あらすじ
雨の音を聞きながら、静かな森の中を進んでいく大学時代の同窓生たち。元恋人も含む四人の関係は、何気ない会話にも微妙な陰翳をにじませる。一人芝居を披露したあと永遠に姿を消した憂理は既に死んでいた。全員を巻き込んだ一夜の真相とは? 太古の杉に伝説の桜の木。巨樹の森で展開する渾身の最高長編。
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Posted by ブクログ
結局、三顧の桜や節子の高所恐怖症については真偽が分からなかったが、とても面白かった。
恩田陸の描くキャラクターはみな分析が得意だと私は考える。
他人がどういう人か、自分はどんな人か。
人間関係に限らず、過去や現在、そして未来までも詳しく考えることができる。
それがこの本や他の恩田陸の作品の魅力の一つであると私は考える。
・関係が気まずくなった時に、男は口を開くことが苦痛になるが、女は沈黙が苦痛になるらしい。
・実際に付き合ってみるということは、憧れていた対象が自分のところに降りてくるということだ。
それは素晴らしい体験ではあるが、同時に幻滅でもある。
・女は場所や雰囲気に共鳴することを拒まないが、男はそれを拒むのが習性になっている。
・森は様々なものを捨てる場でもある。白雪姫も、ヘンゼルとグレーテルも、森の中に捨てられた。
・友達が欲しいと目を血走らせている人間を、人は拒むのだ。
もの欲しそうな人間を、人は敬遠する。お願いですからお金を貸してくださいと頭を下げる、
本当に今そのお金を必要としている人にはお金を貸したがらない。
・心を救うために、人は「慣れる」という業を用意している。
・あたしたちは時を変え場所を変えて、何度も同じ人と巡り合っているのかもしれないのだ。
水が循環していることを考えれば、新しいものが次々と生まれていくというよりも、
生命も循環していると考える方が自然なのではないか。その方が救われる。
今失おうとしているものも、いつかまた戻ってくる。
・誰もが心の底に喪失の予感を持っていて、それが実現すると「やっぱり」と納得してしまう。
だからこそおとぎ話の最後のフレーズは「いつまでも幸せに暮らしました」なのだ。
・あたしたちは誰もが森を持っている。
あたしたちは森の中を歩く。地図のない森を、どこへ続くかわからない暗く果てしない森の中の道を。
あたしはこの森を愛そう。木々を揺らす風や遠い雷鳴に心を騒がせながらも、
一人どこまでもその森を歩いていこう。いつかその道の先で、懐かしい誰かに会えるかもしれないから。
あたしたちはそれぞれの森を歩く。誰かの森に思いを想いをはせながら、
決して重なり合うことのない、幾つもの森を、ついに光が消え、木の葉が見えなくなるその日まで。
Posted by ブクログ
上巻の2人よりも何を考えてるかよくわからない蒔生と節子メインの下巻がやっぱり好き。
読者からわりと嫌われてるけど蒔生の性格はちょっと羨ましいと思ってしまう。節子もメイン章になるまでわからなかった薄暗さのある強さに憧れてしまう。
蒔生の51歳の誕生日版も出ないと思うけど読んでみたい。今度は潔込みの5人で屋久島に行って欲しい。あと蒔生は再婚しないで欲しい。
Posted by ブクログ
予備知識が無く読んでいて、途中であれ?って思って書棚へ。
「三月は深き紅の淵を」と「麦の海に沈む果実」の関連本でした。
明確に続編とあるわけではないのだけれど、『黒と茶~』を読む場合はこの2冊必須かも。
あとは物語にぐいぐい引き込まれて一気読み。
相変わらずこのシリーズは読み終わったあとも濃厚な気配が残っているような、そんな本でした。満腹。
Posted by ブクログ
1章はなかなか読み進めるのが大変だったが、2章の彰彦の章から色々な隠された過去の事実が明らかになっていって手が止まらなくなった。
下巻はいよいよ、「蒔生は憂理を殺したのか?」問題が明らかになるのだが……その謎はちょっと消化不良だったかも。
蒔生は、利枝子にまだ何か隠していそうな気がしたんだけど、憂理を無理やり犯した、ということだけだった。
「魂の殺人」と言われるくらいなので(しかも男性が恋愛対象ではない)、殺したと言ってもいいのかもしれないけど。
そして最終章の節子。
なぜ彼女が最後なんだろうと思ったけど、彼女によってもう一段階利枝子と蒔生の解像度が上がる、そして現実に引き戻される、という仕組み。
Posted by ブクログ
大学の同窓生4人が一緒にY島を旅行しながら、上巻では、利枝子、彰彦が、下巻では、蒔生、節子がそれぞれ語り手となり、"美しい謎"をテーマに様々な話をしたり、過去の出来事について記憶を辿ったり、自己&他者分析をしたりする様子を描いたストーリー。
前半は、どんな暗い過去があったのか、とハラハラするシーンが多かったが、最後は少しホロッとさせられた。
あ~、屋久島に行きたい!
Posted by ブクログ
上巻を読んだ勢いのまま下巻を読み終えました。
私の中では彰彦の話がトップで興味深く、利枝子、蒔生、節子の順で面白く感じました。
といっても、節子の話がつまらなかったわけではなく、この4人には節子は必要だし、何も深みがなさそうだと思っていた(失礼!)節子にも則夫の死期が近いことなど、人には人の事情がしっかりと根底にあることを思い知りました。
学園にいた時の憂理を好きな人にとっては悲しい思い話でもあったかと思います。やはりあの学園自体が異質で、あそこにいた子たちは幸せになることができないというのを、憂理の最期を知る事で垣間見てしまった気がしました。
北海道にある学園の濃霧が立ち込める雰囲気と、屋久島の自然の中のむっとした水分量が多い空気感が、距離はすごく離れているのにどこか通じ合っていました。
4人がそれぞれ片思い(と一括りにして良いのかわかりませんが)をしているというのも、若い頃のドロドロした感情の片思いとは違い、どこか割り切ったすっきりとした片思いをしている4人で気持ちよく読むことができました。屋久島の壮大な自然描写も相まってそう感じたのかもしれません。
既婚者で子どももいるような男女の大人4人が屋久島に行くというのは非現実的で、飲み会でさくっと決まる話ではないとは思いますが、もしこんなことがあったら面白いですね。でももし夫が参加すると言った時、快く送り出すことは出来ないと思います・・・。