終始力が抜ける仕上がりになっている。
採用する記述組み合わせを変えることで多様な真相が生まれる、というのは、後期クイーン問題に対する解答の変奏と言えるし、その結果意味不明な世界観の解答がたくさん生み出されるので変な解答編好きとしてはたまらない。
そしてその多様な結論が出てくるという話が、虹の色の受け取り方の違いと結び付けられるのは、あまりにも美しく計算し尽くされている。

ような気がしたけど、その計算され尽くした結果も作中作オチで、それがありならなんでもありじゃん!なので、なんだか締まるような締まらないような感じで、いい感じの「え、これはなに?」感を湛えた読後感だった。

今までに多様なトンデモ叙述トリックを通過してきた人がより楽しめる贅沢なミステリでしたね。

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2025年01月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

◯×8に続き、これまた援交探偵という他に類を見ないエロミス。AIと言いエロミスと言い、探偵の設定がぶっ飛んでるんだよね。エロいことしてるだけで描写はないので普通に読める。歯ブラシの色と曜日でそれぞれの客とのちょっとしたミステリー。紫から黄色までは、まあ普通。青は教祖が面白すぎたけどww
それにしても、最終章の種あかしがいくつかに分岐している(?)んだけど、夢オチよりもひどい結末が(選択肢の1つとして)書かれている。橙の話が唐突すぎて理解不能。そんな主人公が◯◯認◯◯◯なんてチートすぎる!シリーズものだと思ってたのに!確かにフォントが違うところと題名に違和感があったけど、そんななんでもありなんて、これまたメフィスト賞らしい本でした。

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2023年03月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

全部で七篇の短編集・・なのだが、冒頭から読むことが望ましいだろう。
援交探偵、上木らいちが主人公の本作。
援交相手(客)が関わる不可解な事件を紐解いていく。
さて、なぜ冒頭から読むことが望ましいのか・・それは七篇目を読んでみれば分かるだろう。どんでん返しではない。一篇~六篇が全て伏線になっている。

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2020年03月08日

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