あらすじ
戦史の研究に没頭している孫武は、戦争に勝つには勝つだけの理由があり、負けるには負けざるを得ない理由があることを知った。呉楚の確執が続く古代春秋時代の中国。楚への復讐に憑かれた伍子胥の計らいで呉の将軍となった孫武は、独自の機略で楚軍を打ち破り続ける。孫子の兵法で名高い孫武を描く歴史小説。(講談社文庫)
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
田中芳樹の『銀河英雄伝説』シリーズにおいて、オーベルシュタインは戦略家であり、ヤン・ウェンリーはもっぱら戦術家である。今までこの違いというものをよく理解できていなかった。
戦術家は勝ち筋を見つける。敵の数、配置、状態、地形、味方の状況など、情報を集めて勝つ方法を考える。または勝てるかどうか判断する。読んでいて孫武はヤンに近いのだと思っていた。学者肌で出世欲は無く出来れば表に立ちたくない。
戦略家は勝ち方も負け方も考える。一度の戦いよりもあるひとつの目的を達する為に兵事も政事もトータルで考える。ここで勝つことでor負けることで、目的にどのように影響するのかを考える。目的のためには負けることもひとつ手であると考える。オーベルシュタインは「目的のためには手段を選ばない」という言葉の示す通りと言って良く、伍子胥も戦術家に近いと思っていた。
読み進め終盤に差し掛かってくるとどうも孫武はあえて戦略に対して控え目だったのだと気づく。戦略が使えないわけではない。実際に自分の意見が通るようにあえて自分以外に指揮を任せて、負けさせて、その埋め合わせによって信頼を強化する、ということをやっている。しかしそこに出世欲はない。成り上がりたいとか復讐がどうとかそういうところにないからこそ、必要にせまられなければ、戦略を練らなかったということなんだろう。
伍子胥の話は前々から知っていたし、結構面白くて好きな話の一つであったが、今回かなり詳しく読めて良かったと思っている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
久々に原点回帰、と思い読んでみた。この本は確か高校時代に買ったきり、はしりを読んでそのままにしていた一冊だった。やっぱり面白い。時代はおろか発表年数すら自分の生まれるより前であるのに、今を生きる我々にとってなんと示唆に富んでいることか。自分らがふっと思いつくことなど古からの真理であったりする点で全く敵わない。今年はより積極的にオリジンを志していこうと思う。
Posted by ブクログ
上巻は孫武の話であるが、「死者に鞭打つ」の故事で有名な伍子胥と呉王闔廬(公子光)を中心としたストーリー。孫武は個性の強い二人に巻き込まれながら、いわゆる「孫子の兵法」を戦争で用いる。
50年以上前に出版された小説だが、現在でも面白く読むことができた。庶民は九州弁、ガメつい妻は関西弁で表現されている。官吏などの知識層の話し言葉との違いによってリアル感があり、その工夫に感心させられた。
Posted by ブクログ
孫子の兵法を記したとされる孫武と孫殯を描いた作品。筆者は史記列伝に記載されてる僅かな記述より想像を加え大きな物語を描いた。後書きにも書いてあるが一人の歴史上の人物を描くのはその人物と同じ呼吸をして人生を生きる事だと。読んでいても大きな息吹を感じる秀逸な作品。
Posted by ブクログ
孫子〈上、下〉 (講談社文庫)
孫子は兵法書やビジネス書などいろいろ出版されていますが、今回は人物に関する小説『上巻』:紀元前500年頃 呉の孫武 過去にあった戦の研究を進めているうちに法則に気づいていく。のちに呉の将軍として負け知らずの戦いをしていく ★3.6
『下巻』紀元前350年 斉の孫臏 親友の龐涓の嫉妬にあい両足を切り落とされてしまい復讐の為に立ちあがる★2.9
Posted by ブクログ
孫子の兵法を記した,孫武とその5世孫臏の話。上巻は孫武。下巻が孫臏。
本書を読むまで,孫武とは百戦錬磨の将軍だったのだろうと勝手に想像していたが,全く違った。戦争の研究家で,文人肌の人間のような感じだったのだなと思った。しかし,研究家で机上の論理であり,実践では使えないだろうという呉王闔閭の問いに対し,『理は形(実)を離れたものではありません。形の中に理を見て整理したものであるので,理の中に形が有るべき道理です。理は即ち形であり,形は即ち理です。実地に応用して役に立たないはずはない』と言い切っています。戦についても,『戦わざる以前に既に勝っていなければならないと。戦って勝つのではなく,既に勝っているものを自ら確認し,敵に確認させるために戦は行うのだと。』策についても『情勢によって施すのが最も良いと。前もってここから手を付けて,こう向こうが出たらこうというように決めてかかっては,ことが予想通りに運ばない時にはかえって途方にくれることになる』と。
次に孫臏。この人は,宮城谷氏の小説で出てきたの幾分は前知識があった。友人であり,援けて来た龐涓に罠にはめられ復讐の鬼になるが,中国では結構こういう場面に出くわす。伍子胥などもそう。『世に必勝の算はない,すべて比較的なものだ。』『斉の威王にこういう話がある。威王の宰相の鄒忌が言った言葉に,妻が自分を立派と言うのは贔屓しているからで,妾が自分を優っていると言うのは恐れているからで,来客が自分を美しいと言うのは機嫌をとっているからです。このように人は真実を知りがたい状況にあると。』『巧遅は拙速に及ばず。合戦において,躊躇逡巡ほど悪いものはない。だから優れた将軍は瞬間に最も効果ある方法が見つけれるよう訓練しているもの,またはその天資が備わっているものである』と。
全2巻
Posted by ブクログ
第二次世界大戦を生き抜いた著者が見ているなら世界観が見えて面白かった。現代の価値観や感覚とはまた違う、あの時代の考え方が散見されて、孫武の生涯の物語よりも、著者の考え方が面白かった。
孫武がいわゆる学者であって、武将ではないという描かれ方は面白かった。孫武が自分の理論に自信を持っていて、それを広めることや教える事をしたかっただけで、自分の理論をもとに万の軍勢を率いて戦い、呉の国で出世したかった訳ではない、英雄になりたかった訳ではないという設定は読んでいて共感する部分があって、感情移入しながら楽しめました。
Posted by ブクログ
孫子の兵法で有名な孫武を描いた一冊。一介の軍略家がどうやって呉を代表する大軍師まで上り詰めたかが記されている。おなじみの呉王の愛妾を軍事訓練で処刑して、軍事においては国王の命令に背かなければいけない時もあると、軍規の絶対性を説くエピソードもあった。特に、呉子杵との身の振り方のコントラストも痛烈だった。新王に変わったらさっさと隠遁してしまおうとする孫武とあくまでも呉にすがりついて助けようとする呉子杵の姿勢と生き方の違いがとても印象に残った。あの時、孫武が呉に残っていたら、と思ってしまった。